第10話「やっと帰ってこれた」

「もう帰宅してもらっても大丈夫ですよ、それにしても君はすごい体の持ち主ですね」

「本当か!?そんなすぐ帰っても大丈夫なんだな」

 そこまでケガが深刻なわけではなかった、そのおかげで早めに帰宅することが可能となった。


「カリン、それからヒメナさんも帰ろうか」

「「はい!!」」

 二人揃っていい返事を返してくれた。元気がある姿を見るとこっちまで元気になる。


「でも本当にこの街の医療技術はかなり発展してるな」

 魔法という最強な力があるおかげなのかもしれない、それによって治癒する期間も短くなるのも事実。


「やっとこさ元の暮らしに戻れるんだな」

「わたしがテレポートを使って家に連れていきましょう」

 ありえないくらい便利だった、一瞬で自分たちの拠点へと戻ることができた。


「ちょっとだけ違うことやってみるか」

「何かするんですか?」

 ポケットをガサガサとあさってみると昔買った野菜の種があった。


 これを使ってやる事といえば種まき以外ない。

 ただ問題がある、種まきといっても土がなければ意味がない。ほぼ砂浜なので土という存在がない。


「うーん困ったな」

「どうしたんですか?なにかダメなことでもあったんですか?」

 下山が何かやっていると絶対に覗いてくるのがカリンだ、一個一個の挙動が気になってしまうらしい。


「これは諦めるか」

 種をまた上着のポケットの中へとしまった。諦める速度はかなり早い、とはいえど一回くらいは農業をやってみたかったなと思ってしまった。


「ん?なんだお前はこんなところで仕事やってるんだな」

「本当はやりたくないんだけど仕方なくね」

 国を背負ってる分やることも普通に多いのだ、さらにはアスパル王国が攻めてくるなんて言う話もあるから余計忙しくなっている。


「疲れたらしっかりと休めよ、体を壊したら元も子もない」

「心配してくれる人がいてくれるだけ嬉しい」

 その発言を聞いて今まで誰も心配してなかったのか!と驚いてしまった。


 過労で倒れてしまうと後々が大変になる、作業も止まってしまうし何よりも死んでしまう可能性がある。


「ちょっと外の空気吸ってくる」

「いってらっしゃい」

 外から見るとただのテントだが中は全然違うようになっている。


「こんなところにいたんだね」

「よくわかったな」

 どこが拠点なのか一切教えていないのになぜかすぐ見つかってしまった。


 そんなに目立つ建物だったかなとよーく見てみたがそんなに目立つような要素がない。

「それよりもまた何か用でもあるのか?」

「ん?ああ僕の仲間の一人のノゾミが打ち込み稽古してほしいんだとさ」

 いきないすぎる話だが打ち込み稽古ならほかの人に頼めばいいじゃないかと思ってしまった。


「あ、よかったらお願いします」

「うーん、わかったいいぞ」

 やってほしいっていう要望に応じた。


「まずはお手並み拝見と行こうか」

 通常の構えと変わらないが少しだけ技が違う。


「お手並み拝見の攻撃ではないように見える」

 いつも使ってる戦闘スタイルと変わらないくらいの威力をしている。


「でも一個一個の動作が遅いから簡単にかわせるよ?」

「ふっ言ったろ、ただの準備運動だって」

 体を温めるだけの動作に過ぎないらしい、動作が遅いが命中してしまえば当たり所によっては負けてしまう。


「あまり私を舐めないほうがいいよ」

 素早いラッシュコンボを決めた、なんと全発命中したのだ。


「こっちも行くぞ!」

 やっとこさ準備運動が終わったのか構えが変わった、しかし誰も見たことのない構えをしている。


「へえ隠し持ってるとはね」

 打ち込み稽古のはずなのに下山からはあまり攻撃をしてこないことを不思議に思った。


「なんで君は反撃とかしてこないの?」

「ただのトレーニングだろ?殺し合いをしてるわけじゃねえからな」

 シンプルな理由だった、だが本気の戦いではないからといっても何もしてこないのはトレーニングとはいいがたい。


「だったら三人で一気に練習しましょう、その方が効率もいいでしょ?」

「え?うちもやるんか」

「僕は遠慮しとくよ」

