28 カレンの錬金術
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まあ、古代式の危険な錬金術やるやつなんて。
普通いないけど、エディには黙っておこう。
古代式は危険だけど、こっちの方が効率がいいんだよね?
……色々と。
◇◇◇
「っ……!? ど、どうしていきなり脱ぎ出して……」
「ん? だってこんなの着ていたらやりにくいし? 汚しちゃうし? だから退室してって言ったのに、エディのえっちー」
カレンはドレスを豪快に床に脱ぎ捨てて、下着姿になった。
その下着姿は心許なくて。
男の前でそんな格好になるなんて、まるで襲ってくれと言っているようなもので。
エディは目のやり場が無い。
「じゃあ……始めるから大人しくしててね? 何があっても絶対に動いちゃだめだよ? 大丈夫だから」
カレンがそう言ってニコリと笑う。
だが前回とはまるで違って、陣を描く布も出さずそこにはインクすらない。
それに、いつもとはまるで違う感情の抜け落ちたような冷たい表情のカレンに。
……エディは嫌な予感がした。
カレンの手には小さなナイフが握られていて。
その嫌な予感が最悪の事態を予想させる。
エディは咄嗟に椅子から立ちあがろうとするが、身体が全く動かない事にようやく気づく。
「あの馬鹿! なにか仕掛けやがったな!?」
と気づいた時には、もう遅くて。
握りしめていたナイフの切っ先を、ゆっくりと流れるような動作でカレンは自分の首に押しあてた。
カレンを今すぐ止めなくてはいけない。
そう思うのに、身体はまったく動かなくて背筋には嫌な汗が滴る。
なにか聞き取れない小さな声でカレンは呟き。
首の頸動脈を的確にその鋭い切っ先で、自らの手でざっくりと傷つけた。
――瞬間。
首から血飛沫が盛大にあがる。
何が起きたのか、何をカレンが行ったのか。
一部始終この目で見ていたはずなのに、エディは理解が追いつかない。
「は? え……? か、れん」
そしてゆっくりと床に崩れ落ちるようにカレンは倒れこみ、そこには血だまりが出来上がる。
「あ、嘘……? なんで」
そしてその血液が意思を持ったように、するすると勝手に動きだした。
床に広がる赤い血液は、ゆっくりとカレンを中心にして巨大な陣を描きだし始めた。
カレンの大量の血液で描かれた陣は。
大広間を改装したこの部屋いっぱいに広がり。
赤い赤い血液だけで描かれたそれは、発光し床から浮かびあがる。
そして複数の陣が次々と浮き上がり散らばり重なり変化し、また一ヶ所に集まり。
カレンの身体に吸い込まれるようにして終息した。
それは終わった様に思えるのに、カレンは床に倒れこんだままピクリとも動かない。
彼女のそばに行こうと動こうとするが、まるで縫い付けられてるかの用に動かない身体。
必死に動かそうとしていたら何故か急に身体が動けるようになり、椅子から崩れ落ちる。
「……っカレン!」
彼女の元へ一目散に駆け寄り、床から抱き起こすがその身体は動かない。
急いでカレンに治癒魔法を何度も重ねてかけて、首もとの傷を塞ぐ。
さっきまで無邪気に笑顔を浮かべていた。
なのに今は血の気を全く感じられない。
カレンを失ってしまう恐怖に、精神を一瞬にして蝕まれる。
ああそういえばカレンにポーションをもらっていたと、エディは思い出して。
いつも持ち歩いていたそれを飲まそうとするが、意識がないカレンは飲んでくれなくて。
「……後で怒るなよ?」
彼女にもらったポーションを自分の口に含み、ゆっくりその唇に押し当てて口移しで飲ませてやる。
柔らかい彼女の唇は冷たくて。
一口、また一口と何度も何度も彼女の唇に自分の唇を合わせ彼女の口内に流し込む。
「……ポーションが効いていない?」
(意識が戻らない)
だんだんと冷たくなる身体。
全てのポーションをエディはカレンに飲ませたが、一向に目覚める気配がない。
さっきまで笑っていた。
軽口を叩いていたのに、なんで……?
こんな危険な事をすると知っていれば、わかっていれば決してやらせたりはしなかったのに。
錬金術とはここまで危険なものなのかと、彼女の小さな動かなくなった身体を抱きしめて温める。
「カレンっ! 逝かないでくれ……!」
もう、どのくらいそうしていたのか。
最悪の結末が脳裏に浮かぶ。
自分の腕の中で、まるでただ眠っているかの様な冷たくなってしまったカレンを温めながら、本当に大切な愛しい存在になってしまっていたと。
自覚する。
「カレン、起きて……? 頼むからっ」
「えー……やだなぁ? ちょっと貧血気味なのでもうちょっと寝ていたい、のだけど?」
「っあ……」
「あれ? どうしてエディ泣いてるん? ……え、大丈夫?」
「っこの……馬鹿っ!」
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