第3話 ダンジョンって地下牢って意味らしいですよ

 伯爵家の地下牢はダンジョンに繋がっていた。地下牢ダンジョンだ。とは言え、ダンジョンは元々地下牢という意味なので、これは同じことを二回繰り返している。チゲ鍋とかサルサソースとかゴビ砂漠と同じだ。



「ともかく地下牢ダンジョンだ」



 と、ダンジョンから逃げ帰り地下牢に戻って呼吸を荒くして言う。いや、マジで怖かった。あの後、洞窟の奥の方から魔物が殺される断末魔みたいな鳴き声が聞こえてきたかと思うと、ダダダダっと明らかに人間じゃない足音が迫ってきて、俺は慌ててスライムを蹴り上げて穴に戻り、この地下牢へと逃げてきた。



「こっわ。死ぬかと思った。と言うか何でこんなところにダンジョンが?」



 気づかないとか伯爵アホだろと思ったけど、いや、アイツは気づいてるはずだ。天才魔法使いが気づかないはずがない。単純に潔癖すぎて地下牢に入りたくなくて放置してるんだなきっと。あいつならいつでも対処できるし。運良く俺がこの穴に気づいて逃げ出したら、ダンジョンの魔物が厄介払いしてくれて万々歳って計画だろ。


畜生、逃げる道だと思ったのによ。

 

 ここにいても死ぬし、ダンジョンに潜っても死ぬ。

 状況は絶望的だ。

 太もも成分を補給したい。


 このゲーム、ヒロインたちも悪役も太ももが麗しいんだよな。転生前は全ての太ももシーンをスクショするためにストーリーを何周もして情報覚えまくったぜ。せっかくそんな世界に来たんだから太ももたちを拝むまでは死んでも死にきれない。と言うか、触れられるのなら触れてから死にたい。



「太ももタッチコンプリートしてから死んでやる」



 いや、ちゃんと伯爵もぶっ飛ばすよ? 心配するなハル。母親とお前の恨みはきっちり晴らしてやる。アクセルのことも気になるっちゃ気になるからな。太ももタッチコンプリートは全部終わった後の話だ。こういうこと考えなきゃ心が鬱々としちまう。


 八方塞がり気味だからな。

 ちゃんと考えろ俺。


 さて、太ももタッチコンプリートのためにはここからとっとと逃げ出す必要があるが、問題は俺のダメージが0ってことだよな。なんだよダメージ0って。



「そのくせ、俺はがっつりダメージ喰らうからなあ。防御力とか上げればくらわなくてすむのか?」



 残高が表示されたときに一緒にステータスが表示されるのは確認していたので改めて見てみる。


 

=========


 レベル  :1

 攻撃力  :200

 防御力  :400

 魔法攻撃力:100

 魔法防御力:100

 敏捷   :300


 状態   :奴隷契約Lv.3(所有者 リンデン・ガストレル)


=========



 どうして攻撃力があるのにダメージが0なのかは不明である。全く以て意味がわからん。このままじゃダンジョンから逃げるにしても伯爵ぶん殴って逃げるにしても倒すという行為が全くできない。


 いや、倒さなくてもいいのか。敏捷を上げてゴキブリみたいに逃げまくればいい。どうやって上げるのかは知らないけど。反復横跳びでもすればいいのか?



「逃げられるようになるまでどれだけ時間がかかるんだ? はあ……残高がもう少しあれば……」



 俺は溜息をついて、ふと残高を見た。



 残高:30200円



「………………あれ!? 200円増えてる!? いつの間に? っていうか残高って増やせるのか!?」



 いつ増えたのか全く解らない。時間経過で増えるのかと思ったが待てど暮らせどそこから残高が増える気配はない。と言うことは俺が何かやったから増えたんだろうが、なんだ、何をやった俺。


 残高の正式名称は命の残高らしいから宗教的に考えれば善行をやれば増えそうなものだけれど、この短い間俺はずっと一人だったので誰に対してもなんの善行もやっていない。というか、奴隷かつ地下牢に監禁されている俺はどちらかと言えば善行を受ける側の立場な気がする。



「誰か助けてくれ」



 誰も助けてくれないことは重々承知しているので、とにかく俺は考える。伯爵に殴られてこの地下牢に放り込まれ、回復し残高三万円になったあとにやったことと言えば、ダンジョンに繋がる穴を見つけてそこに入り、数秒いて、戻ってきたことくらい。



「ってことは、ダンジョンに入れば残高回復するのか」



 そう思って、もう一度、ダンジョンに繋がる穴を開くと、




 スライムが詰まっていた。


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