 他二人は乗り気ではなかった、彼の実力を知っていたら誰でもそうなる。


「君は一回彼の本気を見た方がいいよ」

「でもノゾミが言うならうちも混ざるか」

 まだ名前も知らない人が混ざってきたがそれはそれで面白いので下山にとっては好都合。


「はあ僕もやるか」

「さっさときな」

 それでも見たことのない構えは変えなかった、何か裏があるのだろうかと気になってしまった。


「さあやってやりましょう!」

 下山はやっとこさこの冒険者チームの連携技が見れると思ってワクワクしていたのだ。


「やっぱりやめたいわ」

「やるしかないさこれなら僕たちの方が有利さ」

 三対一なのでそりゃあ人数が多い方が有利だが本気を出されると一気に不利に変わってしまう可能性もある。


 百人いてもパッと倒してしまうくらいの実力者だ、油断すると危ない。

「そらそらぁ!」

 攻めることしか考えておらず一、一気にラッシュコンボを決め続けていた。


「ぬぅ…なかなかやるな」

「こんな私でも他の人と比べたら強いもの」

 何をいってるんだかと呆れてしまったような顔を二人はしていた、しかも全然乗り気じゃないのでほぼ立ったまま止まっている。


「なるほどな俺も舐められたもんだな」

「や…やばいぞ」

 汗をだらだらと流しながらそう言った、あのアホみたいに強い戦闘スタイルが来るのかと思うと逃げたくてしょうがなくなる。


「っしゃあ!」

 いつもの構えに戻った、つまり稽古とか言いながらも本気の戦いになる。


「僕たちは逃げるか」

「うちは逃げてないんだからあんたは逃げたらダメに決まってるやろ」

 逃げようとしているハルトをしっかりと掴んで逃げないようにしていた。


 下山も同様にラッシュコンボを行った。

「う、うそ!?なんでこんなに強くなるのよ」


 ただだいぶ手は抜いてくれてるので威力自体はそこまで大きくはない、手加減しなかったらその鎧も粉々に砕け散っている。


「なら私も負けてられない!!」

 ふところから取り出しのはキラキラと輝いている剣だ。


「見るからに高級そうな武器だな」

「当たり前よ、この時のために刃を研いでもらったんだから」

 この日のためにと言うことは訓練をしてもらう前提でやってたと言うことになる。


「勝ためなら選ばない!!」

 手段を選ばないとか言われた時は流石に驚いてしまった。


「なるほど剣技の腕前は確かだな」

 褒めることしかしていないが別に勝ち負けを気にするようなものでは無い、そう思っている。


「これでケリをつけるわ」

 姿が消えたかと思えば一瞬で間合いを詰めて腹に向かって剣をぶっ刺してきた。


「ぬおおおお」

 刺された瞬間に激痛が走りその場に座り込んでしまった。


「ふふん、これがゴリ押しよ」

「何をやってるんだい!?トレーニングって言ったのになんで真剣なんかつかったんだい?」

 普通は木刀だったりもしくは常に拳でやったりするのだが世間知らずすぎて真剣を持ってくるとかいうとんでもないことをした。


「お、お父さん!!大丈夫?」

「誰がお父さんだ…見たらわかるが大丈夫じゃない」

 頭が狂ってるのかと、こいつとは一生やらないと心に決めた。


 手段を選ばないのは勝手だがまさか刺してくるとは思っていなかったため身構えることができなかったのも恥だなと自分を叱咤しったしていた。


「わたしが傷を癒す」

 何かぶつぶつと言った後に刺された場所の傷口が塞がった、便利は便利だなと言うことも分かった。


「流石の僕も焦ったよ、しっかりと叱っておくから気にしないでくれ」

「ふっ、そうだな。俺はもう気にしてないし大丈夫だ」

 傷が癒えたのでいつものように立ち上がった。座ったまま話すのも失礼な気がしたからだ。


「あとこれは返す」

「なんだか腑に落ちないわ」


「何を言うとるねん」

 どうやらノゾミからすると勝った気分にはなれなかったらしい。


「なんだか…意識が…朦朧もうろうとして…」

「おい!これはやばい!!」

 急に塞ぎ混んでしまった、熱もあると言うことは体調不良ということになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る