第16話「手荒い歓迎」

「よく寝た、パンでも焼いて食うか」

 レシピ書には直火焼きトーストと書いてあった。


「直火焼き?焚火であぶればいいのか?」

 適当にあぶっていい感じの焦げ目ができたらひっくり返した、やりすぎると真っ黒になるのでそこは注意しなくてはならない。


「ちょっと苦いが何とか成功したぜ」

 火が強すぎたのかもしれない、だが失敗することも大事だ。


「随分と遅い目覚めだね、約束の時間まであと少しだっていうのに何のんきに調理なんてしてるんだい?」

「すまんな日が昇り始めてから目が覚めるんだ」

 それにしても少し日が昇るのが遅いような気がしている。


「雑談はここまでだ早く支度してくれ」

「わかったわかった」

 時間がないのか急かされてしまった。


「結構遅れてしまったがまだ誰も来てないみたいだね」

「そうだな、でも不自然なくらい静かじゃないか?」

 昨日の賑わいとは一転してありえないくら静かになっていた、一応人はいるがどこもかしこも静かににらめつけているような感じがした。


「なんだか嫌な感じがするよ、あの二人は昨日一緒にいた子じゃないのかい?」

「そもそも私達は人間のことなんて最初から信用してなかったんですよ、まんまと私達の作戦に引っかかったというわけです」


「何が言いてぇ!」

 あの船に乗せた時からが作戦の開始だったらしい。


「話を聞くにあなたは力を取り戻していないそうですね」

「それがどうしたっていうんだ?」


「あたしらの部下は全員特殊な訓練を受けてんだよ、下手するとあんた死ぬよ?」

 他の国の訓練とは別格のとてもハードな訓練を受けているんだそうだ。


「なるほどな。そいつあ手荒い歓迎だな」

「でも黙って見過ごすわけがないよ」

 ヘラヘラした顔ではなく今回は珍しく真顔で話をしていた。


「金髪のあんたの仲間だけは返してやる」

「おや?ヒメナちゃんはどうしたんだい?」

 返すにしても全員返せばいいのだがなぜかヒメナだけ返されないという。


「あの子はいい材料だったから手放すには持っていないって思ったんですよ」

「この男どもをればよろしいのでしょうか?」

 深々と頭を下げているこの男性が部下の一人のように見える。


「ええ、そうよ」

「では早速…」

 鞘から剣を抜くと同時に一気に間合いを詰めてきた。


「うお!びっくりしたぜ」

「へえ貴方、この一瞬の動作を避けることができるんですね」

 間一髪のところで居合を回避できたが次は回避できる自信などあるわけがない。


「もしかして僕のことは眼中にないという事かなあ…」

「避けれる保証はどこにもねえ、全部受けてやる」

 普段の防御の姿勢とはまた違う格好をしていた。


「舐められたものですね」

 どう考えても今のは挑発ではなかったが彼からすると挑発だと感じてしまうようだ。


「見たところあなたは魔法が使えないようですね、これだけ傷があると治るのに結構かかってしまうのでは?」

「問題ねえ…俺は別に死んでも構わん」

 死んでしまっても構わない常にそれを思いながら生きている男だ。


「ではお望み通り殺して差し上げましょう」

「うぐっ!」

 鎖骨辺りから下腹部までざっくりと長い剣で斬られてしまったがそれでもまだ耐えている。


「もうやめた方がいい、本当に死んでしまうぞ!!」

「何も…攻めるだけってのが…戦法じゃねえんだ」

 大体は常に攻め続けているのでs目まくるのが戦法なんだなととらえられてしまってもおかしくはない。


「ここまでされても倒れないなんて、しぶといおじさんですね!」

「うああぁぁ!」

 いきなり両手を上に挙げて何かをしようとしている。


「ぎやああ!!」

 両方の肩の関節を力づくで外した、そのあとに思いっきり顔面を手のひらで叩き掴んで少し遠い場所へと放り投げたが相手は受け身を取ることができないので痛みを全身で受けることになる。


「大したことなかったな…」

「あっさりとやられたね、でも君もすごいけがだと思うが?」

 今までにないやり方でどうにか勝ったがあまりにも代償が大きすぎる。


「いつの間に寝とったんやろか」

「そうだね、君たちは寝すぎだどんだけ寝たら気が済むんだい?」


「おかしいと思わないか?」

 指をさしている方向を見るとなぜかヒメナだけ目を覚ましていない、そこに疑問を持った。


「安静にした方がいいんじゃないかな?」

「今は…それどころじゃない」

 数歩歩いたが途中で力尽きてその場に倒れてしまった。


「う、うーん…」

「まずい状況だねぇ、どうにか隠そうにも隠せれる場所がない」

 最悪の状況で目を開けてしまった。

 完全に置ききる前にどうにかしなければならないのだが辺りを見渡してもどうにかできるような所はない。


「起きてちょうだい。どうしてそんなに傷だらけなの?」

「ねえここ南国なんだよね?こんな寒いことってあるのか?」


「僕に聞くな、それに僕は寒いとかの感覚はよくわからない」

 さっきまで暖かったはずのこの島の気温が急激に低下し始めたが、南国のはずなのに気温が下がるのがおかしく感じている。


「それにどうして体にぬくもりがないの?」

「多分寒いからなんじゃないかな、彼は気を失ってるだけだ僕が今から治療するところだったんだ」

 とりあえず安心させれるように頑張って言い訳をしている。


「そう…じゃあわたしは彼が目を開けるまで待つわ」

「怖すぎるね、久々に死ぬなと思ったよ」

 やっとこさ謎の極寒が収まって一安心したがそれどころの話ではない、早く治療しなければそのまま命を落としてしまうのだ。


「じゃあ僕たちはいったん宿に帰るよ」


「うふふ、やっと二人きりになれたね」

 そうはいってもまだ一方的に語り掛ける感じになっている。


「早く目を覚ましてほしいな…なんてね」

「ん?あれどういう状況だこれ」

 願いに応じるかのようにすっと意識を取り戻した。


「出血しすぎて気を失っていたようだな、あぁ重かっただろうすまんな」

「まだ動いちゃダメよ!」

 立ち上がろうとしたが止められてしまった。どうにも最近はころころと感情が変わっているような…と思っている。


「でも俺はもう大丈夫だ、それにまだやるべきことが残ってる」

「何かあるの?」


「あいつらに俺たちは敵意がないってことを理解させなきゃならねえ」

 最初から信頼されていなかった、それが下山にとってはかなりショックだったのだ。

 どうにかしてでも信頼度を復活させなくては今後がどうなるか怪しい。


「俺に一つだけ考えがある」

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