第30話
薄暗い路地を右へ、左へ。立て付けの悪いドアや薄汚れたガラスの窓などに目をやりながらついて行く。
「ねぇら本当にこの先にあるの?私にはただのばっちい裏道で迷子になってるようにしか見えないんだけど」
「勿論ありますとも。私は何度も行っているので、道は分かります」
自身満々な返答に、ネールは「あらそうなの」と返す他なかった。ジコウも同じことを思っていたが、その前にネールに聞かれてしまった。
しかし本当にこんなぐにゃぐにゃした土地に保護施設などあるのだろうか、と疑問に思い始めたその時。
「ああ。ありましたよ、真正面に広場が見えるでしょう?あそこです」
「あそこだと?」
目を凝らして見てみれば成程確かに今までの暗い路地裏と違って日差しが降り注いでいる広場がある。
早く行きたくてしょうがなかったが、ここで二人を置いて行くとどう行動したらいいか分からなくなる、と思い直し大人しくアストの後をついていく事にする。
「着きましたよ。ここが魔族のために新しく作られた保護施設です」
広場に足を踏み入れた途端、暖かな太陽の光が全身を包み込む。そしてまるで春の様なそよ風が吹く。
広場にはいくつか公園の遊具と噴水が置いてあり、そこで魔族の子供達や親らしき人物が遊んだり談笑したりしている。
「……場所の割に結構日当たりがいいんだな」
「元々この辺りは倒壊しそうな一軒家が多くてですね。それらを一気に破壊してこの保護施設を作ったと言うわけですよ」
「ふーん、安心したわ。あんな薄汚れた土地じゃ子供達もまともに遊べないだろうし」
と話している間に、魔族の……まだ10も行っていないだろう子供が近寄ってきた。額には角が一本あり、肌の色も紫がかっている。
「あすとせんせー!またきてくれたの?わたしうれしいなぁ!ねえ、なにしてあそ?私はキャッチボールがいいなあ!」
アストの足にしがみつきながら、子供は笑顔で言う。これが自分が殺してきた魔族か、と思うと胸が締め付けられる感覚に襲われる。
「申し訳ありません、今日は遊べないのですよ。備品を届けに参りましたので」
「びひん?それってなーに?」
「生活に必要なものですよ。木炭とか、食料とか、色々あるのです。ですから足から手をを離してくれるとありがたいのですが……」
「うん、わかった!それじゃこんどは遊んでね、あすとせん……せ……?」
今までアストにばかりめが目がいっていた少女と目が合う。
これはまずい事になりそうだ、と思った瞬間。
「きゃああああああ!!まぞくがりだぁ!みんなにげてー!」
その声に広場で遊んでいた子供達が、それを見守っていた大人達が少女の方を向く。そして次に、ギユウの顔を見る。魔族達は皆一様に青ざめ、即座に左側にある施設へ走っていった。後に残るのはアスト、ネール、ジコウだけだ。
「あんた随分怖がられてるわね」
「……今までしてきた事がしてきた事だからな」
魔族達の集落に襲撃をかけたのは一度や二度ではない。その中には無抵抗の女子供もいたのだろう。自分は見た事がないのだが、おそらくかつての仲間達が殺してしまったのだろう。
だがやるべき事は明白だ。せめて、魔族達に謝る事。これが第一目標だ。あとはアストの持っている備品を整理する事、これが第二目標だ。
「全員閉じこもってしまいましたね……まぁその方が人を集めやすくて謝罪もしやすいだろうしいいでしょう。
ジコウ様は言わずもがな、ネール様も初対面という事で怪しがられるかもしれません。
と言うわけで、私が呼びます。宜しいですね?」
その言葉に頷く二人。アストはニコリと笑い、二人を連れて扉の前へ来た。
ドアノッカーをドンドンドンドンと四階叩き、呼びかける。
「もし、誰かいませんか?頼まれた備品や食料を持ってきたのですが」
叩いた後数分。ガチャリ、と控えめに扉を開けられた。小太りで背が小さい女だ。
「いつもありがとうございます、アスト先生……備品や食料はこちらでお預かりしますので、ぜひ入っていただければ……!?」
女と視線が合った。その瞬間扉を閉められそうになる。女の目には明らかな恐怖が浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます