第23話
「……自由行動、と言われてもな」
先程のドアから少し離れたところでジコウはぽつんと立っていた。
「そろそろ昼の時間だよな……?」
その通り、と言うようにゴーン、ゴーンと鐘の音が鳴る。それと同時に、ジコウの腹がぐぅと鳴った。それに少し笑いが漏れる。
「まず昼食を食べにいくか」
ノートとペンをコートの大きな四次元空間に仕舞い、食堂のドアを扉を目指し歩き始めた。
「席が空いていて助かったよ」
今回も今回とてロールパン、バター、サラダ、小さめのオムレツ数個などなど常人なら食べきれないような量を盆の上にのせ、空いている席に座った。ロールパンにバターを乗せ、もしゃもしゃと頬張りながら先程の光景を思い浮かべる。
(玄武……か。まず間違いなく俺は倒せなかっただろうな)
甲羅に引きこもられ、そこを水で満たされてしまえばもうアウトだ。手札がない。可能性があるとすれば玄武が油断している隙に首を切り落とし……
……ダメだな。あの反応速度からして先に引っ込まれる可能性が高い)
やはり今の自分では力不足だ。そう結論付けると、次はどういう力が必要かを考える。
(水中で呼吸が出来るようになる魔法……いやそれだけでは上の方に浮かぶだけで攻撃がほぼ出来ないな。ど地上と同じように動き回れる手段が必要だ。
周囲に空気の幕を張る……いや確かどこかの論文で密閉した箱と小さな穴が空いている箱にネズミを入れて餌と水だけ置いておいて一週間放置して、開けたら密閉した箱のネズミだけ死んでいた、なんてものがあったな。ただ幕を張るだけでは密閉した箱のネズミと同じになる。やはりダメだ。
となるとここは重力……か?重力を操る魔法はかなり高度だと聞いた覚えが……」
「……ちょっと。ねえちょっと」
近くから聞こえてきた声にハッとし、顔を向ける。
「ネール……だったか?」
「そうよ、ネールよ。隣いいかしら?」
「ああ」
ネールはテーブルに自分の盆を置き、椅子を引いて座る。
「俺のところでよかったのか?」
「貴方以外に知り合いがいないのよ。一人で食べようにも席はどこも人がいるし」
そう言われてあたりを見回してみると、いつのまにやら、ほぼ全ての席が埋まっている。確かにこれでは一人で食べるのも難しそうだ、とジコウは思った。
「そうか。それなら仕方ない。話し相手がいるって言うのもいいことだしな」
「あんたって本当ポジティブシンキングよねぇ……ていうかその量、本当に食べるの?」
「ああ。朝はこれより多かった」
「うわぁ……」
あからさまに引いた、というリアクションを取るネール。その様子に苦笑いした。
「朝にもそんな事聞かれたよ。全部食べるから安心してくれ」
「それならそれでいいけど……」
ため息をつき、パンを千切って口の中に放り込むネール。それを見て、自分もまた食事中だったことを思い出し、オムレツにフォークを向けた。
暫しの沈黙。
「……ねぇ」
「ん?」
不意に、ネールが話しかけてきた。
「何であんた、そんなに前向きなの?ここにきたって事は、手酷い裏切りにあって死にかけたとか自分のせいじゃないのに居場所がなくなったとかそういうのでしょ?」
そう言い、こちらに目を向けてきた。
目はどこか虚ろで、絶望している様な、そんな雰囲気を醸し出していた。
「よく分かったな。誰から聞いたんだ」
「知らないわよ。私はあんたより先にこっちに来てたの。その中で新入り達が自分の過去の事で喧嘩してた。それも何グループもね。だからそうかな、って思っただけ」
「……そうか。そうだな。確かに俺も人間に魔王と罵られ殺されかけたよ」
逃げ続けた過去を思い出し、暫し暗い感情に浸る。
サラダを食べ終えた頃、それでも、と口を開いた。
「それでも俺は、人の善性を、みんなの幸せを願いたいよ」
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