第6話「あなたはわたしと…」

「ひ、ひえええお許しを…」

「許す?言ったはずだ俺はお前を生かさないと」

 ビビりすぎてもはや立つことすら不可能となっている、それほどの凄まじい気迫を出しているからだ。


「心配するな、俺は別に殺したりはしねえ」

 体を蹴飛ばして気絶だけに抑えた、生かすつもりはないそういうことは言うが大体は半殺し程度でおさまっている。


「こ、これほどとはね」

 さすがに見せるのはよくないと判断したのかハルトは少女の目を隠していた。


「よく守ってくれた、お前がいてくれて助かったぞ」

「僕もああいうやりかたは好きじゃないからねー」

 正々堂々とした勝負じゃないのは卑劣な手段であり尚且つ弱者がやるやり方だと二人は同じ思想をもっている。


「ん?なんだか外が騒がしいな」

「どうやらもううわさが広まってるみたいだね」

 噂がどんな内容とまでは知る気はないがそれにしてもわずか二日ほどで街中に広まっていたらしい。


「先に僕が出るとしよう」

 慣れたような顔をしながら扉を開けた。


「もしかしてあなたがこんな大人数の犯罪者を倒したんですか?」

「いやいや僕が駆け付けた時からこうなっていたよ」

 もしやもしやと一斉に目を向けるは後方からやってきた下山だ。


「ああ俺の知り合いがさらわれたって聞いてな」

「なんてことだ、本当に同じ人間なのか?」

 ざわざわと辺りの人全員動揺を隠しきれていなかった、それもそのはず千人くらいの犯罪者集団をボコボコにするほどだからだ。


「じゃあ下山、また後日会おう…僕はこの子の治療をしてくるよ」

「ああ、頼んだぜ」

 まだガヤガヤとしているが誰一人として問い詰めようとするものはいなかった。


「二日も行方ゆくえをくらましたと思ったらこんなところにいたのね」

「ん?すまんなもうそんなに日がたってたのか」

 ずっと同じ空間にいたからどれだけ経ったかなどわかるはずがない、気づけば二日ほどたっていたらしい。


「あの子はどうしたのかしら」

「カリンか?それならハルトっていう男が治療しに行ったぞ」

 抱えたまま後日また会おうとだけ言ってどこかに連れて行った、彼だからこそ信用はできる。


「ふーんあの人が」

「なんだヒメナも知ってるのか」

 お嬢様まで知るほどだからかなりの有名な冒険者なのかもしれない。


「彼が来るまでわたしの家で待ちましょう」

「カリンを置いて帰るわけにはいかないしなそうさせてもらおう」

 今回ばかりは彼女が正しい、ここはハルトが来るまで待つ必要がある。


 ただ前行ったときとは全くの違う方向に進んでいるのはおかしく見えるが遠回りしているだけに違いない。

「あらあら街中の人たちがあなたの話で盛り上がってるわ」

「収まってくれるといいのだがな」

 あまり話題に挙げられるのは好きではないようだ、だがあんなことがあったからには持ち切りにならないわけがない。


「ついたわ」

「ん?前の家と違うじゃないか」

 お金を持ってる人というような見た目の家だが、豪華すぎて逆になれない。


「うーんすごく豪華な建物だな、眩しすぎて目が開けないぜ」

「それほど眩しくはない気がするのだけど」

 お嬢様すぎて感覚が一般市民とは違うようになっている。


「でも部屋の中はだいぶ落ち着いた感じなんだな」

「引っ越したばかりだもの、まだ必要最低限のものしか持ってきてないわよ」

 ベッドと食料を保存する場所と服さえあればどうにかなるからな、だからこそ無駄にいろんなものを買って部屋を狭くしてしまってはほぼ意味がない。


「わたし、あなたに言っておかないことがあるの」

「どうした?言ってみてくれ」

 少しもじもじとしているが何か緊張することでもあるのだろうか。


 しばらくのがあった後ようやく話をし始めた。

「わたし…もうすぐ王になるの」

「そうなのか、もしかしてそれが緊張の原因か?」

 そういわれた後顔を横に振った、違うことで言いにくいことがあったと見える。


「違うの…ただ戴冠式たいかんしきまでには結婚しろって言われたの」

「ほうほう…え?」

 いきなりの発言に驚きを隠しきれていなかった。戴冠式たいかんしきまでには結婚しろとか言う狂ったような要件を出せるものだな。


「それで提案なのだけれども、あなたはわたしと結婚するべきよ」

「ふっ言うと思ったぜ」

 ヒメナと話しすぎて何を言い出すか状況によってはわかるようになってきてしまった。


「お前のためだいいぜ」

「本当に?」

 少しびっくりしたらしいがせっかく選ばれたのにここで継承権をなくすのはかわいそうと判断したらしい。


