第19話「普通に嫌なんですけど」

「じゃあ紹介するね、この人がこのお店のマスター!」

「初めましてジュールスミスミだ、よろしく」


「シモヤマカイトと言います、まあ長いしシモヤマって呼んでください」

 丁寧な言葉で行かなければ失礼な人だと思われてしまう。


「へえ君が噂のシモヤマ君か」

「何か噂になってるんですか?俺は特に何かをした覚えはないのですが」

 特段目立ったような行動はしていないのにいつの間にか島中で広まっていたのだ。


「新メニューのレシピを作ったのは君なのかな?」

「持っていたのは俺ですね、作り方は分かりますのですぐに教えれますよ」

 早めに店を出たかったのでささっと作り方だけ教えることにした。


「これをこうするとカツサンドができます」

「意外と簡単でいいじゃん、名前はどうしよう…」

 名前はカツサンドだけでいいと思っていたがそうではないようだ。


「普通にカツサンドでいいんじゃない〜?」

「あんたがそういうならそれに決定だな!」

 それでいいのか。


「じゃあ俺はこれで失礼しますよ」

「ちょっと待ちな、せっかくだし飲んでいきな」

 そのまま解放されるのかと思っていたが実際はそう甘くなかった、ちゃんと飲んでいかないといけないパターンだ。


「分かりました、でも少しだけしか飲みませんよ?」

 実を言うとお酒があまり好きではないのだ。


「本当はあの子が作る新メニューの味見をして欲しいだけなんだけどね」

「ああそう言うことだったんですね」

 提案をしたのだから責任を持って最後まで監修しろよということだった。


「お待たせー!」

「なかなかうまそうだ、では頂きます…」

 自分で作ったやつよりも格段に美味かった、客に料理をたくさん提供しているだけあって腕は中々のものだ。


「そういえばまだこの子の名前を聞いていませんでした」

「ボクの名前…か、忘れた!」

 なんだそりゃ、名前を忘れるなんてこともあるのかと驚いてしまった。


「名前がないなら仕方がないですね、ですがマスターも知らないなんて不思議ですね」

「拾っただけだからね、最初はあんなに明るい子じゃなかったのよ〜」

「ちょっとー昔の話はやめてよー」

 昔の話をされるのは恥ずかしいのか途中でさえぎられてしまった。


「それじゃあ俺はそろそろ出ますよ」

「あんたは今は旅をしているのか?」

 まあ周りから見れば知らないような人間が立ち入っているのだからただの旅だと思われるのもおかしな話ではない。


「旅というほど大規模なことはしてはいないですね」

「この子のことあんたに預けたいって思ってるんだよね」

 急に預けるなんて言われても困ってしまう。


「この子がそれでいいなら俺は文句も言いませんよ」

「え?でもボクがいても迷惑になるだけだよ?」

 だいぶ自己評価が低くて驚いてしまった。


「迷惑なんかじゃないさ、でもお前がそう思うなら俺はその意思を尊重しよう」

「せっかくいい機会だと思ったのだけれども、あんたがそういうならそれでいいさ」

 意外と諦めが早かった。


「じゃあ俺はこの辺で失礼しますよ、また依頼があれば奴が受けてくれますよ」

「おおっと、まだ報酬を支払っていなかったね」

 ずっしりとした袋を渡されたがこの中にどれだけの量のお金が入っているのかは想像ができない。


「結構いい店だったな、これが近場にあれば良かったんだがな」

 ここまでフレンドリーな人は今までに見たことがなかったから新鮮に感じていた。


「こんなところにいたのかい、でもその様子だと僕が渡した依頼は完了したようだね」

「おかげさまでな」

 とはいえど目的が終わってしまったらもうここにいる理由がない。


「そういえば気になったんだが、お前らってこういうのやって生活をしているのか?」

「他にも魔物を倒したり、薬草を集めたりなんかもあるよ」

 種類が多すぎて説明しきれないのか簡単にまとめていた。


「んー妙だな、日が暮れるのか早くないか?」

「言われてみれば確かにそう感じるね」

 ヒメナがいなくなってから徐々に日照時間が短くなっている。


「じゃあそこら辺で野宿でもすっか」

「今日は仕方がない、夜に出歩くのも良くないからね」

 ここ最近の野宿のおかげで料理をすることができるようになった、だが色んなものを作るということはまだできない。


「今日はこれでいいか」

 色々とメモをされてあるレシピ本から簡単に調理できそうなものを選らんだ。


「豪快ハムトーストだ」

「豪快っていうのはいるのかはわからないがシンプルでいいじゃないか」

 お金も手に入れることができたのでしばらくは宿に泊まることができるかもしれない。


「この後はどうするよ、テクノに帰るか?」

「船が通っていたらね」

 今のこの状況下だと船が通っているかわからないらしい、ヘタをすると帰ることができなくなってしまうという。


「まあ明日見に行ってみるしかないか」


 気がつけば日が昇っていた。


「よし行くか…」

「近くに港町があればいいのだけどね」

 また遠くを歩かされるのは流石にしんどい、だが島というのもあるからどこにでもあると勝手に思ってしまっている。


「そういや地図とかって売ってるのか?」

「僕は一応全部の場所の地図を持っているがどこで買ったかは忘れてしまったよ」

 たくさんの紙を見せられた、きちんとこの島のことも書かれていた。


「結構広いんだな、そりゃこんだけいい暮らしができるわけだな」

「ええっと確かこの近くに………あったあった」

 指を刺しているところを見たら港町があるところだ。


「なんだかなり近くていいじゃないか」

「地図で見るとね」

 地図で見たら近く感じるかもしれないが実際は結構な距離があることには変わりない。


「それじゃあ日が暮れる前に行くとするか」

「何事もなければ到着できると思うよ」

 たまに見せる不気味な笑顔に恐怖を感じてしまう、どういう意味があってその笑顔を見せているのかは理解できない。


「ん?あそこで何か揉め事が起きてないか?」

 ちょっと歩いていたら森のはずれのところで誰かが言い争いをしている声が聞こえてきた。


「ちょっと離してよ!普通に嫌なんですけど!!」

「そう言わず…ちょっとでいいから…ね?」

 あまり関わりたくないような揉め事だったのでスルーしようとしていた。


「でもこのまま放置しているわけにはいかないね」

「んだよ、今回はお前がいけよ?」

 ああいうたぐいの問題ごとは得意ではないので他人に任せるぐらいしかできないのだ。


「さっさと終わらせてくるよ」

 自信ありげな歩き方を見ると少し安心はできる。


「やあお二方、僕も混ぜてもらっていいかな?」

「あ…いやワイは用事思い出したから帰ります…」

 一瞬で連れ去ろうとしていた男がどこかに逃げていってしまった。


「さてとじゃあ僕はこの辺で」

「一体何をしたんだ?あんな一瞬で終わらせるとかすげえな」

 どうやったらそういうことができるのかは理解することができないのが残念だった。


「あの…」

「「ん?」」

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