26 唯一に誓う
26
「ガルシア公爵、お久しぶりでございます。隣の屋敷に……我が主人が居を移されましたので、そのご挨拶に伺いました」
「やぁ、わざわざありがとう? 先月の定例会議以来だね。あれからいろいろとあって君も大変だっただろう?」
「……いえ、英雄様にお仕えさせて頂き、感謝する毎日でございます」
「そうかい? まぁ、なんだありがとう。彼女を、うん。私達はなにもしてやれないから……本当にありがとう」
「はい、こちらこそありがとうございます、色々便宜を図って頂いたみたいで」
「そんなことはないさ、私にできるのは些細な事だけだからね」
――バンっ!
そう荒々しく扉を開けるのは、カレンと同じ癖のあるハニーブロンド。
その美貌は傾国とまで言われ、今でもその美しさだけは何も変わらないガルシア公爵夫人。
「貴方! リュスティーナは、どこ……?」
「マリアンヌ……」
「公爵夫人」
「あの子はここに来ていないの? 会えると思っていましたのに! あらオースティン騎士団長、私のリュスティーナを護衛して頂いてるとお聞きしましたけれど……?」
……だが。
子の一人が国外追放となり心が壊れてしまった。
「ガルシア公爵夫人、申し訳ございません、主人は屋敷におりますのでお会いすることはできません」
「あら? お屋敷にあの子一人でいるの? それは寂しがっているわ、直ぐに会いにいってあげなきゃ……」
「ガルシア公爵夫人、それはできません。主人にカレン・ブラックバーン様にお会いさせることはできません」
「え……なにをいっているの騎士団長? あの子はリュスティーナは私の娘なの! 私に会いに、私と暮らすためここまできたのよ!」
「……カレン様は、ガルシア公爵家に、ご両親にも妹君様にもお会いなさるつもりもございません」
「なにを!? お前っ! 私とリュスティーナを、引き離すつもりね?! なにを企んでいるの!」
ガルシア公爵夫人が掴みかかってくる。
……が、その細腕は公爵に止められた。
「マリアンヌ! 止めなさい!」
「貴方? どういたしましたの? 私達のリュスティーナをこの男は監禁しているやもしれないのに!」
叫び取り乱し始めた公爵夫人に、どう接すればいいのかわからない。
「マリアンヌ止めなさい。オースティン君挨拶ありがとう。また何かあれば私に出来る事ならなんでもしよう。今日はすまないね」
「貴方! イヤ! その男を捕まえて! リュスティーナが! 私のリュスティーナが!」
泣きじゃくり暴れだす夫人を公爵は抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だよ? あの子はリュスティーナは大丈夫だから、ほら、マリアンヌ落ち着いて……? 大丈夫だからね」
一礼し、ガルシア公爵家の応接間を後にした。
◇◇◇
「想像以上に疲れた。噂には聞いてはいたが、あそこまで病んでいらっしゃるとはな」
ガルシア大公爵夫人は魔力無しの烙印を押され国外追放された娘の事になると見境が無くなられる。
という噂は本当だったらしい。
最近はマシになったと聞いていたが、あのカレンへの異常な執着心どう対応したものかとエディは頭を悩ます。
今さら、私の娘だ返と騒ぎたてた所で。
カレンにはアルスの国籍すらないし法的にも、もうガルシア公爵家とは何の関係もない。
それにカレンはもう普通の少女でない。
下手なことをすればカレンの名誉を傷つけたとして、英雄に救われた人々から世界から糾弾されるだろう事は想像に容易い。
本人も接触するのを嫌がっているし、なるべく関わらせないように配慮しないといけないなと、考えながらガルシア公爵家から屋敷に戻った。
そして屋敷で留守番をさせていた、その話の中心人物であり、この屋敷の女主人の部屋の前で。
一呼吸置いてから扉をノックし入室した。
「……いねぇ。どこいったあの自由人」
正直よくあのズボラで態度も大きく、やりたいことだけやって生きるを実践してる人間があのガルシア公爵夫妻の娘だと言うことに疑問を感じる。
屋敷内を勝手にほっつき歩いているだろうその女主人を探し、近くにいた使用人にあの自由人を見ていないか聞くとすぐに居場所がわかった。
聞いた場所に向かえば、中から楽しそうに談笑する声が聞こえ。
入室すればそこはこの屋敷の厨房でカレンは料理長やメイド達に囲まれながら、厨房で椅子に座り。
調理台をテーブル代わりにして談笑しながら、お目当ての人物は食事の真っ最中だった。
お前さっき大量に食ったばかりだろう……!?
「んー! これ美味しーよ! トーマスおじさんおかわりー!」
「かしこまりましたお嬢様、すぐ追加でお作り致します!」
「お嬢様、こちらの果実ジュースもどうぞ!」
「ぷはー! 甘酸っぱ最高!」
なんだろこいつら?……
人がヤベェのに絡まれて疲れてるのに。
……楽しそうだな、おい?
「……カレンお嬢様? ただいま戻りました。」
「ん、おつかれ! エディこれ美味しいよ? 食べる?」
「いいえ、それより大人しくなさって下さいと私があれほど」
「大人しくしているよ? ちょっと散歩してたら厨房に着いちゃってね? トーマスおじさんと話してたらお腹空いて軽食つまんでただけよ?」
そして私はイイコだ。
褒めろと言わんばかりのドヤ顔で、カレンは見上げてくる。
育つ場所が違うだけであの血筋がここまで自由に進化を遂げると誰が想像しただろうか?
性格は明るく天真爛漫で。
誰とでも貴賤に関係なくすぐに打ち解けて、平等に振る舞う。
口は悪いし態度も無駄にでかい、その辺に服や靴はポイポイ脱ぎ捨てる。
俺の事をおっさん扱いしてくるし……!
本当にあのガルシア家の血縁かと時折疑うが、完全にガルシア公爵夫妻の血を引き継いでいるであろうその美貌。
ハニーブロンドの癖のある髪にサファイアの様なブルーの瞳、ぷっくりした小さな唇。
そしてまだ幼さの残るその顔立ちは男の庇護欲を大変そそり、そして小さな身体にアンバランスで豊かな胸元。
本当に容姿だけなら一級品なのに、全てを台無しにするその言動。
本当にどうにかならないものかと頻繁に思うが、英雄に上り詰めさせた錬金術師としての才能をもつ私の生涯唯一の主人。
いま一度その笑顔に誓う、貴女のこれからの歩みに私も付き従い命に代えましても貴女を護り支えることを。
……それにしても、この馬鹿食いすぎじゃね?
……腹壊すぞ?
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