夏の贈り物

在原銀雅

SPECIAL SUMMER VACATION

夏はとても暑い。


 それだけではなく、学生にとっては大切な青春の1ページである。例えば、文化祭の出し物の準備や文化祭の本番、スポーツでは甲子園や、フットサルの大会などがある。


 プライベートなことだと友達と海に行くことや、花火大会などといったイベント、夏祭りなどがその代表的な例だろう。


 だが、こんな夏は俺とは真反対だ。夏になるとクーラーを20℃に設定し、ベッドの上で漫画を読んだり、動画を見たりしている。陰キャの高校生の過ごし方なのである。


 おっと!自己紹介をするのを忘れていた!失敬!失敬!俺の名前は利賀俊秀(とがとしひで)高2だ!以後お見知りおきを!


 さて、さっきも説明した通り俺は夏にやることと言ったら家でゴロ寝&夏休みの課題(読書感想文と、俳句その他諸々めんどい)なのだ。


 そうして、俺は夏休みの計画を立てていると誰かに声をかけられた。


「ねぇ、ねぇ、利賀くん夏休みって、何か用事あります?」


 こう、俺に聞いてきたのは、クラスメイトの風月仁音(かずきひとね)だ。風月は、1年のときから俺と同じクラスで今年は俺の隣の席だ。いつも明るく、誰かと一緒に喋っている印象がある。そして、美人!巨乳!性格良!と言った、いいとこづくしの人間なのだ。


 だから、よくモテる…が、しかし、彼女はよく振っている。理由は「好きな人がいるから」だとそうだ。


(クソぉ…一体、誰のことが好きなんだ…!全く…!)


 そう、このように俺も彼女に惹かれている男のひとりでもあるのだ。そんな彼女からのその一声は、俺の中のものを何か動かしたのだ。


「あ、えっと〜…何も…ないよ?強いて言うなら、学校の課題かな?」


「そうですか!ご予定はなにもないということでよろしいですか?」


「あ、うん…イイよ。」


 俺は咄嗟にそう言ってしまった。どうしよう、何かと被ったら…あ、俺、夏休みの予定何も無かったわ。


「で、何をするの?」


「あの…花火大会あるじゃないですか?」


「あぁ…!7月の終わりのね」

この町では、毎年7月の下旬に花火大会があるのだ。なんで、風月が俺に対してその話題を出してきたのだろう?


「その…貴方と一緒に行きたいのですけどよろしいでしょうか?」


「はっ?」


 俺はくっそ驚いた。なんで?俺、特に何もしてなくない?風月とあんまり絡んでないんだが?


「嫌…でしたか?」


 と、泣き出してしまいそうな様子でこちらを見てきた。うぅ…そんな顔をされたら断れねぇーじゃねぇーかよ!


「わ、分かった…!いいよ!一緒に花火見に行こう!」


 そう俺が言った瞬間、風月は嬉しそうに微笑みながら


「良かったです…!あぁ…!あの!私の連絡先の交換をしませんか?」


 来たぁぁぁああ!勝った!勝ったぞ!!この戦い!俺が勝った!と、このような気持ちを押し殺し俺は平然?を装い答えた。


「いいよ、そのほうが集合時間とか集合場所とかを決めれるしね!」


「はい!そうですね。では…早速…」


 そうして、俺と風月はラ●ンを交換した。続けて風月がおれの背景を見て言う。


「おぉ…!背景ネコちゃんですね。このネコちゃんは飼われてるのですか?」


「うん…!そうだよ!かわいいでしょ?」


「はい!とても!可愛いです!」

 

 こういう何気ない会話はとても大切だと思う。相手の知らないことも知れるし、自分のことも話せるからだ。


そうして、俺達は何気ない会話をした。


 たくさん話した。


お互いに好きなものが同じで話が弾み気付けばもう、空は青空と夕焼けの空が混じっていた。


「なんか、話し込んじゃったな…」


「えぇ…!でも、貴方のことたくさん知れた気がします」


「俺も、風月のことたくさん知れたから良かったよ!」


「ねぇ…!利賀君…ううん、俊秀君!」


 突然、風月がおれの名前を呼んできた。


「突然だなっ!?」


驚いた。とても、あの風月が俺のこと名前呼び!?


「あの…!私の事も仁音とお呼びください!」


「あ、うん…。ひ、仁音…」


 めちゃくちゃ緊張した〜!俺、女子のこと呼び捨てにするの初めてだよ!


