第6話
扉の先は一般的な部屋だった。8畳程の広さの部屋の隅にベッドが置かれ、脇にはクローゼット、さらにその隣には机とテーブルも用意されている。テーブルの上には見たこともない魔道具のような物と下にタオルか敷かれた飲み口を下にしたコップ、そして小型の時計もある。左側には水場も用意されていた。向かって右側には扉があり、扉の曇り具合からして恐らくそこが風呂場なのだろう。
「ここでゆっくりしていってねぇ。あ、そうだ。お兄ちゃん、機械ってわかるぅ?」
「キカイ……?魔法みたいなものか?」
「うーん、厳密には違うんだけど取り敢えずはその認識でいいよぉ。じゃあ説明するねぇ」
そこからの出来事は驚くべき事だった。ボタンとやらを押すだけで湯船に湯が溜まったり、十字型の金具(蛇口と言うらしい)を捻るだけで水が出たり、ケトルとやらからは上の蓋を押すだけでちょうどいい温度の湯が出る。これが魔法を使っていないと言うのだから驚きだ、とコップに注がれた湯を飲みながらカムイは考える。
「あ、ケトルのお湯は魔法で勝手に補充されるから安心してねぇ。それと着替えだけどぉ」
レレはクローゼットにタタタ、と駆け寄り思い切り開け放つ。そこには先ほど見た黒いコートに白いローブ、さらに部屋着や簡単な外用の服のようなものが用意されていた。
「これを勝手に着てねぇ。服のサイズは魔法で調整されるから大丈夫だよぉ。それにこれ、自動修復機能と、マントの裏には四次元の空間がひろがってるんだぁ。便利だよねぇ。それじゃあ明日は私が迎えに来るからそれまでゆっくりしててねぇ。
……あ、そうだ」
立ち去ろうとしたレレは、その場で振り向く。
「お兄ちゃんの名前、聞いてなかったなぁ。
ねぇお兄ちゃん、お名前なぁに?」
「ジコウ。ジコウ・アルスカルだ」
「ジコウ・アルスカルねぇ。覚えておきまぁす」
戯けたように敬礼すると、今度こそレレは扉に向けて走り去った。
「じゃあ、ごゆっくりぃ」
最後に扉を少しだけ開けて、悪戯っぽい笑みと共にその言葉を残し、扉を閉めながら。
「……さて」
一人残されたカムイはその場で伸びをする。
「まずは一風呂入るか」
聖剣をベッドの傍に置き、クローゼットから部屋着を取り出し、独りごちた。
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