第2話

「……は?」


 あまりにも現実離れした出来事に、思わず気の抜けた声が出る。この男は誰なのか。先程まで自分を殺そうとしていた人々はどこに行ったのか。疑問が頭を走り回る。


「ああ、その事についてはご安心を。今はこの世界の時を止めております」


 それを聞き、慌てて周りを見回す。燃え盛っていたはずの炎はその瞬間の形を維持したままだし、声は自分と男の物しか聞こえない。何より、世界が白と黒に染まっている。


「ふざけるな!世界そのものの時を止めるなんて、国家に認定された魔法使いでも、魔王すら出来なかった事だぞ!」

「それが出来るのが私……いえ、私達なのですよ。今の状態を見て尚信じられないと仰いますか?」


 もう一度辺りを見回す。炎はそのまま、声も聞こえない。信じがたい事だが、信じるしかなさそうだ。そう無理矢理飲み込んだ彼は、男を真っ直ぐに見据える。


「……君は、誰なんだ」

「私ですか。そうですね」


 一瞬考え込む素振りを見せた後、口を開いた。


「今はただのスカウトマン、という事でよろしいでしょうか?」

「ふざけているのか?」

「申し訳ございません。仕事の都合上、安易に名前を教えてはいけないものでして」


 そう言って深く頭を下げる。これ以上迫っても教えてくれそうにないと思った彼は、次の疑問を口にする。


「働いてくれ、とはどういう意味だ。今俺は死にかけていた筈なんだが」

「おお、やっと聞いてくださいましたか。では本題に入りましょう」


 そう言ってまた深く頭を下げ、彼に近寄ってくる。今までの経験から、反射的に聖剣に手を伸ばしそうになったがすんでの所で止まる。何故なら男から敵意はなく、ただ『仕事だから』という雰囲気しか出ていなかったからだ。

 男は目の前までくると、跪き、覗くように目を合わせた。


「まず、最初に。確かに貴方様は今し方死にかけていました。ですが私共の力を使えば、この状況から永久に脱する事が出来ます」


 都合が良すぎる。最初に思ったのはそれだった。逃げている最中散々騙され不意を突かれた身からすれば、疑うのは当然だった。

だがここで話を遮ってしまっては何も進まない。黙って話を促した。


「ですがどんな事にも対価は必要。貴方様には、半永久的に数多の世界に奉仕する仕事が与えられます」

「世界に奉仕、だと?」


 これまでで最大の疑問。思わず口を開いた。


「そう、奉仕。世界を救う……否、管理する仕事です」


 そこで男は、初めてにこりと笑った。

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