第2話「足りないのは風呂場だ」

 気が付けば朝になっていた。

「このあまりに余った木材はどうしようか」

 いったいこの子はどうやって持ってきたんだといわんばかりの量の木がたくさん置いてあった。


「あ、えへへ~シモヤマさんおはようございます~」

「おはよう」

 まだ起きたばかりなのか少し声がかすんで聞こえたが相変わらずの元気な顔だった。


「そういえばこの木材たちはほかに使う予定はあるのか?」

「今のところはありませんが」

 一つだけひらめいた、この家?に足りないものというのがたった一つだけある。


「聞いて驚くことなかれ、風呂場が足りないということに気づいたんだ!」

「え?フロってなんですか…」


「なにぃ?」

 きょとんとした顔で質問をしてきたということは風呂というものを知らないのかもしれない。


 説明するよりも実物を見せたほうが早いので早速作業に取り掛かった。

「複雑すぎてもよくないな、こういうのは簡単な設計でいい」

 少しずつだが完成形に近づいてきてはいる、風呂場を作ったとしても木材はまだ大量に余る。


「結構難しいな、楽にできるもんがあればいいが」

 魔法というのもあればいいのだがなと思いながら地道に作業を進めていった。


 ふろ場を作り始めてからかなり時間がたちようやく完成した、いつの間にか日が真上まで昇っていた。

「やっと終わった、初心者がやるもんじゃないな」

 実際に使えるかどうかの確認のためとりあえず水を入れてみた。


「おお意外と何とかなりそうだな」

 どこかの隙間から水が漏れたりしていないためホッと安どのため息をついた。


「あとはお湯を入れるだけだ」

「シーモーヤーマーさん!」

 後ろからドンっとぶつかってきたせいで危うく熱湯にそのままダイブするところだった。


「お!ちょうどいいところに来てくれた。完成したんだぜ風呂が!」

「へえ~これが…」

 あまり興味のなさそうな反応で少しがっかりしてしまった。


「少し疲れたな休憩でもするか」

「まだご飯食べてないじゃないですか、なので持ってきましたよ」

 朝起きてから今に至るまで何も口にしていなかった、それでずっとお腹が鳴っているわけだ。


「うん、うまいぞ」

「今日は成功したのでそういわれるとうれしいです」

 おいしいものを食べると元気が出るが今日はどんなものだったか見るのを忘れてしまった。


「にしても暇だな何か面白いことでも起きたらいいのだがな」

 何かわくわく感というか刺激が足りなさすぎて暇になってきてしまう。


「急に何かから逃げてるような人と出会えたら面白いな」

 そんなこと起きるわけがないと思いながら自宅へと向かった。


「あ、そこのおじさんお願い助けて!!」

「(そこのおじさん?まさか…俺のことか?いやいやそんなわけないな)」

 おじさんはここにはいないと思いつつ無視して通り過ぎようとした時だった。


「やっと見つけたぞ。ったく世話のかかるガキだ」

 腕を無理やり持って引っ張りどこかに連れて行こうとしていた。


「おいちょっと待てよ」

 無理やり連れ戻そうとしてる男の肩をつかんだ。


「なんだあオッサン邪魔すんなよ」

 いかにもガラの悪そうな男、そしてその見た目に反しない横暴な性格。ただ服が少し破けているがこれもガラの悪い男のセンスなのだろうか。


「この子があまりにもむごい扱いを受けているように見えてしまってな」

「オッサンには関係ねえだろ!」

 この子がここまで逃げてきて探すのに一苦労したのかイライラしている。でないとここまで声を荒げたりはしない。


「あーなんかムカつくわ、とりあえずお前殴ってからこのガキを連れて帰る」

「おいおいかなりいかれたやつだな」

 普通はムカつくからって初めて会う人を殴ったりはしない、こいつは常識を知らないのかという顔になってしまう程だ。


「オラくらえや!俺の我流喧嘩殺法がりゅうけんかさっぽう!!」

 シモヤマはそのパンチをひたいで受け止めてびくともしていない。


「仕方ねえな」

