第4話「テクノの街」

「おお!これはすごいな、めちゃめちゃ発展してるじゃないか」

「この大陸で一番発展しているんだもの」

 人が多くてとても賑わいがある、奥の方に城らしきものが見えるということは城下町みたいなものか。


「わたしについてきて、一緒に食事をしましょう」

「そういえば朝以降何も食べてないな」

 簡単に食べれる軽食を持ち歩いていなかったから昼ごはんの概念を忘れかけていた。


「あれもしかしてお嬢様じゃない?さらわれたって言われて焦ったけど帰ってきてくれてよかった」

「あのとなりのおっさんは何だ?」

 傷だらけでしかも見たらわかるほど怪しい人間がこの街のお嬢様を連れてたら怪しまれるのも無理はない。


「こんな状態だと食事をする余裕もないわね」

「早く済ませれるものでいいんじゃないか?そんながっつり食べる気はないしな」

 自分の金ならまだしも他人のお金だからたくさん食べるのも気が引ける。


「ここの店にしましょう」

「どんな食べ物が売ってるんだ?」

 パッと見た感じだと紅茶を飲みながらお菓子を食べる店のような感じがする。


「お茶を三杯とクッキーを」

「はいよって、ええ!?ようやくお帰りになさったのですね」

 どこに行ってもこの話で持ち切り、さすがはお嬢様といったところか。こんな話題になるとか一体何日さらわれていたのやら。


「早く食べましょう」

「こんな状況でも落ち着いていられるなんてすごいな」

 こんだけざわついていたら集中してなにかをするのも難しいはずだ、だがこの子は常に冷静。


「もう日暮れも近いし早く食べようか」

「これ初めて飲む飲み物です。おいしいですね」

 下山にとってはもはや懐かしい組み合わせだ、クッキーに紅茶昔よくやってた。


「なんてことだ!」

「あらそんなにおいしかったのね」

 甘すぎず薄すぎずといういい感じの味を引き立てている、職人レベルの製品だ。

 そこに砂糖のくわえていない紅茶という組み合わせがかなり病みつきになってしまうレベル。


「俺とカリンばかり食べてしまってすまんな」

「いいのよ、わたしはあなたの食べてる姿が見れればそれでいいから」

 また意味深な発言をしている、いつこんな発言してくるかわからないから警戒してもほぼ無駄。


「休憩も済んだし私の家まで護衛よろしくね」

「私もうちょっとだけここら辺を見て回ります」

「あ、ああ迷子になるなよ」

 カリンもこの街を気に入ったらしい、あそこまでノリノリで見て回るなんてあまり見たことがない。


「ふふっこれで邪魔者はいなくなったわね」

「ん?」

 腕を絡めて顔を近づけてきたがこれには何か意味があるのだろうか。


「あなたってどうしようもないほど鈍感なのね」

「いやすまんなそういうのはされたことがなかったからなぁ」

 元が鈍感すぎてそういうのにも気づいていないだけで前にもやられていた可能性もある。


「お前がやりたいようにやってくれればいいさ、いちいち制限なんて設ける必要もねえ」

 そういう会話をしているうちにいつの間にかヒメナの家に着いた。

 以外にも家自体はかなり近かった、店が集中している場所に建てたかったからという理由もあるのかもしれない。


 家の扉が開いた、センサー式なのかそれともほかの人が開けたからなのか…

「ヒメナ!あなたどこに行ってたの心配したんだからね!!」

「それにそのケガ大丈夫なのか?」

「平気よ」

 何日帰ってこなかったのかはわからないが心配しているのを見るに一週間以上は帰ってなかったのか。


「ん?まさかそこのおっさんがさらったのか!?」

「いや俺は…」

 一回奥の方に行ったと思ったら武器を持って出てきた、この街の人間かなり物騒。


「よくも娘をこんな目に、同じ目に…いやそれ以上に痛めつけてやる!」

「これは話を聞く耳も持ってくれなさそうだな」

 面倒だが頭冷やす程度までには落ち着かせないと話をする余地もない。


「どりゃああああ!!」

 単調な攻撃をかわし頭をつかんで地面へとこすりつけた。


「あんまりやりすぎても何言われるかわからんからな」

「さすがは下山、わたしの見込み通りだわ」

 一人だけうんうんと勝手に納得している者もいた。


 しばらくするとぶっ倒れていた父親が起き上がった、だいぶ砂まみれになっていた。

「起き上がったことだし俺はこの辺で」

「待ちなさい!まだお礼ができてない」

 お礼ならさっきしてもらったんだがなと思ってしまったが口には出さないように気を付けた。


「これだけ娘が気に入ってるくらいの男だ、僕もこれ以上は警戒したりしない」

「どうなってるんだか」

 ここまで押されてしまったらもう断るという事も出来ない。


 すぐさま椅子いすへと案内された、客人用の椅子いす…にしてはかなり豪華ごうかな見た目をしている。

