30 自覚 エディside

30


 

 カレンに『このくらいのことで過保護めんどい』やらなんやらと、不平不満を言われたが。  

 なにかあってからでは遅いと、カレンに治癒魔法を重ねがけしてから部屋に戻した。

  

 そしてエディは一人、屋敷の庭でタバコをふかし、失わずに済んだ安堵感に大きく息を吐いた。


 カレンが意識を取り戻して本当によかった、もしあのまま目を覚まさなかったら。

 考えただけで頭がおかしくなりそうになる。


 でもあれは、バレたらまずい。

 口移しでポーションを飲ませたってこと、もし気付かれでもしたら。

 

 カレンの場合、キレて騒ぐ。

 それにいくら緊急時で仕方なかったと説明しても、聞き入れてくれそうにはない。


 口付けの責任を取れと言うなら喜んで取るのに、取らしてなんて貰えないだろうけど。 

 

(だって俺のこと、キモイとか言ってたし!? っか地味に傷付くんだけど……アルスの令嬢達には人気結構あるのになぁ、俺)

 

 それにどうせならちゃんとしたかった。

 焦っててあんま覚えてねぇし……!

  

「はー、でも。本当にどうしようか……」


 気付いてしまった。

 気付いてはいけなかった。

 この想いを自覚なんてしたくなかった。

 

「あれ、野生児なのに、……最悪」


 どんなに願おうと彼女の隣に自分は立てない。

 その想いは決して報われる事はないし、欲しいなんて願う事すら許されない。


 隠し通さなければいけないこの感情。

 

 たかが一国の貴族という身分だけじゃ、英雄である彼女には到底釣り合わない。 


「もしカレンが公爵令嬢のままだったら……? いや、その場合は皇太子の嫁か。元々は皇太子妃に成るために産まれてきたんだから……せめて王なら」


 彼女は自分は平民だと言うけれど。

 国の連合が発行した特例特権を持つ時点で、カレンは一国の王より上の身分。


「ただの平民なわけねぇだろ、馬鹿カレン」


 ただイクスに身分制度がなかっただけ。

 

 じゃなきゃ俺が迎えに行ってる間。

 転移装置をいつでも起動出来るように、初期起動し続けるような事はしない。


 国境門も通常では考えられない早さで開いた。

 国境門を開くまでには通常、半日以上は余裕でかかるというのに。


「あー……本当に最悪だ」


 と、エディは一人ごちる。 

 決して報われない想いを自覚して。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る