第21話
相変わらずひやりとするポータルの内部。一分ほど歩いたところで、ネールがもう我慢できないと言った風に口を開いた。
「……で、あれはどう言う訳?何で時間の進みが遅くなったの?空間がズレたのは何?」
「ああ、その事か」
足を止めず、ソードは質問に答える。
「なんか……前に素振りしてる時にやれそうと思って、やったら出来た」
「……はぁ?」
あんまりにもあんまりな答えに一部は困惑し、一部は呆れた。ジコウは困惑した側の方だ。
「原理とか理由は全く分からん。今も研究所の研究員が調べているが原理は不明なままだ。俺は概念魔法も発現していないからな、概念魔法という線も薄い。本当にやったら出来た、ただそれだけなんだ」
「じゃあ、最初に見せた瞬間移動も」
「それも試しにやったら出来た。こう、利き足にグッと力を入れて、パーンと放出する感じで」
そこまで聞いて、力が抜けたように肩を落とすネール。まぁそうなるのも無理はない、とジコウは思った。
「……もういいわ、何か強くなれる糸口が見つかるかも、なんて考えた私が馬鹿だったわ。そもそも私は魔法使いで貴方は剣士だし」
「そうだな、まさに畑違いというやつだ。
……あぁ、それと」
ここで初めて、ソードがネールの方を向く。
「出来れば先輩には敬語を使うように。俺は気にしないが、そこを気にする人もいるにはいるからな」
「うっ、分かったわよ……じゃなくて、はい、ソード先輩」
「いい返事だ」
そしてまた前を向き歩く。黒の空間の中で沈黙が降りる。こういう時は先輩が気を利かせて何か話をしてくれそうな物なのだが、あいにくソードはそんな気を持ち合わせていないらしい。
フード越しに僅かに見える不機嫌そうなネールを横目で見ながら、歩き続ける事数分。
光が見え、皆でそこに向かった。
「おお!戻ってきたか!お前達が一番乗りだぞ!」
ホームに戻るとグディが笑顔で迎えてくれた。そしてソードの元へ近づく。
「で、どうだった、新入り達の反応は?怯えたりしていなかったか?」
「いえ、相手がそこまで異形じゃないのもあって、怖がっては居ませんでした。ただ……どちらかと言うと俺の戦い方に驚いていたような……」
「わっはっは、そりゃそうだろう。俺も長い間生きているがお前みたいに魔法も使わず空間だの時間だの斬ってしまう奴は初めて見た。そんな規格外が存在するならそりゃ驚くってもんだろう!」
ソードの背中をバシバシ叩きながら大笑いするグディ。それに苦笑いするソード。
「よかったわ……あんなのが沢山いるって思っただけで心が折れちゃいそうだもの……」
そして隣で呟くネール。それに賛同するように小さく頷いた。
あの戦いを見る限り、今の自分では力不足だ。少なくともあの状況を打開できるほどの力を持っては居ない。だがあのような摂理も常識も無視してまでかと言うと……流石にちょっと考えさせてくれ、と言いたくなる。出鱈目に強いのは間違いないが。
隣でぶつぶつ呟くネールを他所に、思考の海に溺れるのであった。
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