「ここに座って」

「あ、ああ」

 何が起こるのか全く予想できないままただただ座って待った。


「せっかくだから食事をしていかないか」

「ん?食事か…ならいいが」

 たくさんの料理が出てきた、四人だから多く作っておかないとすぐなくなってしまう。


「うんうまいな」

「だろ?うちの自慢の料理なんだぜ」

「だれが作ってると思ってるんですか」

 これ俺いるか?みたいな雰囲気に変わってしまった、さすがは家庭といったところか。


「あれヒメナいつの間に服変えたんだ?それにあのおっさんとデザインが同じじゃないか」

「わたしはこの服がお気に入りなの、それに…好きな人と同じだともっといい気持ちになれる」

 珍しく顔を赤くしていた、最後の方は結構ぼそぼそとした感じの声で聞き取りづらかった。


「なんだと!?あのおっさんのこと好きなんか」

「うん」

 それを聞いてめちゃめちゃに驚いている、それもそのはず歳の差が二十も離れている。


「お前の性格からしてこいつを好きになるのはわかるがもっといい人がいるはずだよ」

 ちょっと前にも同じことを言ったけどそれは無駄に終わってしまったが今度は父親からの意見だ簡単に折れてくれるはずだと少し期待していた。


「嫌!わたしはこの人にれたの」

「その辺で諦めよう、何度言っても同じ意見なんだよ」

「おっさん、あんた目をつけられてしまったようだね。大人しくもらってくれないか?」

 完全に折れてしまったのは父親の方だった、娘の方が強かった。


「わかったわかった、俺ももうあきらめるよ」

「ふふっ両想いってことでいいわよね?」

 いやそういう事ではないが何言ってもそうとらえられてしまうので何か違うことを言うのも完全にあきらめた。


「後…俺の真似してえりは立てなくていいぞ」

 すっとえりを元通りに直した、そこまではマネしなくてもいいのに。


「むー」

「あとボタンはしっかりとじるようにな」

 なんでここまで真似してるのかすごい気になるが下山も同じことやっているので人のことを言えない。


「ずっとカリンのこと待たせっぱなしだったな、ちょっと行ってくる」

 結構な時間待たせっぱなしだったからさすがにまずいとなった。


「ちゃんと戻ってくるんでしょ?」

「え?」

 そんなことを言われてしまった。そもそも帰る前提で家に上がっていたから一晩この家にいるという考えはなかった。


「そのまま直帰する予定だったんだが」

「もう夜も遅いのよ、こんな時間に帰ったらまた変なやからに襲われるかもしれないわ」

 どの時間でも盗賊系は活発だ、ここは街だからかなり安全だ。


「ま、この家までは連れてくるよ」

 扉を開けカリンと別れた場所まで向かうことにした、夜だというのにまだにぎわっている。


「あれ?いないぞ」

 ここに到着する前に事前にほかの店も見て回ったが全く見当たらなかった。


「おや?あんたが例のオッサンかい?」

「そうだがどうした?」

 近くにいた人がたまたま声をかけてくれた、にしても妙な言い回しだ。例のオッサンとはひどいあだ名がついたものだ。


「もしかして少女をお探しかい?」

「よくわかったな」

 軽く見てたから少女というのはわかったのだろうが、そもそも探しているなんて気づくことはできない。


「お前の連れていた子をさらった、助けたければ一人で来い…だとよ」

「前ボコボコにしたあの変な連中か」

 頭のねじどっか吹っ飛んでるのかとなってしまった、だがやってることは結構しょうもない。


「明日向かうことにする、今日はもう夜遅いからな」

「その方が賢明かと」

 とりあえずお言葉に甘えさせてもらって一晩あの子の家で過ごすことにした。


「あの子はいないの?」

「ああ、あのバカの連中にさらわれちまってな」

 事情を説明した、何も言わないのはさすがによくないから細かいところまですべてを語った。


「本当に一人で行く気?」

「とりあえずそいつらは生きて返す気はねぇ」

「今日はもう寝ましょう、もちろんわたしと一緒よ」

 カリンといいヒメナといいなぜ一緒に寝ることにこだわっているんだろうか。


「ま、この家ではお前の言うことは聞いてやるぜ。だが下手をすると俺がただの犯罪者として捕まる可能性もある」

「その心配はいらない、わたしはもう成人済みだから」

 一度好きになった人はこれでもかというぐらい攻める、押されすぎて断ろうにも断れない状況になってきてしまった。


「明日は早く出るからもう寝させてもらうぜ」

 驚くほどにふかふかな布団だったおかげですぐにぐっすりと眠りにつくことができた。

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