第4話 残高は増やせる!

「ぎゃああああ!」



 きっと俺が蹴り飛ばした腹いせに追いかけてきたんだろう。なんとも律儀に恨みを晴らしてくれる奴だぜ。元々細い穴にこれでもかと言うほどみっちりと詰まっているもんだから俺の力では到底押し返せない。と言うか多分、スライムもどうしていいか解らなくなってる。そのくらい詰まってる。入ったらどうなるかわかるだろ、考えろバカスライム。



「邪魔だ馬鹿野郎。どけ!」



 蹴る。蹴る。

 ぼよよんぼよよん。


 もちろん俺の攻撃ではダメージは0なのでぷるぷるとスライムは揺れるだけで一向に戻る気配がない。というかむしろ、俺が地下牢側の岩をどけてしまったせいでスライムは活路を見いだして地下牢側に這い出てこようとしている。



「勘弁してくれええええええ!」



 蹴りを入れて押し戻そうとするけれど、不定形のスライムにそんな努力が通用するはずがなく、ずるりと地下牢に入ってきてしまった。ダンジョンに帰れよ。ここは俺の部屋だぞ。さらに、あろうことか、領土侵犯したスライムは俺という先住民に向かって攻撃を仕掛けてきた。


 ぼよんと跳ねて俺の腕に貼り付くと、じゅわじゅわと皮膚を溶かし始める。



「痛ってええええええ! やめろ! 俺の残高が!」



 HPではなく残高と言い続けているあたり俺も相当だけれど、まあ同じ意味なので深くは考えない。スライムをなんとか剥がしてぶっ飛ばすと、残高を表示させて、眉間にシワを寄せる。



 残高:33000円→32800円→32600円、ストップ。



「え?」



 30200円だったはずなのにいつの間にかまた増えてる。直後に溶かされて減り始めたのでわかりにくいけど。ダンジョンに入ってないのに何でだ?


 そう考えている間にもスライムの追撃は止まない。ビヨンとはねて飛んできたので今度は貼り付かれる前に蹴飛ばした。瞬間、表示したままになっていた残高の数値が変わる。



 残高:32800円



「俺が攻撃すると残高が増えるのか!」



 思えば最初にダンジョンに入ったときも、俺はスライムを踏んづけたあと蹴飛ばして無自覚に攻撃してたんだな。だから200円増えてたんだ。はー理解理解。そんで、その200円って多分、攻撃力と同じ値だろ。


 そう考えて、伯爵が置いたであろう木刀を手に取り、スライムを殴りつけた。


 残高:33800円


 木刀分攻撃力がプラスされて1000円増えてる。



「ダメージ0だから攻撃力意味ないと思ってたけど、攻撃力分が残高に入ってたのか」



 俺はスライムを見下ろす。ただの領土侵犯の邪魔者がだんだん金に見えてきた。



「いまから俺はお前を殴る。殴って殴って俺の残高にしてやるぜ!」



 と、宣言した瞬間、スライムがブルブルと震えだして、俺の寝わらを食い始める。安眠妨害は止めてください。最初から安眠じゃないけど。親の敵かというくらいむしゃむしゃと食って、あっという間に透明な身体の中で消化されていくのが見えた。


 それでも足りなかったのか、スライムはいままで見たことないスピードで俺に近づいてくると腕にへばりついてぐんぐんと皮膚を食い始めた。



「ぎゃああああ! 離れろ!」



 ぶんぶんと振ってようやく剥がす。俺の腕、血まみれ。残高が消費されてあっという間に回復したけれどその表示からどれだけの怪我だったかが如実に解る。


 残高:22800円



「一万円分も食いやがって! 寿司屋か!」



 俺はスライムを睨みつけたが、その瞬間、ブルブル震えていたコイツは突然ぐんっと大きくなった。明らかに一回り身体がでかくなっているし、その上、さっきよりも動きが俊敏になっている。



「レベルアップ!? もしかして、俺が殴ったからってこと!?」



 喰らうダメージ0で経験値うまうましてんじゃねえよ。お前にしか得がねえじゃねえか。俺がテイムしてるんだったらそれで育ててやるのによ!



「俺にテイマーのジョブスキルがあれば!!」



 そう叫んだ瞬間、ぽんっと目の前にステータスが表示される。



『ジョブスキル【テイマー】取得に必要なスキルツリーを解放しますか? 必要金額:100000円』



 ……なんだこれ?

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