 その一言だけを放っていつもの構えをした、彼がずっと使い続けてきた戦闘スタイルである。


「てめえ!本気で死にたいようだな!!」

 強気な発言だが先ほどのパンチを受けてみるとかなりへなちょこだった。


「覚悟しやが…グヘァ!!」

 一発殴っただけで三メートルぐらい先まで吹っ飛んで行ってしまった、単純に殴るパワーが強すぎたってのもあるのかもしれない。


「ゲホッゲホッ…てめえナニモンなんだ」

「ふっ、名乗るようなものでもない」

 あまりにも強すぎたのかガラの悪い男はかなり怖気おじけついてしまっていた。


「く、くそ!こいつがいる以上手出しできねえ」

 逃げ足だけはかなり速かった、一瞬で姿が見えなくなってしまった。


 ふと先ほどまでむごい扱いをされていた少女がいた事を思い出した、よく見てみるとかなりボロボロで傷だらけだった。

 今までどんだけ殴られたのか想像がつかないほどだ。


「大丈夫か」

 頭を縦に振ってはいるがどうみても大丈夫ではなさそうだ、すぐさま街に連れていくべきだとは思うがシモヤマはどこに街があるか一切把握していない。


「そうだ風呂に入らないか?傷に水が入ってしみるかもしれないが我慢してくれよ」

 ただ無言でうなずくだけだった。まだこちらのことを警戒しているようだ、だがそれも仕方のないことだ。


「すまんが服だけはすべて外させてくれよ」

 服を脱がされることに何の恥じらいもないのかはたまた慣れているのかはわからないが抵抗をする意思を全く見せなかった。


 服をすべて脱がし湯舟へとゆっくりとつけてやった。

「っ!」

 やはりしみるのか少しだけ痛がっていた、でもこればかりは仕方のないことだ。


 見た目は結構大事だから、街に返すにしてもそのまま返すわけにはいかない。

「しまった石鹸せっけんがないな」

 上着のポケットの中にあるかもしれないと探し始め、一つだけもこっとしている部分を見つけた。


「なんだポケットの中身そのままなのか」

 セッケンを泡立て体や髪をきれいに洗った、洗った後を見ると結構綺麗な髪をしていた。


「今度は体をふくやつがないな」

 完全に設計ミスだ、ふつうはそういうのも用意しておくべきなのだ。


「タオルならここにありますよ」

「お!助かるぞ」

 争いの場を見たくなかったのかどこかに隠れていたカリンがいいタイミングでタオルを持ってきてくれた。


「よしこれであとは服だが…さすがにこれを着させるのはよくないな」

 ところどころ破れていて、さらにはずっと洗濯されていないのか虫食いまでおきている。


「それがいい…」

 かなり小さい声で今シモヤマが着ている服を指さしていた。


「まじかよ」

 しかしこの子用の同じサイズの服まで用意しているわけがない。


「それならこちらにあります」

「なぜ用意できているのかが不思議だ」

 ただものではないオーラをめちゃめちゃに放っている、それを感じ取ってしまったからには一般人ではないという事を理解することになった。


 お揃いなことがうれしいようでかなり上機嫌だった。

「気に入ってくれたならそれでいいさ」


「そういえばまだ名前を聞いていなかったな俺は下山だ」

「ヒメナっていうの」

 ようやく警戒を解いてくれたようで一安心してしまったがまだ安心している場合ではない。


 どうやって彼女を元の家に連れて帰るかが大事な任務だ。

「よし俺とカリンがお前を家に送ってやろう」

「ありがとう…。私の家はここから東の方をまっすぐ進むと見えるテクノの街にある」


 近場に街があるもんなんだなと驚いてしまった、意外とここは田舎というわけでもなさそうだ。

「でも今日はもう日が暮れてしまいそうだし明日にしよう」

「はーい私ご飯作ってきますよ!」

「て、てつだう…」

 二人が調理をしている姿を見ると料理できない自分が悲しく見えてしまった、いつか練習しないとな、そう心に誓った。


「やっぱり俺はこういう忙しい日々があってる気がするな」

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