第19話
「シッ!」
次の瞬間には剣は抜刀されていた。いつ抜いたのか分からないぐらいに早い。そしてそれよりも驚くべき事があった。
「何……!?」
「嘘、でしょ……!?」
あまりの光景にジコウと斜め後ろにいたネールは声を上げる。他のものは声すら上げられないようだった。
たった一回。たった一回抜刀術を仕掛けただけで何重、何百もの斬撃が生まれ、玄武に向かって真っ直ぐ飛んでいく。それは斬撃の壁と言ってもいい程だった。
「ぐっ、この程度の攻撃……!」
玄武は甲羅に収まり、攻撃を耐え抜こうとする。
しかしそれが裏目に出た。
「ぐわあああぁぁぁぁ!!!」
無数の斬撃の大半は甲羅に深い傷を与えるだけで終わった。
しかし一部の斬撃は首が入った穴に飛び込み、収まっていた玄武の顔に直接的な被害を与えた。
また尻尾の蛇は収まりきらなかったのか床に伏せていたが、どうやったのか斬撃はそちらにもおよび、根本から先端に至るまでみじん切りにされていた。
血まみれの首を出し、憎々しげにソードを睨みつける。
「お、おのれ……儂にこのような傷を負わせるなど……!」
その言葉さえ無視して玄武の元へ駆け寄ろうと……否、駆け出したと思ったら既に玄武の元へ辿り着いていた。
「なっ!?」
普通に考えればワープしたと思うだろう。だが一瞬だけ姿が見えたジコウは驚きつつも分かった。
最初の一歩だけで、尚且つとてつもなく早い速度で玄武の元へ『移動』したのだ。
「……」
その後もソードの猛攻は続く。首を斬ろうと袈裟斬りに剣を振り下ろしたり(慌ててまた首を引っ込められたため避けられたが)、または甲羅に飛び移って先ほどのものより大きな斬撃を刻み込んだり、足のあった部分の穴に剣を突き刺したり……しかし一方的に攻撃し続けているとはいえ決定打はない。それでもこのままリソースを削っていけばソード側が勝つだろう。それは玄武も分かっていたのか、首を出さぬまま怒りのこもった声で吠えた。
「許さん!許さんぞ貴様!こうなったら本気で貴様を殺してやる!
次の瞬間、甲羅から無数の筒が飛び出た。そしてまた次の瞬間、すべての筒から毒々しい液体が発射される。それはまさに弾幕と言ってもいい程だった。
これはいくら何でも避けられない、と誰もが思った瞬間─────。
「何だと!?」
何をどうやったのか、一本の剣で自身に襲いかかる無数の弾を全て弾き飛ばしてしまった。そのままの勢いで甲羅に飛び移り、次々と筒を切り飛ばしていく。弾幕の中には追尾してくるものもあったが、それの対処も難なくしながら、だ。
「神になり変わるとか言っていたくせにこの程度か?朝の準備運動にもなりはしないな」
「お、おのれ……!」
ダンダンと床を踏みしだく玄武。甲羅が大きく揺れるが、それでもソードが落ちる気配はない。完全に怒ったのか、もう一度右前足をダァン!と叩くと傷だらけの甲羅が輝いた。
「もういい。本気を出すなどというみっともない真似をしたくはなかったのだが、もう我慢の限界だ!儂を本気にさせたことを後悔するんだな!」
そう言うと同時に、甲羅から水が溢れる。水は周囲に溜まっていき────勿論バリア側にはなんの影響も無かったが────そしてその溜まった水の一部は、ムササビやフクロウ、果てはスズメバチのような形を作ってソードに襲いかかっていく。
「ふははは。これでこの空間は水で満たされ、何があろうとお前は溺れ死ぬ。おっとその前に形作った使い魔に殺されるかもしれないな?儂に逆らったこと、後悔するがいい!」
襲いくる弾や水の生き物達に対処していたソードだが、周りを見渡し、ため息をついた。
「確かにそうらしいな」
「おぉ?ついに弱者らしくその弱さを認めたか。どうだ?命乞いをすれば助かるかもしれんぞ?さぁやってみろ。無様な姿で哀れっぽく鳴いて見せろ?」
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