21 視線
「うげぇ、……ナニコレ」
「あら、やっぱりとっても良く似合うわ!」
フリルがたっぷりと使われたシフォン素材ドレスは、その柔らかなドレープが可愛らしく。
カレンは顔を引き攣らせる。
「……もうどうにでもなれ」
鏡を見てあまりの少女趣味なドレスを着させられた自分に、カレンはもう抵抗しても無駄だと諦めた。
「……完璧ね!」
そしてエディの巧みな技術によって。
カレンの癖のあるハニーブロンドの髪は美しく編み込まれていて。
今のカレンはまるで天から舞い降りた女神のようである。
「エディなんで編み込みとか出来るん?」
「……姉にやらされた」
「あ、お姉さんいるんだ?」
◇◇◇
「さて、お手をどうぞお嬢様?」
まるで絵本の中の貴公子の様に、カレンをエディが馬車にエスコートする。
「うー! 疲れた、帰りたい……!」
めんどくさそうに渋々手を出すと。
エディはスッとカレンの手を取り、馬車から降ろす。
先ほどまで何軒かの屋敷を見て回ったが。
あまり好みのものがなかったらしく、最終候補の貴族街でも王宮とは目と鼻の先にある今までで一番広く格式高い屋敷に到着した。
「ふーん? なんかさっきまでと違うね」
「さっきまでは田舎に住む貴族達のタウンハウスで、ここは高位貴族が事業に失敗してこの屋敷を維持管理出来なくて手放した屋敷ね」
「ふーん? じゃあ、もうでいいや、ここが良い! 私のマイホームはここにする!」
「……まじか」
ほんとにここにすんの? って聞いてくるけど
「どうしたの? ここなんかあるの?」
もしや幽霊でも出るとか?
「いや、ここ隣がガルシア公爵家なのよ……」
高位貴族というやつか、めんどくさそうだがどうでもいいや。
「うん? 別にいーよ?」
関わらなければどーとゆうこともあるまいて、私はひきこもり研究三昧だ。
「え……いいの? 本当に大丈夫?」
そんな何度も聞かんでも大丈夫!
「うん、隣なんてなんでもいいし! ここの今までで最高!」
「そう……? それならここで決めるわね」
さっさと研究が錬成がしたいです。
めんどくさくなっただけ、……なんて言わない。
そして馬車に戻ろうとする際に。
大きく風が吹いた。
「……うわ、風がすごいねぇ!? エディ?」
「あっ、そ、そうね? ……ほら乗って?」
「へーい」
カレンを屋敷の前に停めて置いた馬車の中にゆっくりとエスコートする。
カレンは気づかない。
エディが何故ここでいいのかと、何度も何度も聞いたその理由に。
カレンには見えなかった。
カレンが気に入った屋敷の近くに止められた豪華絢爛な馬車の窓から、美しい貴婦人が馬車に乗り込むカレンを見つめて涙を流していた事に。
カレンは知らない。
隣の屋敷が自分の産まれた家で、カレンを見つめていた貴婦人が自分の産みの母であると言う事実に。
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