第6話 ジョブスキル【テイマー】
叩く、逃げる、叩く、逃げる、溜めを作ったら一拍おいて避ける。もはやリズムゲームの様相を呈してきたが、着実に金は貯まっている。
残高:96400円
「あと少し……あと少しだ……」
全身汗だくになりながら呟く。すでに足はふらつき、筋肉は悲鳴を上げて、木刀がダンベルみたいに重く感じる。筋肉を癒やすためか、はたまた限界を突破しているからか、少し前から一秒ごとに残高が10円ずつ減っている。
命を削っている。
十二歳の体力を完全に見誤っていた。もしかすると、【
何度も何度も【
残高:99350円
「あと少し!」
俺が叫んだ瞬間、スライムが震えだした。これはさっきも見たことがある。このタイミングでレベルアップかよ。格段に俊敏になり、さらに身体が大きくなるはず。解ける液体以外の攻撃手段だって手に入れてしまう。
その前に、けりをつける。
ほとんど呻くようにして、木刀を振り、震えて暴れるスライムの身体にヒットさせる。
残高:102350円
「よし! ジョブスキル【テイマー】解放!」
『ジョブスキル【テイマー】取得に必要なスキルツリーを解放します』
パタパタとスキルツリーが自動で解放されていく。
【
└《
【
└《契約魔法》:Lv1
└《呪術》Lv1
└《魔物契約》Lv1
残高:2330円
『ジョブスキル【テイマー】を解放しました。対象の魔物に照準を定め、テイムと唱えてください』
俺はスライムの方へと手をかざし、狙いを定めるようにして叫んだ。
「テイム!」
残高:1330円
「嘘だろ! 残高消費すんのかよ!!」
その上、
『テイムに失敗しました』
無情に、無機質に、表示は事実を突きつける。
スライムはついに俺の木製ベッドをまるごと飲み込み、それだけじゃ足りないのだろう、俺に向かって突撃してきた。
ヤバい。残高はすでに残り少ない。突撃を避けるにはあまりにもスライムはでかくなりすぎている。飛び越えれば避けられるだろうがすでに俺の足にその脚力はない。
「……やるしかない」
俺は木刀を思い切りスライムに投げつけた。回転してそのままぶつかり、ぼよんと跳ねてスライムの向こう側に落ちる。それでも、残高はかろうじて回復する。
残高:3320円
「テイム!」
『テイムに失敗しました』
残高:2310円
スライムの冷たい身体が近づいてくる。
「テイム!」
『テイムに失敗しました』
残高:1310円
ぐわっとその体が縦に伸びて俺の身長を超える。
「テイム!」
瞬間、スライムの身体がびたっと止まる。
『テイムに成功しました』
残高:300円
俺はその場にへたり込んだ。あぶねえ。縦に伸びたスライムは未だブルブルと震えていて何か食うものを探してるみたいだった。
「ダンジョンに探しに行ってくれ。ああ、その前に俺の残高増やさないと」
一秒ごとに10円ずつ減っているのは変わらない。俺は這うようにして、スライムの脇を通り、木刀を拾うとスライムを叩いた。
残高:250円
「え? なんで増えない?」
叩く。叩く。
残高:240円→230円
あざ笑うかのように、ポンッと表示が現れる。
『テイムした魔物への攻撃は残高に反映されません』
「う……嘘だろ?」
ポロリと木刀を落として、俺はその場に倒れた。ダメだ。限界だ。テイムが完了した瞬間に緊張の糸は完全に切れて、操り人形が倒れるみたいに俺の身体には力が入らなくなる。とうの昔に限界を超えている。
残高は減り続ける。
残高:200円→190円→180円
止まれ止まれと念じ続ける。このまま眠ってしまえば止まるかもしれないがその前に残高が尽きてしまいそうだった。
残高:170円→160円→150円
ようやくスライムをテイムできたと思ったらこんな終わりかよ。
眠い。瞼が重い。
残高:140円→130円→3120円
「え?」
突然残高が増えて、閉じかけていた目を開く。なんだ? 何が起きた? すでに首を動かすのも難しいくらい体力は消耗していて、目だけであたりを見回したが解らない。
俺は何もしていない。
そう、
『うまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうま。おなかぺこぺこ』
頭の中で念話みたいなのが聞こえる。牢の中で食うものがなくなったスライムはどうやらダンジョンに戻って魔物を食い始めたらしい。つまり、どうやらテイムしたスライムの攻撃力まで、俺の残高に反映されるらしかった。
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