第9話「この胸のモヤモヤはなんなの?」
朝起きたら見知らぬ男が入っていた。
どうしてこうなったのか全く思い出せずにいた、でも何もされていなかったので悪い人間ではないことが確かだ。
「あの人はいったい誰なの、それに私サイズのあの人と同じ服もあったし意味が分からないわ」
それでもあの男の人といた時は安心感があった、どんなボディガードよりも安心感が大きい。
「これはわたし自身が真相を確かめるしかない」
こう見えても魔法が得意である、数多くの魔法を扱うことができる。
そして何よりも変装魔法が一番好きであり昔からよく使っていた。
「ありえないわ空白の期間がありすぎてほぼ扱えなくなってしまってるわ」
使っていない時間が長すぎて全部使えていたのにいつの間にか詠唱を忘れていたのだ。
「あまり服は持っていないしこれを着ていくしかないわね」
今はこれしかない。でもなぜだかわからないがかなりしっくりくる。
「まずはあの人を探さないと」
探し出すには聞き込みも大事だと祖父から学んだことがある、魔法だけではたまにあたらないこともある。
「ねえ、この服を着た人を見なかった?」
「ああ下山のことですか…それならなんか北側に進んでいってましたよ」
ここで名前がようやくわかった、あの男の名は下山というらしい。
だが服を見せただけで一瞬で判別がつくのはどれほど有名なのだろうか、気になってしまった。
「ありがとう!」
「どういたしましてーお嬢様もお気をつけて」
北側となると城方面しかない、なぜ彼は城に向かっているのだろうか疑問が浮かんでくる。
「うぅ…」
途中で歩いたところで片膝を地につけてしまった。
「はぁっ…はぁ…おかしいわ…なんで…こんなに体調が悪いの…?」
「(あーららこんなになるまで放っておいたなんて自業自得だねえ、でもこれでようやく我がモノとなる!)」
何者かの声が脳へと直接語り掛けてくる。
「頭が痛い!でも…なんだか力があふれ出てくる感じがするわ!!」
「(ふふふ…それでいい)」
そう言い残して何者かの声は聞こえなくなってしまった。
まるで操り人形みたく容姿が完全に変わってしまっていた、今まで使っていた魔法よりもさらに多くのものが使える。
「なるほどな寒さの原因はお前だったか」
「アッハハハハ!!ワタシの邪魔をするなら殺すわよ!!」
今までの穏やかな発言とは異なり狂気的な発言ばかりしている、あきらかに様子がおかしい。
「構えるんだカイト!今は止めるしかない」
「交渉の余地はなし…か、仕方ねえな」
攻撃手段は知らないからむやみやたらに攻めるのは自ら死にに行くようなもの。
「今のワタシは貴様ら二人よりも強いわ!!」
「ふっ、そうだろうが俺たちはビビってる余裕がねえんだ」
そりゃあ怖いに決まってる、何しろ相手は一番苦手とする遠隔攻撃をする奴だからだ。
「彼女を傷つけてはならない…俺たちは攻撃をひたすらにかわすしかないんだ」
「一番戦いたくない相手だよそれは」
こちら側からは何もできない、機会をうかがうという地獄の作業。
「くらえくらええ!アーッハッハッハッハー!!」
ファイアボールを連続で放っている。
「攻撃範囲が狭いからなんとか避けれるがさすがに連続で放たれると対処しきれないな」
「本当にどうしたらいいのだろうか。あっつ!!」
火の玉が少しだけかすった、それでもとんでもない熱さの火の玉だからかなり熱い。
「ふう…ん?閃いたぞ」
なんと連続で回避行動をすることができなかったのを最大三連続まで回避が可能となった。
「なんでよ!なんで当たらないのよ!!」
「だ、だいぶギリギリだがな…」
いつかは絶対に食らってしまうがそれでも機をうかがうしか方法がない。
「僕は回避じゃなくて直接攻撃をはじかせてもらうよ」
「もういいわ!効果範囲を思いっきり広げるわ!!」
ただでさえ広範囲の魔法なのにさらに増やされては危機に陥ってしまう。
それにもろに攻撃を受けたら何が起こるかわかったもんじゃない。
「くたばれ、邪魔な男め!!」
