18 錬金術 エディside



 昨日の豪雨が嘘のように晴れ渡る空は。

 まるで彼女の新しい門出を天が祝福しているようだった。

 

 だが急にカレンは王都には行きたくないと、馬鹿な事を言い出した。


 カレンの希望にはなるべく添った対応をするつもりだが、この辺りは魔獣のいる森が近い。


 安全上それはできないし彼女英雄で国賓。


 あまりにも特別な存在で、こんな不便な田舎で住ませたとすれば他国から非難の的になるのは容易に予想ができた。

 

 そんな暮らしを英雄に強いるならば、我が国が丁重にもてなすと他国が確実にカレンを奪いにくるだろう。


 どうにかカレンを説得し、転移装置を起動させる。


 そして、我が国の中心都市である王都に降り立った。

 

「英雄カレン・ブラックバーン様、ようこそアルス国へ、これから全身全霊をかけこの命に代えましても貴女をお守りさせて頂きます」


 ーー英雄が我が国に戻られた。


 排除される存在からあまりにも尊く気高いその存在に英雄は自ら登り詰められた。


 その喜びにこの国の騎士として彼女に恩をうけた、人間として傅き頭を垂れるのは至って普通の事。


 貴女に救われた。


 この命に代えても貴女を守る。


 それは自分への誓いだった。



 そして仮宿として手配させていた宿に長旅で疲れているだろうと思い案内しようとすると。


「ちょっと、作りたいもんあるから素材買いに行きたい!」


 と、お願いされ必要な物は私が買ってくると提案するが自分で選ぶという。


 なので必要な物を聞いた所近くの市場で手に入るものばかりだったので案内する。


 あまり平民が行き交う場所は治安がよくないので連れて行きたくはなかったが仕方がない。


 市場に案内すれば、自分で目利きし、交渉し、値切りまで。


 あまりにも手慣れていて、何故かと聞けば


「いや錬金術の材料は自分で市場行ったり、業者手配して調達したり、自ら出向いて調達したり、薬草なら自分で育てるのが錬金術師としては普通」


 そして、素材たくさん購入し宿に戻る。


 ご機嫌で、錬成の準備を始めるから何か手伝う事はないかと聞けば


「気持ちは嬉しいんだけど、これ鍋を置く順番からそれを置くまでの歩く回数、錬成しているときの呼吸さえ全て錬金術の術式だから、そこの椅子から絶対動かないで? 最悪爆発四散する」



 と、言われてしまいただ見学するだけになった。


 カレンがふわりと大きく上質な白い布を舞うように広げた。


 そしてガラスの器にインクを注ぐ。


 そして何に使うのか、ナイフを取り出しその刃先で自分の腕を、切った……?


 ……は?



「なっ! 馬鹿! 何して!?」


 そうつい叫んでしまうのも無理はない。


 止めどなくカレンの細腕から溢れだす彼女の血液に背筋が凍る。


「え? 錬成陣書くために錬成を執り行う人間の血液とか混ぜ混もうとしてるだけだよ? そうゆうもんなんだよ?」


 と、なんでもないことのように答えた。



 錬金術はそうゆうもんだよ? と、平然と答えるカレンに。


 錬金術がどういった術で、自分達の命が救われていたかなんて知らなかった事実に羞恥を覚えた。


 包帯を巻こうと一人でしているカレンの手をとり治癒魔法を使う。


 彼女にこんなことしか出来ない自分に憤る。


 その後、その血液の混ぜこまれたインクによりとても繊細で美しい錬成陣と呼ばれるものを書き上げると、無造作に素材を大きな鍋に入れて、先ほど描いていた錬成陣の上に置かれた。


 鍋だから火にかけるのか? と思っていたがどうなるのか見守っていると。


 そっと彼女の指先が錬成陣に触れた。


 その途端に青く美しい光を放ちながら錬成陣が浮かび上がり次第に終息した。


 透明な液体。


 先ほどから使われた素材で作られたものとは思えぬ透明感にこれが錬成というものなのかと驚かされる。


 そして、出来上がったその液体を美しい造形の蓋つきの瓶にいれて。


「はい、どーぞ」


 と、なんでもないことのように俺に渡そうとする。


 その作り出された液体はポーションといって彼女の魔力暴走しかけた身体を治癒したものより劣るというが内蔵まで治癒するなんぞ聞いたことがない。


 そんな貴重なもの頂けないと断れば、命に代えられても迷惑だと言われて。


 あぁ彼女の負担に俺の誓いがなっていたんだなと自覚し反省した。


 俺には感謝を伝える事しか、この時は出来なかった。

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