第18話

冷たい風の吹くポータルの中を歩く。相変わらずの黒い空間で、寧ろなぜこんなに真っ暗で周りの人達がはっきり見えるのか不思議でならなかった。


「あの、ソード先輩」


 先程質問した者とは別の人物が声を上げる。


「このままだと他のグループと行き先被りませんか?ポータルも一つしかなかったみたいだし……」

「ああ、そのことか。大丈夫だ、行きたい場所を思い描きながら歩いていけば目的の場所に辿り着ける。心配はいらない」


 そう言って迷いなくずんずんと進んでいくソード。案外足が早く、それに遅れないように着いていくのが精一杯だった。

 皆半ば駆け足でソードの後を追い、誰も何も言わずに沈黙が漂う。その沈黙が重たい空気のとなってのしかかってきたその時、前方に光が見えた。


「あそこだ。気をつけろよ」


 ソードは光の中へ入る。それに続いて、新入り達も次々と光へ踏み出していった。









 光の先は、豪奢な大きな部屋だった。床はラピスラズリのような実感、それに混ぜ込んだ金箔がきらきらと輝き、壁は青い何かの鱗がびっしり敷き詰められている。天井には尻尾が蛇になった巨大な亀の彫刻が彫り込まれ、一段と豪勢さに磨きがかけられている。

 そして前をみると─────彫刻の亀がそのまま出てきたような、見上げるほどに巨大な亀が目を閉じて奥に居座っていた。

 そして同時に放たれる威圧感に、思わず一歩後ずさる。

 それに気づいているのかいないのか、ソードが剣を抜くと同時に、亀が目を開く。


「おおぉぉ……何事かと思ったらこの間偵察とやらに来た連中の仲間か……儂を倒す、などという馬鹿げた台詞は本当だったようだなぁ……?」


 そして身体を起こす。もともと巨大だった身体はさらに体高が増し、後ろからは毒々しい色合いの蛇がシュルシュルと威嚇音を出しながら姿を見せる、


「だがお前如き儂の敵ではないわ。随分と人が多いようだが、それでも儂には叶うまい」

「いや、戦うのは俺一人だ」

「……何?」


 亀は不思議そうに目を見張った。


「後ろにいる連中は最近やってきた新入りだ。丁度スケジュールも都合がいいということで連れてきた。こいつらは安全なバリアの中で見学してもらうことになる」

「……お前、喧嘩を売っているのか?」


 亀は苛立たし気に踏みしだく。床がバキリと割れる音がした。


「喧嘩を売っているのかと問われれば、そうだな、そういう事になるかもしれないな。

だが本当に迷惑をかけているのはそっちだぞ?四神の姿を借りてこの世界に侵食しようとしているお前達がな。この世界の本当の女神がボロボロのローブを纏ってこちらの施設に飛び込んで来た時は何事かと思ったぞ」

「フン!あの女神の事か。ちょっと毒液を浴びせただけで怯えて逃げていったあの弱々しい女神より、そして青龍、朱雀、白虎よりも儂の方が神として相応しい。そして儂が思い描く理想郷を作るのだ。他の世界に害を為す訳でもなし、別にいいだろう?」

「よくない。お前の言う理想郷は自分がやりたい放題できる積み木のような世界だろう。現に今、お前達はこの世界に多大な悪影響を与えている。

神の力がなくなった事で太陽や月は姿を隠し、恵みが消えて作物は育たなくなり、飢えから人は人を襲うようになり、今や人類滅亡の一歩手前だ。だからお前を倒す。勿論、俺一人でな」

「馬鹿にしているのか貴様は!」


 右前足をドォン、と地面に叩きつける。その部分に大穴が空いた。蛇の威嚇音は大きくなり、亀の目は苛立たし気にギラついている。


「儂をたった一人で倒すなど、随分と思い上がった真似を!

いいだろう、ならば玄武の名にかけて貴様を惨たらしく殺し、そして新入りとやらも一人残らず殺して管理者に多大な恐怖を与えてやるわ!」


 怒鳴り終えると同時に、蛇の口から無数の紫色の液体が高速で放たれる。気づいた時には既に自分の目の前だ。これはまずい、そう思うと……


バチッ!


「何!?」

「言っただろう。バリアの中で見学してもらうと。それと今のようにノロマな弾を放ってきても無駄だ。全部斬り落としてやる」


 毒の弾はバリアに弾かれ、そのままベシャリと地面に落ちた。ジュウジュウと音を立てながら床を溶かしていくのを見るに、当たったら無視できないダメージを貰っていた。そう考えると背中にぞわりとしたものが走る。

 そしてソードの方だが、本当に全て斬ったらしく足元に紫色の水溜りが出来ている。床と違ってブーツは溶けていないあたり、魔法的な防護策が仕込まれているのだろう。


「む……!」

「お前の攻撃は終わりか?なら今度は此方から行かせてもらう」


 呆然とする玄武を無視するように、ソードは右足を後ろに置き、剣を腰の刀に仕舞った。


「行くぞ」

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