そういって狙いを定めた、その狙い先は下山…ではなくハルトの方だった。
「さすがにこれは防ぎきれないね」
いつもは呑気な顔をしていたが今回だけは違った、死の危機へと陥る寸前の時の表情へと変化していた。
「僕はカイトみたいに回避のキレがよくないしそんな長距離を回避することはできない」
「何をぼさっと突っ立ったままなんだ早く走れ!!」
しかしすでに遅すぎた、逃げる時間というものがもう残されていないのだ。
「くそ!こうなったら…」
全力でハルトのもとへと走っていった、普段はそこまで早くはないが今回だけはなぜか走る速度が格段に向上していた。
「一体どうしたんだ…グハァ!!」
手のひらで押して範囲外へと弾いた、だが威力が上がりすぎてだいぶダメージを受けていた。
「あ…しまった!!」
ハルトを範囲外に出したはいいものの逆に自分がもろにダメージを受ける場所へ立っていた。
少し時間が経過した後に大爆発が起きた。
「うおおああああ」
高く空中に舞ったかと思ったらすぐに落ちてきて地面にぶっ倒れた、気絶するのも当たり前だ。
大爆発系の魔法を食らうと意識を保つことはほぼ不可能なのだ。
「うそ…なんでなのよ!なんであなたが…」
「近づくな、今の君の
そんなおぞましいもので触れられたら一瞬で生と死をさまようことになる。
「彼はそもそも魔法が使えない…魔力というものに適性がないんだ、だから彼は拳で戦ってる」
声が震えてしまっている。彼女の威圧感が強すぎて勝手に体が
「邪魔だ貴様に用はない」
さらに威圧感が増した、もはや魔王と同じかそれ以上の圧力。
「頼むよ下山よ…君が切り札なんだから」
また目を覚ますまではなんとか止めなければならない。
「くっ!まさか立つことが不可能なほど恐怖しているとはね」
「何の音だ?」
「ハルト、ゲホゲホ!解決策をっ…思いついたぞ」
「そんな状態で何をする気だい?」
もしかしたらと一つだけ思い当たる節があった。それは、人の優しさというものが足りず暴走を引き起こした可能性がある。
「ふっ…おとなしくしてろよ!」
「しぶとい!本当にしぶといわ!!」
彼女を優しく包み込むように抱きかかえた、二人ともその場で倒れた。
「君…まさか…」
「離せ、何の真似だ!」
じたばたと暴れていたが下山が離すことは決してなかった。
「この胸のモヤモヤはもしかして…わたしは心の
自然と涙を流していた、そしていつも通りの姿へと戻った。
「やっぱり…正解だった…かっ」
「こいつぁただものじゃないね」
傷口を抑えながらハルトは立ち上がった、威圧感もなくなり恐怖心も完全に消え去った。
「しかし今度はカイトを運ぶことになるとはね」
治療師の元へとすぐさま連れて行った。
幸いなことに死んでしまう心配はないらしい、爆破させられ空中を舞って地面に思いっきり打ち付けられたのにどこも骨折していないのは相当な体の頑丈さだとあらためて気づかされた。
「今回の
「うん」
心配で様子を見に来ていたが部屋の中へと入ろうとはしていなかった。
「僕はこれにて仲間の元へ帰らせてもらうよ」
「いつになったら目が覚めるの?」
いつになったらとか言っているがまだ数時間しかたっていない、治療師からも長くても一日といわれてる。
「でも…わたしが悪いからしっかりしないとね」
あの一件以降近くに下山がいないとダメになってしまった。
「お願いだから…早く目を開けて」
「さすがに痛いな、だがこんなすぐけがが治るもんだったか?」
その願いに応じたのか静かに目を覚ました。
「下山君!!」
「うおっ!?びっくりしたぜ大丈夫だったか?」
いきなり抱き着かれて少し驚いてしまったが抱き着かれても痛いという感覚はなかった。
「お前はこれからどうするんだ?城に戻るのか?」
「あなたとずっと一緒にいる!!」
変に大人ぶった雰囲気がなくなり、しっかりと子供らしくなっていた。
「(十六歳といえばこんなもんだろ)」
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