第三章 エルフの住む島

第14話「招待の理由」

「うお!?なんだこりゃ一瞬で砂浜についちまった」

「実はもうお迎えの船が来てるんですよ」

 随分ずいぶんと豪華な船だ、それほどまでに財力のあるところなのかもしれない。


「そういやどれくらい離れてるんだ?」

「そんなに離れてないですよ」

 逃亡するときにこの大陸が近くなかったらそもそもここには来ていなかったはずだ、でも近いといってもかなりの期間の船の旅にはなるだろう。


「あら、お迎えにしては随分ずいぶんと手厚いじゃない」

「なんでお前がここにいるんだ?」

 なぜか一緒に船に乗っていた。ずっとついてきていたという事になる。


「一応はこちら側の属国だったものわたしが居て当然でしょう。属国といっても形だけだったのだけど…」

「そうですね、そちらの国のおかげで私達の生活が豊かになりましたからね」

 島というのもあってかどうしても資源不足という状態に陥りやすい、属国となると何もかもがさらに制限されてしまうが先代の皇帝はそのようなことはしなかったらしい。


「少し気になったのですがどうしてお二人は同じ服装なんです?」

「ん?ああ、俺も気になってるんだ」


「今やあなたと同じ色の服は街中の服屋で売られてるわ」

 あれだけ目立ちまくっていたのだから売られ始めるのもおかしくはない。


「そういえばお前たちの名前をまだ聞いてなかったな」


「私はミリネ」

あたしはクレハっていうんだ」

 顔だけ見ても二人とも同じ顔をしてるので名前を聞かない限りはどっちがどっちとなってしまう。


「ん?二人だけだったか?前会ったときは四人いたはずだが」

「それはですね…」

 何やら話しづらそうにしている。


「あたしらがあんたを招待したのは、あの二人を元に戻してほしいからなんだ」

「どういうことだ?いったい何があったっていうんだ」

 常に一緒に行動していたのならはぐれるということはありえない。


「何者かにさらわれたんです」

「なんだと!?でもなんで故郷にいるなんてわかるんだ?」


「魔法で共有してるのよ」

「へえ」

 すごすぎて言葉が出ない、逆にどういう反応をすればいいのかわからなくなるレベルだ。


「あれがミリネたちの住んでいた島か」

「そうですね、今は住居とかが破壊されつくしていますが」

 思ったよりも近かった、数日かかるなんて予想していたけど全然そんなことはなかった。


「島にしては結構でかいな」

「なんだか嫌な感じね」

 ヒメナは何かを感じ取っているみたいだが下山は何も感じ取れていない。


「ここが船着き場跡か」

「侵略されてからは全員奴隷としてとらえられてますからね」

 観光客もみなここに訪れていたのだろう、とてもオシャレな建物だ。


「なんだこいつらは!」

 見たこともない魔物がうじゃうじゃと現れた、それも一匹ではなく十匹ぐらいの群れで襲い掛かってきた。


「なんで魔法が使えないのよ!」

「くそ…どけ」

 魔法が放てないのであればこの数の未知の魔物を相手にするのは厳しい。


「走って逃げるぞ」

「分かりました!」

 ある程度の距離を走ると謎の魔物は追いかけるのをやめた。


「なんでこんな安全じゃないんだ?」

「きっと奴らがばらまいたのよ」

 占領したついでに開発した魔物たちを島全体にばらまいたというのだ。


 全部倒すのはかなり厳しいしこの前みたいに大苦戦をいられる可能性もある、出会ったらまずは退しりぞく必要がある。


「グルルルルル…」

「走って逃げるってのも無理だな」

 全長三メートルはある巨大な未知の魔物が突然として目の前に出てきた。


「魔法が使えないならわたしたちはただのお荷物になるわね」

「かまわない俺一人で頑張ってみるよ」

 なぜかこの島に来てから他の三人が魔法を出すことが不可能となっていた、もしかしたら制御しているのかもしれない。


「グア!」

「おっとあぶねえ」

 大きな剣をぎりぎりのところでかわした。


「こちらからも何かしかけないとな」

 一発殴ってみたものの硬すぎてしっかりとダメージを与えることができない。


「この感覚あの時と同じだな」

「あの時って、まさか!」

 数刻前も似たような人造の魔物と戦ったが、あの魔物も攻撃に対しての耐性がかなり高かった。


「弱点らしきものは見つからないな」

「グルァ!」

 見つける前に殺されそうだ、ここは攻撃に集中するしかない。


「こうなったら一度スタンさせるしかないか」

「スタンってなに?」


「待って!確かに攻撃魔法は放てない、でもサポート魔法なら使えるわ!!」

 すべての魔法が封じられているのではなく攻撃魔法のみ謎の力によって封じられているらしい。


「でもあたしはサポートできるもの持ってないよ」

「お恥ずかしい話ですが私もなにもありません」

 そんな急に言われても用意なんてしているわけがないし、そもそも逃げるので精いっぱいの時に何か持ち歩く余裕すらもない。


「ハッ!」

「グガガガガ…」

 ちょうどいい感じのところに当たったようで、見事に巨大な魔物がマヒした。


「これで多少は時間が稼げるか?」

「時間稼いでもわたしたちじゃどうすることもできないわ」

 そういえば近接系はほぼ不可能だったことをすっかり忘れていた、ほかにもう一人いるのであればスタン攻撃は有効かもしれないが。


「クソ!しくった、とりあえず上に吹き飛ばす!」

「グハッ!!」

 綺麗なアッパーを食らった巨大な魔物は空中で一回転して地面に激突した。


「す、すごいわ!これならいけるかもしれないわね」

「はぁ…はぁ…まだ起き上がってくるか」


「グググ!」

 大きな剣を地面に突き刺してゆっくりと起き上がった。


「お前たちは先に行け…この場に全員いても無駄死にする可能性が高い、安全な場所でしっかり楽しんで来い!」

「あなたねえ、旅行に来てるんじゃ…」

 最初から旅行気分で船に乗っていて、今この時もこの島の観光をしていると勝手に思い込んでいるらしい。


「(幻覚でも見えてるのかしら)」

 幻覚を見てる以外には、こんな危険な状況で楽しんで来いよなんて言えるわけがない。


「じゃあな」

 その瞬間気づいた。彼とここで別れたら一生合うことができないという事に。


 こちら側に被害が及ばぬよう下山は挑発するなりしておびき寄せながら向こうの方へと走り去っていった。

「嘘よ!わたしたちだけで楽しめるわけがないじゃない!」

 その声が届くことはない、それぐらい彼との距離が離れてしまっている。


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