第11話「不穏な空気」

「しっかりと寄り添ってやれや」

「それじゃあ僕らはこの辺で」

 そう言って三人はどこかに行ってしまった。


「看病でもしておくか」

 すごい熱だ、こんなことになるまで仕事をしていたのだろうか。だとしたら許せない。


「仕事のし過ぎでこうなったのか?だとしてもうなされすぎているような」

「手を握って…ほしい、あなたの助けが必要」

 やっと子供らしく甘えてくれるようになったなと思いながら言われた通りに手を握ってあげた。


「くそ!せっかくあとちょっとで終わるところだったのに!!」

「あ?誰だお前は」

 どうやらここは彼女の意識空間の中らしい、魔法によってここまで連れてこられたのかそれか共有しているからなのか。


「あーあなんでこんなタイミングで邪魔が入るのかなあ」

「俺もさっぱりわからんがな」

 邪魔が入るといっていたという事はこいつが裏で操っていたやからに違いない。


「見られちまった以上は仕方ねえ、とりあえずお前殴るわ」

「ほう?殴りたきゃ好きにするといいさ」

 見られた以上は殴るしかないとかいう考えを持っているのは結構恐ろしい、とはいえど下山もかつてそういうことはしたことがある。


「んじゃあさっそくやらせてもらうぜ」

「かかって来い!」

 目の前にいるのはもう少しで洗脳できるところを邪魔してきた男だ、容赦をする必要などない。


 一つだけ気になることがあった、それはなぜ武器を持たないのか。それが不思議に思えた。

 いきなり走ってきたかと思えば前蹴りをされた、かなりの威力で痛みがかなりある。


「グハ!不意打ち攻撃とはやるなあ」

「不意打ちではないがな、走っていたじゃないか」

 走ってきた時が合図らしい、それでも蹴りが早すぎて避けれる保証はない。


「こっちは魔法が使えるんだお前にとっては不利だろう」

「ふっ、そうかもな」

 だが何を唱えても技が発動することはなかった。


「なんだと!?ここでは使えないという事か」

「じゃあ遠慮なくやらせてもらうぜ」

 四連続のパンチをまともにくらってしまった、幸いなところに当たりどころが悪いところはなかった。


「ぐぬう…なんて強さだ」

 こっちは剣やら弓やらをもっているので圧倒的有利なのだ。


「どうだぁ!?」

「うわあ!」

 ギリギリのところで避けられてしまった、回避のキレがよすぎる。


「死ねよ!!」

 連続の突き技で一気に詰め寄る、これを回避できたものは誰一人としてみたことがない。


「くそ!」

 最後の一突きだけ命中した、だいぶ深く刺さったのでこれで勝てるだろうと思った。


「こっちも行くぞー」

 いきなり構えが変わった何の意味があるかは全く分かっていない。


「構えが変わった程度で何が違うというんだ」

 まず放ってきたのはまたもや四連続の素早いパンチだった。


「な、なんだ?体がしびれてっ…」

「この殴りは当たり所によっては体がしびれるようになっているんだ、つまり麻痺ってことさ」

 正面から当たってしまったというのもあるがあれに関してはよけきれない。


「早く覚ませよ」

 アッパー攻撃によってようやく体のしびれがなくなった。


「どうだぁ!?痛いか!」

 自身の魔力で生成した武器と自前の剣を合わせた斬撃は美しいと感じてしまった。


「まさかそんな力を持っていたとはな」

「俺はなんていったって国王だからな!当たり前だ」

 国王と聞いて一つだけピンときたことがある、もしかしたらこいつがアスパル王国の国王なのかもしれない。


「名前を聞いてもいいか?」

「俺はカズヒロだ」

 少しずつだが怒りの感情がわいてきてしまった、こいつがヒメナを操ろうとしていて我がものとしようとしていたからだ。


「っしゃあ!来いよ」

「重心を低くして構えただと?今度は何の意味が…」

 大きな岩を持ち上げてカズヒロに向かってぶん投げた。


「どわあああ!」

 いきなり岩を投げつけられてビビっていた、だがそれでも攻撃がやまないのが下山だ。


「あ…あまり舐めるなよ!」

 虚空こくうから剣や盾、槍などを召喚し下山にめがけて操作をしていた。


「んぐっ!」

 まともにくらいすぎて倒れてしまった。


 魔法で遠距離攻撃をしてくる人が一番苦手である、しかも勢いが弱まることがないので余計に前に出にくい。

