23 錬金術師のお世話係

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 この日カレンは。

 魔王のような微笑みを浮かべたエディに。


「絶対に一言も喋るなよ? もしもハイ、イイエ以外の言葉を口にしてみろ? 風呂でお前の身体、ピカピカになるまでたっぷり時間をかけて磨きあげてやるからな?」


「あれ? エディ、オネェはもうやめたの?」


「……少しお黙りになって下さる?」


 などと言って脅され、改装工事の終わった屋敷まで馬車で連れて来られた。 



 そして連れて来られた屋敷では、使用人が沢山いるなぁくらいの感想しか浮かばず。


 気が付いたら部屋に放り込まれていた。


 そして放り込まれた部屋は、まるで童話の中のお姫様の部屋のような可愛らしい部屋で。


(え? 私、これ使って今日からここで寝るの? これ、なんていう羞恥プレイ……?)


「うん。アイツほんとさ? 私の扱いなかなかにひでぇよな? クビにしてぇ、まぁ私が雇った訳じゃないけど? 勝手に就職してきたけど? 面接も書類選考もないし、押し掛け女房ってやつか? ほんとチェンジできねぇかな? でもあれって誰が給料払ってんの?」


 カレンは一人悪態をつき。

 天蓋付の巨大な寝台に寝転がり、歩きにくいミュールを寝たまま脱いでそのへんに適当に投げて。


「あーだる。寝よ」




◇◇◇





「なんでちょっと目を離しただけで、爆睡してんの!? ああ、せっかく可愛くしてあげたのに!」


 使用人達と最終確認をして、これからの予定を伝えカレンの昼食を用意し戻ってきたら。 

 寝台の周りに靴を脱ぎ散らかし。

 可愛く結ってあげた髪をぐちゃぐちゃにして寝こけている、天才錬金術師の姿があって。

 

 これから一生をかけて仕え守ると決めたけれど、その光景にエディは一瞬決意が揺らぎそうになった。


「ふぁ、んー? ママ……」


「私は貴女のママじゃありません! 寝ぼけてないで起きなさーい! いくらなんでも寝すぎよ!」 


「でも、起こし方ママそっくり……」


「……って、スカートで胡座かくんじゃありません! こんの野生児……!」

 

 カレンは見た目だけなら一級品。

 ただそれは、美男美女と知られるガルシア公爵夫妻の娘だから当たり前。

 

 ……けれど。

 淑女の鏡とされる、クリスティーナ公爵令嬢の双子の姉がコレだなんて。 

 どんな育ち方をしたらあの血縁がこうなるのかと、エディは不思議でたまらない。


「あ、カレン! 待ちなさい、ほっぺにソースが付いてる、もう仕方ない子ねぇ? ほら、ゆっくり食べなさい、誰も取らないから」


 だが一番不思議なのは。

 カレンの世話を甲斐甲斐しく焼くエディの姿だろう、だってこの男は。

 元々人の世話を焼くような献身的な性格でもないし、誰かの世話をするような身分でもない。


 なのにエディは今じゃオネェ言葉を操り、カレンの世話を完璧にこなしていて。

 昔のエディを知る者が、今の彼の姿を見たら大層驚くだろう。

 

 それに性格はアレだが美人が近くな居るのに手を出していないエディを知り合いが見たら、どうしたんだあいつ病気?

 ……と、心配するような男だったはず。


 なのに。

 今じゃエディはカレンを優しく見守り、甲斐甲斐しく世話をするのがもう当たり前の男になってしまっていた。 

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