第31話

「お待ちください、ラガーリエ様」


 閉められかけた扉をドアノッカーを掴んで停止させ、怯えるラガーリエに事の説明をする。


「まず備品を持ってきたのは確かです。賞味期限が切れたりはしていないのでご安心下さい。

そしてこちらのジコウ・アルスカル様……やりたい事があって、ここまで来たのです」


 その言葉に疑わしげな目線をやるラガーリエ。ここからは自分で説明しないといけない、と思い口を開いた。


「俺は……数えきれないほど沢山の魔族を殺してきた。あの時は魔族こそが悪だと思っていたからだ。けど人間に追われ、迫害を受ける魔族達を見て、何が正義なのか分からなくなった。それで魔族を匿っていたらバレてしまい、全員殺されてしまって……魔族は悪い人たちじゃないのか、と思ったんだ。そこから逃亡劇が始まり、とうとうどこにもいけなくなって、その時にアストに助けられて……今に至るわけだ」


 そこからすうっと息を吸い、噛み締めるようにこう言った


「謝りたいんだ。これまで必要以上に敵視して、無差別に魔族を殺した事を。許しも慈悲も必要ない。ただ……謝りたい、それだけだ」


 ジコウの真剣な目に何かを感じ取ったのか、ラガーリエはドアをもう少しだけ開ける。その目には、困惑と安心と恐怖と……その為もろもろ、複雑な感情が浮かんでいた。


「そう言う事でしたら……今から保護施設の皆をホールに集めます。謝罪を行うならそこが適任だと。準備が整うまでは……」

「私の手伝いをしてもらいます。今回は備品も食料も多くて一人では荷が重いのですよ」

「分かりました。ではお邪魔しても?」

「は、はい……」


 扉を大きく開け、三人が入れる程度の広さとなった。扉を潜り抜け、入るとそこは意外にも広く、大きな赤いカーペットが端から端まで敷かれていた。天井には美麗なシャンデリアも飾ってある。


「結構豪華なんだな」

「管理長が『どうせ作るなら豪華な保護施設を作りましょう!』と嫌に張り切ってしまって……評判はいいので良いのですが。

さて、備品入れはこちらになります」


 扉のすぐ隣にあるドアを開ける。中は白い鉄製の大きな棚が三方向に置いてあり、壁や床は殺風景な灰色の硬い石の様な感触となっていた。


「……ねぇ、ここで食料品まで出すの?地面に直接置くのは抵抗があるんだけど?」

「まさか。食料品はキッチンで出します。さてまずは備品を……」


 そう言ってアストはマントを両手で広げる。

その瞬間、バラバラと鉄製の小道具、毛布、果ては電子レンジまで落ちてきた。

その光景に驚愕している二人を放っておいて、アストは電子レンジを抱える。


「さて私はこれをキッチンに運んできます。残りの備品は棚の引き出しに置いておいて下さい」

「ま、待ってくれ。今パッと見た限りでも名称がわからない物があるんだが……?」

「私に聞きなさいよ。あんたより早めに来てるんだから物の名前ぐらい覚えてるわよ」

「確かにそうですね。では、私は行ってきます。電子レンジのセッティングが終わったらまた戻ってきますので」


そしてそのまま電子レンジを抱え外に出たアスト。中にはあまりの丸投げっぷりに棒立ちしている二人と山になっている備品が残った。

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