第二章 アスパル王国軍襲来

第8話「不安の解消」

「ここが僕たちがいつも行ってる酒場だ」

 質素な感じのバーだが、かなりの数の客がいる。


「おっとお金の心配はしなくていいさ、僕のおごりだ」

「それは助かるな」

 実はまだお金を持っていない、まず稼ぐ方法を知らないから困っているのだ。


「遠慮なんていらないさ僕らだけしかいないんだしとことん飲もうじゃないか」

「おおビールもあるのか」

 昔よく飲んでた酒まであった、ビールは特に冷えてれば冷えてるほどのどごしがよくなる。


「ハルト君か!いらっしゃい」

「今日は連れもいるんだ、僕の知り合いさ」

 いつも行ってるというだけあって名前も覚えられていた、常連というのもあってかカウンター席に案内された。


「初めまして、俺は下山カイトだ」

「へえ…お前さんが…さあ飲んでいきな」

 迷惑をかけるような客でない限りは追い出したりはしないようだ。


「マスター!ビール二杯頼むよ」

「はいよ」

 ジョッキにビールを入れた、なんとめちゃめちゃ冷えている。


「くーっ!!久々のビールはいいなあ」

「これは僕も負けていられないね」

 いろんな種類の酒を飲みまくった、気が付けば時間がたっていた。


「君、案外やるねえ」

「なに?久々すぎて全然止まらねえぜ」

 もう完全に酔っぱらってしまっている、言葉がかなり聞き取りづらく顔も真っ赤である。


「マスター、そろそろ勘定を」

「結構いい飲みっぷりだったなこのカイトっちゅー男は、いいもん見れたし半額でいい」

 全種類を制覇したから本来ならば相当な金額になるはずがなんと金貨2枚でいいとのこと。


 ハルトはそんなに飲んでいない、次の日に影響されるから少量飲むのが最適だと考えている。

「寝てしまったようだね…仕方ない誰かを呼ぶしかないか」

 あまりにも酔いが回りすぎて気を失うかのように眠ってしまっていた。


「あらハルト君じゃない、夜遅くまで飲んでいてのかしら?」

「丁度いいところに来てくれるね、こいつを運んでやってはくれないだろうか」

 こいつとは下山のことではあるが名前を言うのも面倒な時はこいつ呼びになるのがハルトだ。


「いいわよ…本当にあなたたちはどれだけ飲んだのよ」

「僕はそんなに飲んでないよ」

 下山と見比べるとそこまで赤くないので大量には飲んでいないことがわかる。


「魔法で彼の重さを軽減して運ぶわ、ハルト君も気をつけなさいよ」

「ハハハッ!僕のことは心配しなくていいさ」

 いつもの怪しい笑顔を見せながらこの場を去っていった、後姿を見ると少し楽しそうに見えた。


「運ぶのは大変だけどあなたの寝顔を見ると…ふふっ、わたしも元気が出る気がするの」

 クスリと笑った、ヒメナもいろいろと忙しすぎて疲れ果てている。それでもくじけないのは下山の存在も大きい。


「独り言でも言おうかしら…」

 ずっと無言で歩き続けるのもさすがにきついらしい、何かを吐き出すのも不安が軽減される。


「わたし…ね、あなたに飽きられてしまってどこかに行ってしまうんじゃないかっていっつも思ってたの」

 ずっと冗談を言い続けてきたのもそういう事らしい、会うたびに変なこと言ってるのも不安要素をなくすためなのだ。


「でもあなたはずっと冗談だと思いながらもしっかりといい返事をしてくれる、それに驚いた時の顔も好きよ」

 独り言を言ってるうちに自宅に到着した、普段は誰もいなくただ広いだけの家だが下山がいる時だけは寂しいと感じることがない。


「んん?ここはどこだ?」

「わたしの家よ、わたしは先に寝てるから早くお風呂にはいりなさい」

 玄関を上がると下山が目を覚ました。すぐに風呂に入ることをうながした、かつて自分もそうされていたように。


「それとあなたの寝床はここよ、いい?」

「…」

 何か言いたげな顔をしていたが何も言わず部屋の奥の方へと行ってしまった。


「わたしも不安がなくなれば元に戻れるのかしら」

 小さな声でそう言って眠りについた。


「不安…か、俺もいい加減しっかりしないとな」

 酔いが大体冷め頭が回るようになった。


 とりあえず自前のセッケンで服を全部洗い水気をきってから物干し棒に服を全部かけた。

 言われた通り少しだけ湯に浸った、風呂に入れば疲れが吹き飛ぶのも不思議だと感じている。


「うーんこれで不安が解消されるかはわからんがやってみるか」

 一応寝床が用意はされているがこれを使うことはない。


「こんなもんなのか?普通に親が子供にやってるのって」

「っ!?」

