25 生き別れた親子
25
愛する娘が。
死病カトレアの特効薬を開発したと、遠隔映像装置水晶が知らせてくれたあの日から。
私達家族の世界に彩りが取り戻され、止まってしまっていた時間がゆっくりと流れ始めた。
あの映像を一目みて、この子は私の可愛い娘リュスティーナだと直ぐにわかったわ。
それからは娘の会見映像を何度も何度も見返して、カレン・ブラックバーンという名前を新聞で探した。
クリスティーナも一緒になって探してくれて、悲しみに暮れていた日々からは想像も出来ないような幸せな毎日。
夫も王宮でリュスティーナの開発した薬がどんな風に世界の人々を救っているのか聞いてきてくれて、家に帰ると私に話して聞かせてくれた。
――それから数年。
家に籠りきりだった私はリュスティーナの話がしたくて、聞きたくて。
社交界にまた顔を出すようになったの。
全てはリュスティーナのおかげ。
あの子が頑張って私達の為にその姿を見せてくれるなんて、嬉しくて嬉しくて。
今は水晶越しにしか貴女に会えないけれど、いつか会いにきてくれるって思っていたら。
奇跡が起きたの……!
私のリュスティーナに、魔力が発現したという素敵な報せを夫が持ち帰ってくれた。
そしてそのリュスティーナを迎えにオースティン大公爵家の嫡男であるエディ・オースティン騎士団長が職務を辞してまであの子のもとへ向かったと!
まあまあまあ!
公爵家嫡男ならリュスティーナの伴侶にも相応しい家格だし、あの方は剣神とまで呼ばれるようなとても強い方。
きっとリュスティーナを大事に守ってくれるって、私は確信したわ!
ああ!
リュスティーナが私達の元へこのアルスに戻ってくる、いつ会えるのかしら?
お部屋の準備をさせなければいけないわね、あの子が着るドレスや飾り物の手配も必要だし?
やることがいっぱいじゃない!
……なのに、どうして?
我が家に帰ってくると思っていたのに。
どうして、どうして、どうして……?
名前もねリュスティーナに戻してあげようと思っていたのに、お部屋の準備もさせていたのに。
リュスティーナは私達に会うことを望んでいないし、一緒に暮らすつもりはない。
と、王宮を通じ知らされた。
もしかして私達が貴女を捨てたと思っているの?
違うの、貴女は奪われたのよ!
そして国王陛下への謁見も、アルスに入国したのになくなったと。
その場に駆けつけて抱きしめてあげようと、そしてそのまま家に連れて帰ろうと思っていたのに。
でもそれはリュスティーナの照れ隠しだった。
だって、リュスティーナの住む屋敷が我が家の隣になったのだから!
隣の屋敷に見学に来たリュスティーナの姿に、喜びで涙が頬を伝う。
娘はとても愛らしい淑女に成長をしていて。
馬車を降りて抱きしめて家に連れ帰ろうと思ったのだけれど、何故か一緒に乗っていた夫に止められたわ。
でももうすぐ貴女に会えるの!
早く会いたいわ、私のリュスティーナ。
◇◇◇
「そうだわ、ねぇカレン」
「なーにー?」
昼ご飯にサンドイッチとベリーソースのミルクアイスを軽く三人前食べて。
ご機嫌にゴロゴロを満喫しつつ、注文してた古代書の書物を読む素敵な午後。
「ちょっと私ね隣のガルシア公爵家にご挨拶いってくるわ、貴女も……行く?」
「いってらっしゃーい! 私は絶対行かないよ? 貴族となんて仲良くしたくない!」
「……そう言うと思ったわ。じゃあ屋敷で大人しくしてなさいね? 使用人に迷惑かけにいっちゃだめよ?」
「私をなんだと思ってんだよ? ったく……こんなイイコ他にいないよ? ん?」
「はあ、じゃあいってくるわ」
「はい、いってらっさい!」
ため息をつきながら部屋を出ていくエディの後ろ姿を、見送る。
ため息ついてると幸せ逃げちゃうぞ?
「……やだよ、アイツらになんて会うの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます