第15話「これが本当の…」

「いやっ!待って、行かないで!!」

 そう言いながらパッと目が覚めた。


「ん?ようやく起きたか、だいぶうなされていたから心配したぜ」

「何か悪い夢でも見たのでしょうか?」

 よく見ると汗が結構出ている、それくらい酷い光景でも見たとうかがえる。


「はっ、はっ…下…山君、よかった…ぐすっ、生きてる!」

「おいおい、俺は生きてるぞ勝手に殺すな」

 急に泣き出したのでとりあえず頭をなでたがこれでもまだ落ち着かないらしい。


「よし飲み物とってくる。長い船旅だし水分補給は大事だぜ」

 飲み物を取りに行こうとして立ち上がったところで上着を掴まれて止められてしまった。


「どうしたんだ?」

「ふふふっ、これで安心。他の女にとられる心配はないわ」

 何をされたか全くわからなかったが何やら一安心したような顔をしていた。


「君は鈍感にもほどがあるよ」

「鈍感だと?何を言ってるんだか」

 ハルト達もこっそりと乗船していたのだがもはやいるのがデフォルトみたいになってしまっているので何一つ驚かなくなってしまっていた。


「全く面倒な二人だねむしろお似合いな気がするよ」

「すーぐあんたはどっか行くなあ、はよ戻るで」

 いくらなんでも自由すぎる、いつもどこかをぶらついているとよく聞く。


「そうや、あんまり恋心をもてあそんだらあかんで」

「本当にどう言う意味だ?」


「彼には何を言っても伝わらないさ」

 気づかないにもほどがあるくらいには何一つ気づいていない。


「とりあえず水でも入れてくるか」

 飲み物を取ってくるという約束をしたからには時間がかかってもいいので取りにいかねばならない。


「しっかしどこが厨房ちゅうぼうなんだ?」

 そもそも厨房ちゅうぼう自体がない可能性の方がある。


「何か探し物でもあるんですか?」

「ん?ああ、水を探しに来たんだがどこにあるか分かるか?」

 ちょうどいいところにミリネが話しかけてくれた。


「それでしたらこちらに」

「お前が持っていたのか、探し回ったことに後悔しそうだぜ」

 いうほど歩いてはいないがそれでも時間を無駄にしてしまっている。


「早く持って行ってあげてください」

「そうだな」

 水が入ったビンを割ってしまわないようにゆっくりと部屋に戻ることにした。


「なぜ毎回ガラス瓶を渡されるんだか」

 今は慎重になっているが昔は急いで帰っていた途中につまづいて見事に割れたことがあった。


「タルとかで渡されるのならまだいいのだがな」

 重量があるくらいで耐久性はガラスに比べたらかなり高い。


「水にしては少し濁っているような…透明ってイメージがあったがここの世界だと違うのか?」

 ほんのり濁ってる程度でほぼほぼ誤差のようなものだがそういうのも気にしてしまう。


「いい眺めだな、おっと景色を堪能たんのうしてる場合ではないな」

「本当に…いい景色だわ」

 多少はふらつきがあるもののだいぶ落ち着いたのか甲板まで出てきた。


「おおヒメナか、これ水だこれ飲めば多少は落ち着くだろ」

「ありがとう」

 飲み終わったガラス瓶はなかったかのように消えていった、どういう原理かが気になってしまうところだ。


「あとどれくらいの距離があるのか少し見に行くか?」

「待って!その前に…言いたいことがあるの…」

 あまり聞いたことのないような大きな声で引き留められた。


「ん?どうしたんだ、また具合でも悪いのか?」

「違う…わたしはあなたのことが……好き…なの」


「いきなりだな。それを言われるのも久々すぎて驚いたぜ」

 過去にもそんな感じのことを言われていたが全部冗談だと思って受け流していたが今回ばかりはやっと冗談じゃないという事に気づいたのだ。


「そろそろお前の気持ちに応えないとな」

 さすがにここまできて受け流すってのもよくない。


「え?それってつまり」

「そのままの意味だ」

 ここではっきりと言わないのが下山の悪いところだ。


「一つだけ言いそびれていたことがある、あまり急ぐなよ」

「もちろん分かっているわ」

 彼はなぜこのタイミングで好きなどと言い出したのかは全く理解できていない。


「もうすぐ到着しますよ~」

「すぐにお前たちの荷物を下す準備をしよう」

 そこまで遠くないとは言われていたが結構な時間乗船していたような気がする。


「ほかの人たちもそこまで多く荷物を持ってきていないようだな」

 一つだけばかでかい箱倉庫の角の方に置いてあった。


「ん?これはなんだ、結構ずっしりとしているな」

 一体何を詰め込んだのかが気になってしまうくらいには重たかった。


「よっこらせっと」

 いつでも船から降ろせるように近くに置いた。


「そういえばお二人はどこで一夜を過ごす予定なんですか?」

「ん?俺は自前のテントがあるから俺はそこで寝るよ」


「どうやったらあんな大きなテントが入るのよ」

 盛大に突っ込まれてしまった。


「下山様は野宿がお好きなんですね」

「いや…そういうわけではない」

 金があれば宿に泊まっているのだが、あいにく所持金がゼロなのだ。


 本来は金稼ぎとかをした方がいいのであろうが特に困っていない、そんな言い訳ばかり述べてるからいつまでも所持金がないのかもしれない。


「ヒメナ様をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「これまたいきなりだな、構わんぞ」

 所謂いわゆる女子会というものでも開くのだろう、借りるくらいは好きにしてもらっても構わない。


「ということは僕たちは邪魔みたいだね」

「だな」

 今乗船してる人で男なのは二人だけである、そもそもハルトが乗っていなかったら一人だった。


「つきましたよー、リューマノ渡船場です!」

「おお、随分とにぎわってるな」

 それだけ観光者の出入りが多いのだろう、よく見るとほぼほぼエルフしかいない。


「こっから自由行動だ。俺は少し渡船場の外でも歩いてくる」

「私達は宿の方に向かいますね」

 他の場所に比べて少し暖かい島に感じた。傾斜の激しい山とかは特にはなく緩やかに広がる山だけが真ん中の方にあった。


「ここはテントが張りやすそうだな、今日はここで泊まるか」

 広めの平べったい岩があった、ちょうどいい広さなので野宿には向いている。


「もう日暮れか早いな。さっきまで真昼間だった気がするが」

 渡船場に着いた時も日がまだ真上にあった。


「一応食材ももってきておいたが正解だったな」

 カリンからレシピの書いた紙をもらっているので作ることはできる。


「なんだこれ試作・野菜たっぷりシチュー?ちょうど手持ちの食材で作れそうだな」

 とりあえず書いてある通りに仕込みをしたので失敗するわけがない。


「結構うまそうだな」

 いろどりがあって見栄えもよい、これで試作とはなんだか勿体ないと思えてしまった。


「いいなこれ、いいコクがあって食べ応えがあるぞ」

 最近はあまり姿を見ないが今度であったときに試作じゃなくてもうこれでいこうと決めた。


「さてと皿を片付けて寝るとするか」

 今度は朝飯を考えないといけないがさっきので手持ちの食材を使い果たしてしまった。


「こういう時はパンとかがあったはずだ」

 調理台の隣の箱に大量にパンが入れられていた。

「こりゃしばらく困らないな、飯食ったし早く寝るか」

 レシピ本のおかげで空腹に悩まされずに済んだ。

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