「じゃあ明日やりましょ」

「早いな、行動力ありすぎるぞ」

 もしかしたら期間がなさ過ぎてそうせざるを得なかったのかもしれない。


「ひとまず俺は少し休ませてもらうぜ、流石に疲れた」

「ゆっくり休んでちょうだい」

 ちょっと床に寝転んで目を閉じた、いろいろなことがありすぎて疲れがたまったのだろうかすぐに眠りについた。


「よう、カイト」

「お前は…」

 最後死ぬまでいてくれた男だが名前をすっかり忘れてしまっている。


「お前、死んでから転生後の世界で使ってた技忘れとったらしいな」

「そうだな、だが、彼女らのおかげである程度取り戻せた」

 もしもあの二人に出会わなかったら一生取り戻せずにいたかもしれない、あの二人の経験談を聞いて習得できた新しい技もある。


「ようやくお前も過去を超えたようだな」

「時間がかかりすぎたな」

 かつてこの男に言われていた、お前はいつか今の技能を超えると。


「こうなった以上ワシの出番はもうしまいだ、ゆっくり楽しめ」

「お前とはこれでお別れだな」

 不思議な力によって場所は違えど話はできてしまうようだ。

 誰がこの力を使っているのか、なぜこの日なのかそれの謎が深まるばかりである。


「ただまだ全盛期とは程遠いで、しっかりせえ」

「ああ」

 この男の言っていることは正しい。ある程度取り戻したとはいえどすべてを取り戻したわけではない。


 ここで気が緩んでしまったらせっかく取り戻した技術もすべて忘れ去ってしまう。


「あら、お目覚めのようね…わたしの旦那様」

「ん?いつの間にか寝てしまっていたようだな」

 気が付けばもう日が昇っていた、しっかりと休んだおかげで疲れがすべて吹っ飛んでいた。


「さあ指輪を買いに行きましょう」

「え?指輪いるのか??」

 全部が急展開すぎて理解するのに時間がかかってしまう程だ。


「当たり前でしょ証明するものとしてこれが一番早いのよ」

「そうなんだな」

 そういうことに関してはかなりうとい、こういう経験をして慣れていくしかないのだ。


「手をつないで歩かない?」

「いいぞ、しかし周りからすると親子って感じだなあ」

 歳の差もあるからかそう見えてしまう、親子で街を歩くという普通の光景。


「何回見てもいい街だなと思うな」

「ずっとここに住んでもいいのよ?」

 やっぱりこの子は冗談を言うのが好きなのかもしれない。


 たまに冗談ではなく本気で言ってくることもあるがそれを全部冗談として受け流している。

「どれにする?」

「こういうのはシンプルなものでいいんだよ、ほらこれとかどうだ?」

 下山が選んだものは白金でできた指輪だった、宝石とかは何もついていないシンプルなデザインのもの。


「あなたがそれでいいというのならそれを買うわ」

「適当に言っただけなんだがな」

 適当な提案も彼女からするとすべて本気の提案として受け取ってしまうようだ。


「ほらお互いにはめ合いましょう」

「ん?そうだな」

 ピッタリサイズだった、加工は全部何でやっているのか気になるが大方魔法で行われている。


「おやおやこんなところにいたのかい?探し回ったんだよ」

「ハルトかすまんな」

 歩き回って探してくれる辺り善意があるように感じるがその不気味な笑顔からは恐怖も感じる。


「ほらしっかりと治してきたよ」

「どうやってたったの一日で治したんだ?」


「僕のメンバーには魔法が使える人がいるからね、その人に頼んだのだよ」

「ほんまいっつも嘘つくよね、あんたが全部やってたじゃない」

 ひょこっと後ろからかわいらしい女の子が出てきた、これが例の魔法が使える人なのか。


「嘘はばれちゃったけど返すよ」

「あんたが下山さん!?」


「そうだがどうかしたか?」

 バッと目の前に来たかと思えば手をつかんで目を輝かせていた。


「よかったらあんたもうちのグループに来ない?」

「いや俺はそういうのはあまり…」

 冒険者というのも気になってはしまうが今は放っておけない人たちがいるからあまり乗り気になれないようだ。


「すまないね、これでも君の大ファンなんだよ。まあ僕たちはこれで」

「気を付けて帰れよ」

 やけにノリノリな人たちが多い街だなと感じてしまった。


「さて帰ろうか」

「は、はい」

 このテクノの街もいいところではあるがもうすでに住居?はあるから名残なごり惜しいが帰らなくてはならない。

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