 苦手だからと言って手を引くわけにはいかない。


「っしゃああ!」

「こ、こいつどれだけ形態を持っているんだ!!ずるいぞ」

 どれだけといっても四つしか持っていないが、これだけ連続でかえるとそりゃ十個くらい持ってるといわれても仕方がない。


「とにかくこいつを倒すことに集中しなければ…俺の儀式がここで止まってしまう」

「同じ手はもうくらわねえぜ」

 一本一本の武器の飛んでくる方向が全部同じなのでどうやって回避すれば当たらないかわかってしまうのだ。


「そんなすぐに適応されてたまるか!」

「でもお前にはまだあるんだろ?」

 ゆっくりとカズヒロに迫っていた、その姿はまるで怒らせた龍のような感じだった。


「くっ!こいつを洗脳するのは無理そうだ…逃げるぜ!」

 そういってスーッと姿を消していった、ピンチになると逃げるようだ。


「終わったのはいいのだがどうやって戻るんだ?」

 最初に入ったときは手を握ったが、ここにいるときは握ることなど当然不可能。ましてや触ることすらできない。


「うおっ!?なんだ?」

 いきなり光に包まれた、何が起こるかわからないため念のためいつでも戦えるように構えていた。


「やっと出られたか…」

 どうやらこの光は外に出してくれるものらしい、おかげで元の場所へと帰ることができた。


「あなたのおかげで治ったわ」

「ん?何が治ったんだ?」

 そういえば何に苦しめられていたのか聞いていなかったが大方予想がつく。

 あのアスパル王の魔術の仕業以外ないはずだ。


「瘴気にむしばまれていただけよ」

「なんだと!?」

 じゃああの男は瘴気が集まってできたただの亡霊だったのかと思ってしまった。


「でもタイミングが合うとは思わなかったわ、これでわたしが操られる脅威はなくなったみたいだし」

「ま、たしかにな」

 ただ激しい戦いだったので服とかが傷だらけになっていた。


「これを飲みなさい」

「ん?なんだこれは」

 見た感じだと怪しい液体にしか見えないが高級な瓶に入っているから怪しいものではなさそうだ。


「これは万能薬のエリクサーよ」

「ほうこれが幻の栄養ドリンクか」

 聞くにどんなケガも一瞬で治るらしいがどこで生産されているかわからないため今や幻の飲み物となっている。


「早く飲みなさい、そしてわたしの傍にいて」

「そうかすなって」

 スッキリとした味わいでかなり飲みやすかった、飲んでしばらくするとケガの傷がえていった。


「さてと俺も疲れたし一休みさせてもらうぜ」

「わたしも疲れてしまったから一緒に休むわ」

 休んでから少し経った後、急に足音が聞こえてきたのだ。


「誰かが近づいてきてるな」

「怖い!」

 そういって下山の服をぎゅっと掴んだ、掴んでいる手が震えている。怖がっている証拠だ。


「陛下!こんなところにいらしてたんですか」

「お、側近か?」

 全力で走ってきているから何やら緊急事態でも起きたのかとなっている。


「海から見たのですがもうすぐ王国軍がやってきます!!」

「なんだと!?」

 ずっと怯えていて一言もしゃべらないので代わりに下山が反応をした。


「それよりあなたは陛下の何なんですか?」

「今はそんなこと聞いてる場合じゃないだろ、俺たちも行くぞ」

 歩くことすら不可能なくらいになっていたので仕方なく抱えて向かうことにした。


「何かにずっと怯えていたのはわかっていたがまさか奴とはな」

 脅威の相手はカズヒロだった、裏でこそこそと動いていたのだろう。


「だがこんなに早く来るとはな」

「やっぱり来たのかい?どうやらあっちの方でひそかに日程を早めていたらしい」

 もちろん奴の目的はわかっている、このヒメナ陛下だ。


「こっちはあまり兵隊がいないというのに向こうは一万人の軍だぜ、だいぶ不利な気がするね」

「何を言ってるんだか、俺はまだお前の本気を見てないぞ」

 常に手を抜きまくっている姿しか見ていなかったから本気のハルトも気になってしまった。


「いいよ今回は手を抜く気はないしね」

「お、こりゃ楽しみだな」

 一万の軍勢に手抜いてたら普通に負けてしまうので仕方なく本気で行くらしい。


「うし、行くか」

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