第4話
「では、こちらに」
「ああ」
アストの手を取り、ポータルの中に足を踏み入れる。冷たい風が頬を撫でた。
そのまま暗闇の中を進み続ける。ポータルの中は薄ら寒く、廃墟でも設置しようものなら幽霊が出そうな雰囲気だ。
そのまま5分ほど、二人無言で歩き続けた。
「……結構歩くんだな」
「世界と世界を繋ぐ道ですので。世界の距離の場合にもよりますが。今回は長い方です」
そうなのか、とぼんやりした頭で思う。魔族達を救えるとは言ったが、どうやって救うのか、これから何が起きるのか、謎と興味は尽きない。そして聖剣は持ってきてしまってよかったのか、と今更ながら思う。
「……そういえば」
ふと聞きたい事があることを思い出し、話しかける。
「何故俺の思考が分かったんだ?口にも出していなかった筈だぞ」
世界の時が止まった時、間違いなくアストは思考を読んでいた。挙動不審であった自覚はあるが、それにしても不思議すぎる。
「あぁ、その事ですか。私達の必須技能ですよ。研修の際に、そう言う魔法を習うのです」
さも当たり前のように答えるアストを見て、そんなに簡単に出来る事なのかと少し拍子抜けする。
「どうやらアスト達の世界は俺達の世界とは違うようだな」
「それが当たり前です。何より私達は世界を相手にしますから。何よりも卓越した技術が必要なのですよ」
「そうなのか。
……俺は魔法なんて光魔法と回復魔法くらいしか使えないんだが」
「初めは誰しもそのようなものです。習っていくうちに出来るようになりますよ」
「……そういうものか」
自身がない。何せかつての仲間達の中には国家の魔法使いがいたぐらいだ、あれを考えると自分の魔法の才能には自信がなくなってくる。不安な気持ちで顎に手を添えると、アストが微笑みかけた。
「大丈夫ですよ。私達の不老不死の技術を受ければ、魔力は嫌でも上がるようになります。心を読み取る魔法だって、ポータルを作り出す魔法も使えるようになりますよ」
「不老不死……か」
そこでジコウは、アストに目を合わせる。
「そもそも不老不死の技術とはなんだ?どうしてそんなものが必要なんだ?」
「……私達の仕事は、とても危険なものです」
アストは神妙な面持ちで俯いた。
「世界を相手にすることは勿論、世界そのものを我が物にしようとする『敵』。それを相手取るにはもはや不老不死となる他ない。私達はそう結論付けました。そして研究の末、不老不死……に近い技術を開発しました」
そこでアストは足を止め、天を仰ぎ、大きく手を両方に伸ばした。
「命の魂への固着!肉体の時間の停止!傷や大怪我の瞬時再生!そして緊急時の安全圏へのワープ!これらを編み出した私達は、大躍進を遂げました!苦戦していた『敵』相手にも渡り合えるようになり、私達の使命もこなせるようになりました!この力を手にした私達は更なる大躍進を遂げ……」
「……あの、興奮してるところ悪いんだが」
興奮した様子のアストに少し引きながら、ジコウはおずおずと手を挙げる。
「『敵』ってなんだ?魔王とは違うのか?」
「……これは失礼を、説明不足でしたね」
そう言って申し訳なさそうに一礼した。それと同時にまた歩き出す。
「『敵』とは世界を手にしようと目論む者たちの事です。魔王?確かに世界を支配しようとする考えは同じでしょう。ですが奴らはさらにその上、神、もしくはそれより上の存在にに成り変わり、世界の法則を思うがままに支配しようとする連中の事です」
「……それ、世界の管理者と何が違うんだ?」
「ご冗談を!私達は世界の秩序を管理するのが目的ですが、奴らは自分のやりたい放題世界を弄るのが目的ですよ」
呆れたように言うアスト。確かに今のは失言だったかもしれない、と思うジコウ。二人は暗闇の中を歩き続ける。
やがて、前方に光が見えてきた。
「さあ、新しい人生の始まりですよ。どうか幸運の有らんことを」
「アストは?」
「私はまたスカウトの仕事がありますので。この先に行けば、また担当の方がおります。その方に詳細を聞いていただければと」
そう言ったアストはくるりと背を向けて歩き出す。もう話すことはないようだ、そう考えたジコウは光に向けて足を踏み出した。
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