 弱く抱きしめてあげて寝るという作戦、ただやってもらった記憶はないので本当に適当にやってみてるだけである。


「んーこれでいいのだろうか…でも今の俺にはこれぐらいしかやれることはねえ」

 でも安心して眠っているように見えたのでこれが正解だったのかもしれないなと一人で納得していた。


「酒の効果もあってかよく寝れたぜ」

「あれ…なんだか体が軽い気がするわ」

 昨夜の子供っぽいスタイルから大人な感じのスタイルへと変化していた。


「(さすがにまじまじと見れねえな)鏡でも見てきたらどうだ?」

「ええ、ちょっと見てくるわ」

 どこかに行ってしまったがその間にサッと着替えた、着替えるといってもいつもの格好にはなってしまう。


「さてと俺はちょっと朝の空気でも吸ってくるとしようか」

「待ちなさい!あなた、何もしていないのよね!?家に入ってきただけよね?」

 かなりの強い力で腕を掴んできた、たしかに下山は解決したらすぐどこかに消えるような性格をしている。


「なんだろうな早く着替えてもらっていいか?」

「そ、それは…ごめんなさいね」

 元に戻ったという事はかつての記憶は完全になくなっているはずだ、だからこそ他人はさっさと目の前から消えるべきと判断したのだ。


「あら?わたし…こんなもの持っていたかしら。それにあなたのものと同じだし」

「たまたまじゃないのか?」

 やはりかという顔になってしまった、彼女は完全にと言っていた。


「じゃあな勝手に入ってすまなかった」

「え?まだ話は…」

 何かを言っていたのだろうが外に出てしまった以上は聞くことはできないし多分一生行くこともない。


「さすがにおごられっぱなしはよくないな、金が稼げるようなものがあればいいが」

 ハルトの財布をちょこっとだけ見たが金貨と銀貨があるらしい。


「シモヤマさん!!」

「うお!?ああカリンか、よく場所が分かったな」

 ハルトといいカリンといいなぜすぐ見つけれるのか、もしかしたら服装が悪目立ちしているのかもしれない。


「ねえシモヤマさん、一緒に街を歩きませんか?」

「そういやこの前は一緒に歩くことができなかったな」

 連れ去られたりなどなどいろんな出来事がありすぎてゆっくり散歩をするという事が出来ていない。


「案内地図をこの前見たんですが私達はまだ北側を見たことがありませんでしたね」

「どんだけ広いんだこの街は」

 この街は北側と南側で気温の差がかなり激しいのである、住宅街を出ると吹雪がひどい。山が目の前にあるせいなのかもしれない。


「どこまで行く?」

「そうですねー…やっぱりお城までですね」

 テクノの街の最北端に位置しているテクノ城、ちなみに山の中腹にあるので登らないといけない。


 とんでもないところまで行かされるなと汗をかいてしまった。

「そもそも城まで行けるのか?あんなところ一般人が入れるわけないだろ」

「でもふもとからは見えるはずですよ!!」

 入れないのは事実だがふもとまで出発とか言うとノリノリで歩き始めた。


「まあ文句言わずに行くか」

「文句なんて言ってられませんからね!」

 なんでこんな元気いっぱいなのか気になってしまうがそれが取り柄らしいのでいいことではある。


「しかし王国軍がもうじきに来るよとか言ってたが本当にそうだとしたらだいぶまずい状況かもしれないな」

「でもシモヤマさん強いじゃないですか、一人で全員倒してしまいそうですね」

 全員が近接攻撃するだけの軍隊だったら余裕だが遠隔攻撃とか使われると結構しんどい。


「俺も今のうちに鍛えとかないとな」

「今でもそこら辺の兵隊よりもガッシリしてるじゃないですか」

 これくらいの体じゃないと使ってる戦闘スタイルをフルで発揮することはほぼ不可能なのだ。


「そういう意味の鍛えるではないな、今使える技を鍛えるだけだ」

「あっ…そういうことでしたか、まだすべての力を取り戻していないんですね」

 そんな短期間で取り戻せたら誰も苦労しない。


「なんだか寒くなってきたな」

「雪山に近づいてきたからですかね?」

 だとしても異常な寒さをしている、山の山頂にいるならまだわかるがふもとにすら到着していない。


「違うさ、世界全体がおかしくなり始めたのだよ」

「おお!ハルトか…にしてもめっちゃ雪かぶってるけど大丈夫か?」

 雪が頭や肩にたくさんついていた。


「どういうことだ世界全体がおかしくなり始めたって」

「今から説明するさ」

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