第16話 友愛の力 死力 中
俺が距離を詰めようと足を踏み出すと、先程までと比べ物にならない速さで術者が接近した。
「寿磨!」
後ろの瞳美が叫んだ時には、手刀で顎を打ち抜かれた俺の身体が中に浮いていた。
時がゆっくりと流れる。
まるで死ぬ直前のように、世界が止まって見えた。
骨や脳に異常をきたすかもしれないが、別に死ぬほどのことでは無い。
俺は勢いよくを転がり、すぐに立ち上がったが脳が揺れ朦朧とする。
体制を整える間もなく、また術者が迫った。
「こりゃあ洒落になんねえな⋯⋯」
俺は鉄パイプで突くように術者の胸を打った。
これにダメージを与える意識は無い。
迫る術者の動きを一瞬でも止めることを目的とし、見事動きが止まったところに俺の両翼を飛び出した瞳美の札が術者を襲う。
「まずはあの霊力を剥がす⋯⋯」
瞳美が呟くと同時に札が術者に張り付いた。
しかし次の瞬間、札は剥がれ、術者の様子に変化はなかった。
「嘘だろっ」
構わず術者が俺の腹部目掛けて張り手を突き出すが、咄嗟に鉄パイプを盾にして受け止める。
しかし体は勢いのまま後退し、足場の土が削られた。
息付く暇もなく術者の蹴りが頬を掠める。
避けきれず掠った勢いで頬が切れ、血が垂れた。
術者はさらに握りしめた拳を振り上げた。
俺はお構い無しに力を込めて左手を引いた。
喰らったら死という中で、自殺行為かもしれないが、今の俺には瞳美がいる。
「ビンゴ⋯⋯信じてたぞ」
術者の拳は振るわれることはなく、術者の腕には壮麗な輝きを放つ鎖のようなものが巻きついていた。
鎖の先は宙に浮かぶ札に繋がっており、途端に術者の片腕と両足も繋がれた。
「馬鹿な!?」
術者は慌てて鎖を引き剥がそうとするが、鎖はしっかりと四肢を締め付けている。
「これなら気が付かないでしょ。今だよ寿磨!」
「うおぉぉぉ!」
俺の渾身の力を込めた左腕が術者の鳩尾目掛けて繰り出される。
黒い霊力の塊に触れた拳は、塊を押し潰すように振り抜かれた。
同時に鎖が消滅し、術者の身体が吹き飛んだ。
術者は蹲り、その場に膝を着いた。
今しかチャンスは無い。
アイコンタクトを飛ばす前にすぐさま瞳美が札を飛ばし、また現れた鎖が術者の身体を縛った。
「もう一発いくぞ」
距離を詰め、左腕を振りかぶった。
「ふんっ!」
術者が全身に力を込めると、突風が起き、鎖が弾け飛んだ。
咄嗟に顔を手で多い、確認した時には術者はそのまま逃げるように跳躍し木の枝に乗っていた。
「クソっ」
立ち止まった俺は木の上を見上げる。
絶好の好機だったと言うのに、思わず身を守ろうとしてしまった。
術者はわざとらしく腹を撫でながら歯を見せた。
「霊全想真、その名に恥じぬ素晴らしき力よ。そして小僧、お主の力は私をも凌ぐかもしれんぞ」
枝から足を蹴り出した術者は斜め後ろにいた瞳美に向かって飛びかかる。
術者の速さについていくことの出来ない俺は、その背中を追う。
術者の手刀が瞳美に振り下ろされる瞬間、瞳美は札を取りだし、1枚投げたが術者の横を通り過ぎた。
そしてもう1枚をかざし、壁を作った。
瞳美の身は安心と思ったが、勢いよくぶつかると共に、壁にヒビが入る。
「それも良い力だが、我が霊力を結晶化すれば破れぬものでは無い」
術者がさらに攻撃を続けると、壁はガラスが割れるような音とともに粉々に崩れ落ちた。
瞳美はもう一度壁を作るため札に力を込めたが、札を持つ手を蹴られ、札を手放してしまった。
「瞳美!」
手は幸い掠った程度で大した怪我では無さそうだ。
だが術者はすかさず手刀を瞳美の腹に向かって突き刺す。
瞳美に避ける暇も札を取り出す暇もない。
俺は無意識の内に手を伸ばし、瞳美の体を突き飛ばしていた。
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