第26話
ネールに連れられて『ピクシー・シング』の中に入ると、まず心地よい甘い香りが漂ってきた。正面の棚には何かの液体が入った透明な細長い瓶に棒の様なものが刺さった小物がいくつか置いてあった。
「これはなんだ?」
「これ?これはアロマ……その中でもリードディフューザーって呼ばれてる物ね。その棒が液体を吸い取って、アロマの香りを周囲に撒いてくれるとってもいいものよ。私も愛用してるわ」
そう言ってホワイトムスクと書かれたアロマの箱を手に取り、まじまじと眺めた後、ジコウの方に向き直った。
「じゃ、私は適当に店内を見て回ってるから。あんたも自由に行動してて。いいものが見つかるといいわね」
そう言い残しさっさと奥に向かうネール。本当に自由人だな、と内心で苦笑しながら近くの棚に寄ってみることにした。
「……本当に色々あるな」
異世界から持ってきた物だろうか、用途も使用方法も分からない物が沢山並んでいる。ガラスの様にカッティングされた小瓶はわかったが、小さすぎて何も入りそうにない。
使用方法は書いてないのか、と適当な商品を手に取り裏側を見てみても、店名や製造業場所が書かれているだけでどういう物なのかさっぱり検討がつかなかった。
「ここで売られてるって事はいいものなんだろうが……使い方が分からないのではな」
手に取った商品を棚に戻し、またぶらぶらと店内を歩き回る。
宝石を模った小物、小鳥の姿をしたインテリア、可愛らしい小型のバッグ、と雑多に色々な物があるが、必要だ、と感じたものはない。
「見た目がいいのは確かなんだが……ん?」
気づいたら文房具スペースにたどり着いていた様だ。様々な形をしたペン、線が引かれたノート、と今までとは違って興味の惹かれるものが多かった。バインダーとやらはよく分からなかったが、ルーズリーフと書かれた紙の穴とバインダーを照らし合わせて、成程紙を挟むためのものか、と理解した。
「これを買ってみるか……?いやしかし……」
書くならグディから貰った紙とペンだけで充分だし、急いで買うほどの状況でもない。そう判断しバインダーとルーズリーフを戻す。
その時、ちらりと何かが視界の端に映った。
「あれは……?」
見た目は黒と白の縞模様が付いたただのコップだった。しかしそれには『ペン立て』という札が付いており、ただのコップらしき物では無さそうだと思った。
「ペン立て……ペン立てか」
そういえば割り当てられた部屋にはペン立てはなかった。ペンを貰ったとはいえ、あの小ささではすぐ無くすかもしれない。
「よし、これを買うか」
ペン立てを手に取り、どうせなら色違いのペンも買うか、と振り向いたその時。
「ねぇ見てよこのバッグ!黒猫のワンポイントが可愛いと思わない!?私これ買う事にするわ……って」
ジコウの手元にあるペン立てを見て、少しため息を付いた。
「……あんたね、こういう時くらい羽目を外しなさいよ。何か他に気になる物でも無いの?」
「そうだな、色違いのペンなら欲しいと思ったが」
「そういうことじゃないのよ!ああもう、本当に真面目ねあんた!」
少し頭を抱えられる。自分の選択はそこまで変だっただろうか、と不思議に思う。
やがて頭を抱えるのをやめたネールに、諦めた様に言われる。
「もういいわ、それがあんたの個性だって割り切る事にしたから。
でもペンを選ぶのは私も同席していいかしら?丁度新しいラメペンが欲しかったのよねー」
「ラメペン……?」
「書いた文字がスパンコールみたいに輝くペンよ。とっても可愛くてオシャレなのよー。
ほらほらあんた気になるペンはある?」
「あ、ああ、そうだな、この赤いインクが入ったペンが……」
肩を寄せ合い、狭いペン置き場でこれはどうだ、あれはイマイチ、と色々話しながら選んでいく。
結局、五本の色違いのペンとネールに押されラメペンも一緒に買う事になった。
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