「はい…!なんですか?俊秀君!」


「すごい…緊張するな…」


「なんというか…心臓が持たない!」


 と俺が言うと、仁音は一笑し、続けた。


「でも、いいじゃないですか!私はこういう時間…好きですよ?」 


 二人で帰りながら、他愛のない会話を続けた。そうして、歩くこと数分


「あら、俊秀君。右なんですね」


「そうだよ、じゃあここでだね」


 お互いに、「花火大会の時まで!」と言い、そのまま帰った。


 家に帰って俺は、枕に顔をうずめた。


「ああああああ!!!めっちゃ緊張したぁぁああ!!でも良かったぁぁああああ!!」


「オイ!うるさいぞ!バカ兄貴!」


「おい!サクラ!勝手に俺の部屋の扉開けんな!」


「いいでしょ!別に!って、そんなに叫んでたけど何かあったの?」


 俺は、妹のサクラに放課後にあったことを洗いざらい話した。すると…


「えぇ〜!!ま、まさか…あのクソ兄貴を誘う子がいたとは…クソ兄貴…!いや、兄貴!頑張りな!」


「お前はどの目線なんだよ」


 そう言うと、サクラは親指を立て、俺を見てきた。


「まぁ、頑張るわ」


 そして、花火大会当日


俺は楽しみすぎて3時間前に来てしまった。早すぎてしまった。どうしよう…!


「あ!俊秀君…?もういたのですか!?」


 仁音はとても驚いていた。だってまだ、2時間前だったから


「おう、そうだ…な…」


俺は、仁音の浴衣姿に目を奪われた。いつもの制服姿とは違い、艶やかに見えた。


「…?どうかしました?私に何かついてますか?」


「な、何もついてないよ!」

 

俺はめちゃくちゃ動揺している。こんなの初めてだもん!


「う、うん…!じゃあ、時間があるし、屋台でも見て回ろうか!」


「はい…!そうしましょう!」


 俺達は屋台を見て回った。定番の焼きそばや、たこ焼き、チョコバナナ、りんご飴などの定番どころや、食べ物以外だと、ヨーヨーや、お面、金魚すくいなどがあった。


「腹が空いては戦は出来ぬって言うからまずは、腹ごしらえからだね」


「えぇ…!俊秀くん何か食べたいものでもありますか?」


「俺は…仁音と同じのを食べるよ」


「えっと〜じゃあ…シンプルに焼きそばはどうですか?」


「おっ!いいね!定番なんだけど、やっぱり焼きそばは外せないよね!」


 ということで、お互いに焼きそばを買った。とても美味しかった。隣に仁音がいたから更に美味しく感じた。


 あと、花火が打ち上がるまで30分ってところだ。


「なぁ、仁音…!」


「はい!何でしょう?」


「俺のさ、おすすめスポットで花火見ないか?」


「俊秀くんのおすすめスポット…!ですか?」


「そう…!俺のおすすめ!」


「気になりますね!行ってみたいです!」


「よし!分かった!行こう!」


「はい…!」


 こうして、俺のおすすめスポットに仁音を連れて行くことにした。


 しかし、突然それは起こる


「キャッ!」


仁音が悲鳴を上げた。


「どうした!仁音!」


俺が慌てて仁音の方を見る。すると、


「鼻緒が切れちゃって…!」


仁音の鼻緒が切れていたのだ。


「それじゃあ、歩けないよな…。じゃあ、俺がおぶって連れて行くよ」


(うっ…柔らかい…!)


 そうして、仁音の体が柔らかいことは置いといて…仁音の鼻緒が切れたことにより俺は仁音をおぶって歩き始めた。


 こうして、人を背負って歩いていると自分の体力の無さに心底呆れる。


「はぁ…はぁ…」


「だ、大丈夫ですか!わ、私が重いからですか!?」


「いや、違う…!俺の体力がないだけ…だから…気にしないで…!」


 そう言いつつも、俺の体力はもう時期限界を迎える。


「あと…ちょっと、だから…そのままでいて、俺は…大丈夫だから」


「わ、わかりました…!」


そうして、仁音を背負って歩くこと数分


「や、やっと…!着いた…!」


「ここまで、お疲れさまでした…!そして、ありがとうございます!俊秀君!」


「ううん…!大丈夫!それより見て…!ここが…俺のお気に入りの場所だよ…!」


そして、俺のお気に入りの場所からの眺めを仁音に見せるすると、


「な、なんという景色…!美しい…」


 この場所からはビルの照明、家の照明、そして、街の明かりなどの煌びやかな光が照らされていてとても明るかった。


「どう?この場所が俺のお気に入りだって言うのが分かった?」


「えぇ…!とても感じておりますとも…!この街の灯りの一つ一つに人が住んでいるのですね…考え深いですね…!」


ヒュ〜ドォ〜ン!!!


