第25話
半ばネールに引きずられる様にして食堂から出た。広間は相変わらず突拍子もなくドアが立ち並び、あるいは広間の半ばにぽつんと置いてある。どれがどれだか分からないジコウとしては、迷いなく歩いているネールが不思議でならなかった、
「こんなにドアや扉があって、迷ったりしないのか?」
「慣れよ。私も異世界に繋がるドアとかはよくわからないし。取り敢えず自分に必要な物だけ覚えている感じね」
確かに食堂の扉や不老不死になるための扉なら覚えるのは簡単だろう。ジコウはそう納得した。
「成程。では今に向かっている扉はなんだ?」
「もうすぐ着く筈よ……あっ、あったわ、あれよあれ」
ネールが指差す先には細やかな装飾が成された巨大な黒い扉だった。こちらもまた何にも繋がっていなさそうな空間とどんと置かれている。
「……毎回思うんだが、ドアや扉は壁とかに置かないのか?どれもこれも殆ど一緒で、見分けがつかないんだが」
「元々はちゃんと壁に並んでたんですって。けど世界の数が多くなって、仕方なく空間に設置することにしたらしいわ。あと、私も小耳に挟んだだけなんだけど『アカシックレコード』には目的の場所を指定してくれる機能もあるんですって。本当便利よねぇ」
そこまで機能が従実しているのか、とジコウは思う。逆に言うとそれが無ければ迷子になる事は必至で、よく使う施設だけでも覚えておかないといけないな、と考える。
「ほら、ついたわよ。扉開けるからね」
ネールはいかにも重たそうな扉をギギギ、と開ける。
開け放った先は────
「……街、だな」
「だからそう言ったじゃない」
雲ひとつない青い空、暖かな日差しで照りつける太陽。そして活気溢れる煉瓦造りの店々。木陰のベンチに座ってアイスクリームを食べている黒コートの者や、遠くに見える公園で遊んでいる子ども達もいる。
まるで俺が裏切り者として追われる前の街みたいだな、とジコウは思った。
「何か行きたい店はあるのか?」
「うーん、やっぱり小物店がいいわね。『ピクシー・シング』っていう店があるの。まずはそこに行きましょ」
そう言って歩き出すネール。ジコウもふと我に帰り、後を追った。
「しかし本当に賑わっているな……」
「管理者達の数少ない憩いの場だもの。仕事で溜まったストレスをここで発散、って言うのも多いわよ」
大通りだからというのもあるが、それ以上に客引きの声が多い。蒸しパンとやらを売っている屋台や、タレがたっぷりついた串焼き、食器貸し出し式のスープなど、見たことのあるものや見たことのない物まで大量の屋台で売り出されている。思わず串焼きに手が伸びそうになったが、昼食の後のため食べきれないだろうと判断し手を下げた。
「……あんた、まだ食べる気なの?」
「食べてみたいとは思ったんだが……流石にに昼食の後ではな」
そしてそれを見咎められ呆れた声で言い放つネールに苦笑しながらそう返す。
いつか一人で来た時に食べてみたい、そう思いながら。
「ほら、見えてきたわよ。早く入りましょそうしましょ!」
「ま、待ってくれ、見えてきたと言ってもどこにあるのか分からないんだが……!」
喜んで駆け出したネールに、慌てて駆け出すジコウ。その様子はあちこち行きたがる子供を制御しようとする親に見えなくもなかった。
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