第24話
「……あんた本当にお人好しねぇ」
呆れた様に呟くネール。そして弄んでいたヨーグルトの乗ったスプーンをぱくりと口にする。
「ん、意外といけるわねこれ……そこまで善性に割り振った奴、私は初めて見たわ。あんがい取引き内容もそんな感じのものだったりして?」
「ああ。魔族の生き残りの保護と俺の身の安全を引き換えにして、管理者になる事になった」
魔族達は無事だろうか。頭の片隅で思う。逃走の中出会った魔族は老若男女問わず沢山いた。その誰もが殺されてしまったが……出会っていない魔族も沢山いる筈だ。彼らが救われていることを切に願う。
「あらそう。私は私を狙った人間達の皆殺しを願ったわ。家族を殺されて、それなのに奴らはのうのうと生きてるんですもの。あり得ないでしょう?
私、ケリはきちんと付けるタイプなの」
それに、とネールは続ける。
「不老不死になった時、どうせなら本物の魔女になっちゃえ、って思ったのもあるわ。だってあっちがそう思って臨んだんだもの、そうなったって問題ないわよね?
見てなさいよあのクソ人間ども、今に魔女になって世界を震撼させるんだから」
「……俺たちの仕事は世界の平穏を守ることであって脅かす事ではなかったはずなんだが……」
「そんなの簡単よ。私自身がその世界の全ての悪になって君臨してしまえばいいの」
「なんだって?」
残り一つのロールパンに伸ばしていた手が止まる。
「だって圧倒的な悪がいたら矛先は全てそっちに向かうでしょう?敵の敵は味方、ってね。それもある意味平和の形じゃないかしら」
「……陣営同時の小競り合いや戦闘についてはどう思うんだ」
「必要経費よ、必要経費。まぁ私が本当に悪として君臨する日が来たら、出来るだけ殺さない様に命令はするけどね」
改めてパンを持ち、千切る。その手は微かに震えていた。
「そんなの、ダメだ」
「え?」
「そんなのは俺は平和とは呼びたくない」
パンを口の中に入れ、無理やり嚥下する。
「誰かが犠牲になって成立する平和なんてダメだ。みんなが、誰もが手を取り合って幸せに笑える世界がいいんだ」
「……さっきの言葉を訂正するわ。お人好しじゃなくて、夢想家ね」
食事を食べ切ったネールは頬杖をつく。勿論呆れた目を此方に向けつつ。
「ま、人って考えが合わないのが普通だもの。そこについてはスルーしてあげるわ。
……ってあんた、食べるの早いわね」
「旅していた頃の癖でな」
どこから敵が現れるかわからない以上、食事は早めに済ませて見張りを立て、休息を取った方がいい。それが当時のパーティ内の結論だった。実際食事中にゴブリンの群れが襲ってきた時は悲惨だった。周囲に漂う血の匂い、ひっくり返った野菜のスープ。あんな悲壮感漂うなか片づけをしたのは初めてだ、と今更ながらに思う。
「そう?というわけで、ご馳走様。午後時間ある?」
「そうだな、予定はないから訓練所の場所を聞き出してそこへ向かおうとおもっていたんだが……」
「あんたってとことん真面目ね!?これまで散々な目に遭ってきたんだから息抜きくらい必須でしょ!そうだ、私と一緒にオグリシアタウン行きましょうよ!」
「オグリシアタウン?」
「あら聞いてなかったの?この世界はね、今私たちがいる監視者の総本山の他にも、オグリシアタウンっていうそれはもう楽しい場所があるのよ」
そこまで言って、初めてネールはニヤリと笑った。
「大半は料理店だけど……たまにとっても可愛い服が売ってる店とか、センスのある小物とか、あとはマッサージ店とか美容院とか……とにかくオシャレなものが色々あるのよ!絶対行くべきよ!」
「その気持ちはありがたいんだが、俺は今お金を持っていないぞ?」
「あらその点については大丈夫よ。新入り、見習いは一人前になるまで支払いを待ってくれるの。
もともと戦うのが苦手で他のことをやりたいって人達が集まって出来た街だからね。サービス精神旺盛なのよ」
ネールはそこでウィンクをする。どことなく嬉しそうな雰囲気が漂っていた。
「決まりね。じゃあさっさとお盆片付けて!出発するわよー!」
「あ、あぁ……」
半分気圧されながらも、自分の盆を手に慌てて席を立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます