5 自己紹介
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「そういえば貴女、礼儀作法とかの教養を少しくらいは学んだこと……ある?」
頭を抱え悩んでいた残念イケメンが、なにか思いたったように私に聞いてきた。
「小さい頃親に覚えさせられたけど、ほとんど覚えてないよ? 研究室でほぼ一人作業の錬金術師に、そんなもん必要ないし」
「……やっぱり。この国って実力があればある程度好き勝手に出来るっていう噂は、本当なのね?」
「実績があれば誰かに頭を下げたりすら必要なく、逆に子どもでも功績があれば年長者が媚びへつらってくるからね? 完全実力社会、いい国だよね」
「でもね、アルスじゃ……そうはいかないわよ?」
残念イケメンが難しい顔で諭してくるけど。
「いやでも私、アルスには国賓として行くんでしょう? それに今、思いだしたんだけど! 薬を作ったご褒美に勲章とお金と国際連合からコレ、国連特例特別保護特権貰ってるから、誰も私に命令したり頭下げさせたりできなかったはず!」
「え……」
「イクスじゃこんなもの必要ないからすっかり忘れてた! 海外旅行の時とか持ってけって言ってたけどさ、やったね!」
ごちゃごちゃとした机の引き出しの中から無造作に、大ぶりの青いの宝石が付いた首飾りを取り出した。
「え、これ……うそっ!? 初めてみた! 貴女、特例特権もってるの? なにそれ早く言ってよ! そんなの資料には無かったわよ?」
「え、資料ってなに……」
「ああ、もう! ちゃんと調べなろよな、あのクズ! それにしてもそれって本当に授与してる人間いるんだ? なら、あれ……? 俺、いらないんじゃ……」
「だってそんな事聞かれなかったし。それにさっきお兄さん? お姉さん? に会ったというか、押しかけてきたばかりやん」
「……お兄さんって。貴女に私……さっき自己紹介したわよね?」
「あー忘れた、えと、なんだっけ?」
「貴女って、ホントに……」
「いや、ごめんごめん? 全然興味なくてつい」
「……エディ。エディ・オースティンよ、アルスでは黒の騎士団に所属していたわ。私が貴女の護衛騎士として貴女を守り、そしてサポート致します。ホントにもう……」
盛大な溜め息をつきながら自己紹介された。
(溜め息ばっかりつくいてると幸せ逃げるぞ?)
「じゃあよろしく、エディ? 私はカレン・ブラックバーン、ここで錬金術師やってる! よろしく? あっ、一応有名人だから知ってる?」
「はぁ、よろしくねカレン? 知ってるわよもう、貴女を知らない人間なんてこの世界にはいないわ……」
「あは! やっぱり私、有名人だった」
「ええそうね、有名人ね貴女は。でも……想像してた子とはだいぶ……かなり違うわね? なんていうか、うん」
「あぁ、薬の発表会見のときはめっちゃ猫被ってたもん! あんなの台本通りだし? それっぽい風に言ってたし、あの程度で騙せたなら私、女優になれちゃうかも? どうしよう自分の才能が怖い! ぐへへ」
「アルスでは、ずっとその猫被ってて? お願い。こんなのがあの英雄様とか……知りたくなかったわ。ぐへへって、なんなのよ……この子」
(なんか頭抱えだしたけど大丈夫かな、あんまり真面目に生きてると疲れるよ?)
「そういばさ、どうしてエディがアルスから迎えにきたの? 私はてっきり一人で寂しく国を追放されるもんなんだと思ってたんだけどな? そしてここから始まる天才錬金術師カレンの壮大な冒険! とか……そんなやつ」
本気で人のを聞いてなかったのかコイツ?
と、げんなりとしたようにエディは語る。
「それもね、さっき自己紹介した時に話したと思うんだけど……? 貴女本当になにも聞いてなかったのね」
「うん、全然聞いてなかった! 興味無くてさ?」
呆れたと言わんばかりの表情でエディは。
それはそれはめんどくさそうに、また大きな溜め息をついて話始めた。
そんなに溜め息ばかりついてると幸せが逃げそうだよって、腹抱えて笑ってたら睨まれた。
(怖っ! 騎士の睨み……怖っ!)