 空高く上がった一輪の華…それの様子を見て俺は一瞬で虜にされた。


 夜空に輝く赤、黄、青などの様々な形の華が打ち上げられた。


 その様子を俺たちは一言も喋らずに見ていた。いや、もはや会話すら必要ではなかった。


 そうして、華が夜空に上がり散り始めた…。もう、終わったのだ。


「良かったですね…花火」


「あぁ…そうだな…」


お互い、何も言わずにただ座っているだけだった…。


 その時


「「あの…!」」


 声が被った。俺達は笑った。


「じゃあ、俺から先言っていいか?」


「はい…!どうぞ!」


「俺…仁音のことがすき…だ。こんな陰キャに話しかけてくれて、一緒に花火大火に行ってくれる人を好きにならないわけないじゃん…!」


「そう言っていただけると、私としても嬉しい限りです」


 と、言い仁音は泣き始めた


「えっ!?お、俺何かした?何かしたなら…!謝るよ!ごめん!」


「いえ、別に…私に告白してくれたのが嬉しくて…つい…」


 そう言って、涙を拭いながら続ける


「私は…入学当時からあなたのことが好きでした…。あなたと同じクラスになって、あなたのその優しさと誠実さ、私は…知ってるんですよ?あなたが雨の中、猫を保護したことを…そこからですね、あなたの人だけではなく、猫にまで優しさがあるのは」


「あはは…見られたか…あれ」


「えぇ…!そうです!猫を救ったこともそうですが、あなたが優しいことを私は知っていましたので私は…!好きになったんですよ」


「仁音…!」


 俺たちは…甘いキスをした。チョコバナナや、りんご飴よりも甘い…そして、夏の暑さに負けないような熱いキスを…


 何分経ったのだろう?俺達は時間を忘れて抱き合った。


こうして、俺の特別な夏は終わった。


 この一件以来俺たちの仲は縮まり、俺たちは学校公認のカップルになったのだ。


 そして…その夏から9年後


「ねぇ!パパくらいよこわいよ」


「大丈夫だ!パパがいるから安心して!」 


「今も変わらないね…!ここは…」


 あの後、俺たちは同じ大学を受験し、二人共合格。大学卒業を機に結婚。そして、今は可愛い娘の柑奈(かんな)産まれて家族3人であの花火大会を見に行っている。


「わぁ〜!きれい〜!ねぇ、パパ?」


「ん?柑奈どうしたの?」


「どうして、こんなくらいところにきたの?」


「それはね…ほら!見てみ!」


 娘にも同じように見せないとなと思い今年はここに来た。


「どうだ〜?綺麗だろ?」


「うん!きれいなはなびだねパパ」


「そうだろ?ここはな、パパとママの思い出なんだよ」 


「おもいでってなに?」 


「思い出はね、自分にとって大切なことを思うことだよ」


「うぅ…むずかしいよぉ〜」


「そっか、難しかったか…でも、いずれ、柑奈にもわかる時が来るよ」


「ママもね、パパと来た時のこと今でも覚えてるんだよ!だからね、柑奈、これが思い出の最初なんだよ」

「うん…!なんかわかったかも!」


「そっか…!それなら良かった」


 こうして、3人で花火を見て帰った。また、柑奈が大きくなったらまた3人で見に行きたい…俺ははしゃいで寝た柑奈を背負いながら帰路についていた。思い出にふけながら


「そういえば、初めてきたとき、仁音のこと背負ったよね」


「そうだったね…!あの時はありがとう!そして、ごめん!」


「ううん…!いいんだ!いまこうして仁音と柑奈がいてくれたらそれだけで幸せだから」 


「もう…!俊秀君ったら…!」


仁音は恥ずかしそうにしていた。とても可愛い


 突然…!

 

「パパとママ、なかよし…!だいすき」


 柑奈が寝言を言った。二人でクスクス笑いながらどんな夢見てるんだろう?と話しながら夏の夜空の下を歩いて帰る途中だった。

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夏の贈り物 在原銀雅 @arigin1017

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