第3話 再びの現在
捜査ノートを読み終え、高橋刑事は深いため息をついた。目を閉じると、瞼の裏にあの少女の眼がよみがえる。取調室でスターにするといった時の、あの嬉々とした少女の眼差しが。弟を殺した、あの少女、田中里美の。
おもむろにタバコを取り出し、火を点ける。紫煙を大きく吐き出し、目を細めながら、確認するようにつぶやいた。
「あれは四年前の事件だったな。家裁での審理で、児童自立支援施設へ送る保護処分になったんだよな。事件当時は十一歳。そうすると、今は十五歳、中学校卒業の歳か。そうか、この三月に出所するのか、あの少女は」
タバコを咥えたまま、高橋刑事はしばらくそのまま静かにしていた。煙草の灰だけが、時の流れを知らせていた。
閉じた捜査ノートに眼を落す。
「どうなのか、果たしてどうなのか。果たしてあの少女は更生をしたのだろうか。本当にどうなのだろうか」
つぶやいたのか、心の中で話したのか、高橋刑事は特に気に留めなかった。
気が付けば、タバコは、フィルターを残し他はすべて灰となっていた。
タバコを灰皿へ捨て、新たなタバコを取り出し、火を点けた。ゆっくりとゆっくりと、ゆっくりとタバコの紫煙とともに思考を巡らす。
眼を閉じ、ただただタバコをくゆらせる、ゆっくりと。
いつもは短く感じるタバコも、この時ばかりは長く感じた。それほどに、高橋刑事はゆっくりとひたすらに、理性と感情の狭間で、長く長く、深く深く考え込んだ。
この長い一本のタバコを吸い終えた時、眼を見開いて、高橋刑事は明確に自分に言い放った。
「彼女に会いに行くか」
フィルターに火のついたタバコを、灰皿で消し潰した。
外の雪はますます酷くなっていた。十二月の雪は重い。
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