「さっきも話したと思うのだけどね? 魔力を全く持っていなかった人間から、突然魔力が溢れだすなんて異例も異例。そして貴女はかの有名な錬金術師様でこの国イクスも対応に困ったらしくてね? 魔法に詳しいアルスに相談してきたのよ。イクスじゃ魔力持ちは魔力封印具装着しなきゃいけない、でも魔力封印具って身体に多大な負担がかかるのよ」
「えっ、コレそんなやべぇやつだったの?! なんかもうどうでもよすぎて何も聞いてなかった!」
「ええそうよ? 短時間なら大して問題ないけど、長期間の使用は未成年の魔法も使えないような子どもじゃ命に関わる」
「命にかかわる!?」
「だからこの国イクスにとっても世界にとっても、貴重な存在の貴女を危険には晒せない。でもこの国の法律的に魔力封印具なしに魔力持ちはこの国には居てはいけない。だから元々貴女はうちの国の人間だし、母国だったアルスに貴女の保護を……って話がきてね? それでカレン、私が貴女を保護しに来たのよ」
「まじか、それはお手数をお掛けします? でも邪魔だったから追放ではないのか……ふむ」
「追放……というか避難みたいなものよ。だからね、大人しくコレ着なさい?」
そしてエディは。
フリフリのレースがたっぷりと付いた、白と水色のドレスみたいなワンピースを手に持って。
私の所にじりじりと近づいてくる。
「えっ、そんな少女趣味なブリブリなやつなんて絶対着たくないんだけど? 無理無理!」
「なに言ってるの? このくらい全然シンプルでしょ。さすがにそんな格好でアルスに行けるわけないわよ」
エディは私の普段着を『そんな格好』呼ばわり、これは錬金術師の正装なのに。
「そんな格好って、ひどっ! これはね錬金術師の正装なんだよ!」
「え、そのボロ雑巾みたいなのが? 錬金術師って……国に冷遇されてるの?」
私の言葉にエディは大きく目を見開いて、なぜか心配してきた。
「雑巾とかひど! 錬金術師はみんなが憧れる将来安泰系超人気職業なんだよ? それにこれは魔道具の一種で保護の魔方陣が織り込んであってね? 多少の爆発とかなら余裕で防げちゃうんだよ?」
「多少の爆発って、それどんな状況よ……?」
「この服を着ないで錬金術に失敗した同業者、全身バラバラで発見されたらしいよ?」
「でもそれはアルスではちょっと、いや、かなーり浮くと思うのよね……?」
多少動揺させることは出来たが、やっぱりフリフリワンピースは諦めて頂けないらしい。
「浮いたところで私はべつに困らないよ?」
「いや、私が……周りの人間が困るから! せめて外でだけでもまともな服を着てほしいかな?」
「いやいや、十分まともだよ? 正装だよ? それにフリフリ恥ずかしいじゃん! ブリブリロリロリぃ」
「大丈夫よ、あなた自身十分ブリブリなロリロリな容姿してるんだし?」
「だれがロリじゃー! 身長なんて150㎝もあるし! まだのびるし! 十七歳はまだまだ成長期!」
「十分大きいと思うわよ? 肩こりそうね……」
その厭らしい目線は、私の胸元をとらえている。
「えっち! どこみて言ってんのー! この変態スケベオカマはげー!」
(とりあえずこの騎士をセクハラで訴えてやりたい、ちょっと顔が良いからって調子に乗んなよ!?)
「いや、禿げてないし。とりあえずこれ着ようね」
(冷静に切り返してくるところが地味にムカつくぞ、この残念オネェ騎士め)
「ええっ……ちょっ、それまじ?」
「うん、誰かさんがね、駄々をこねまくってたせいで、時間があまり無いから早くしてね?」
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