19 王都の夜



 エールをぐいっと飲み、串焼きを頬張る。


 屋台のピリッと辛い味付けの串焼きは肉汁がたっぷりで美味しいし、エールはちょっとぬるいけど許容範囲内。


 串焼きを一口運びエールで流し込む。


 ただそれだけを繰り返すだけで、簡単に手に入る幸福をカレンは現在満喫中だ。



「んー! さてさて、肉とエールの後は甘いもの……だよね?」


 キラキラの笑顔でそう提案し、カレンはそそくさと甘いものの香りのする方向へと歩く。


 そんなカレンに。


「え……まだ食べるの!?」


「え? 今の前菜的なやつだよ?」


「どこに入るのよ……? それ」


「えー? だって錬成とかするとめっちゃお腹すいちゃうんだよ? ぺっこぺこだよ? 今日はいつもより血もいっぱい使っちゃったし? 仕方ないね!」


「え、血液ってたまに使うの!? あんなことまだ貴女する気?」


「まあ、錬成陣書くときとか? 用途は限られるけどね、自分の血液は」


「え、自分以外の血液使うことも…あるの?」


「んー……とね?  一応隠匿事項なんだけど、禁術指定の錬成の素材かな? 錬金術師が自ら禁じてるだけだけどね。部外者にはそれ以上は言えなーい」


「なんというか隠匿がやたら多いし余程のものなのね、それって」


「そうだね。まぁ守るかどうかは錬金術師次第だけど?」


 カレンとエディは他愛もない話をしながら、ゆったりと街を歩く。


 そしてお目当ての甘味の屋台の前まで来た、ご機嫌なカレンが注文をする。


「おっじさーん! 一番人気って書いてるそれと、その赤い果実っぽいやつ! あとね、蜂蜜クリームのマシマシ!」


「お、別嬪なお嬢ちゃん! そんなに買ってくれるんか! ならおまけしといてやろーな!」


「ほんとー? ありがとー! おじさんもいい男だよ!」


 と、カレンはとても楽しげだ。


 出来上がったのは薄くパリパリに焼かれた生地の上にクリームや、果実、蜂蜜などかたっぷり乗せられたもの。


 それをカレンは三人前購入し、近くにあるベンチにおもむろに座り込む。


「別腹! 別腹ぁ! うまー! ほら、エディも食べていーよー?」


「……いや私さすがにもうお腹いっぱいよ。貴女が一人で食べれば?」


「えー? ……美味しいのに」


 三人前の甘味がカレンのお腹に収まった。


「んー! よはまんぞくじゃ!」


「……なにそれ」


「んー? どっかの国の偉い人のセリフ? さて帰るか!」


「……そうね、明日は貴女に住んで頂く家選んで貰う予定だから朝から忙しいわよ? さっさと帰って寝ましょ、疲れたわ」


「こんなんで疲れるなんて……エディ実はおっさん? ださっ」


「……誰がおっさんだ?」


「エディ? また男出てるよー? そんなんじゃ真の乙女にはなれなくてよ? ふふふん」


「……はぁ。あーもういいわ」





 お腹が満たされ、宿に帰り勢いよく寝台にカレンはダイブする。


「食った食ったー!」


 たらふく食べて飲んであとは、風呂入って寝るだけ。


 思考がおっさんだが、それが幸せなんだ。


 気にしてなどいられない。


 正直風呂なんて入らずにこのまま寝落ちしたい気分だけれど、エディがお風呂の準備に浴室に行ったから。


 風呂に入らないと、エディに文句言われそうだなとカレンは寝台でゴロゴロしつつ。


 ブーツを脱ぎ、のんびりだらだらする。


「あーあ……アルスの王都かぁ。来たくなんて、なかったんだけどな?」


 私を追い出した国。


 私を捨てた家族のいる場所。


 私の大嫌いなものだらけ。

 今からでも魔力なんてきれいさっぱり消えて、なくならないかなと願ってしまう。


 こんな魔力さえなければ私は。


 イクスに帰れるのに。

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