第13話 一輪の希望 後
驚いて出てしまった声で、既に亡者達と戦い始めていた御厨さん達が一斉に振り向いた。
「あ、ごめんなさい。でもなんで、え、わけわかんないよ」
両手で頭を抱えと何度も左右に首を振りながら、私はその場で足をじたばたさせた。
運転してるのは間違いなく寿磨だ。
近づいてきた寿磨は自転車の上から飛び降り、私の目の前に着地した。
勢いそのままに乗り捨てられた自転車は、大きな音を立てながら壁に突撃した。
あれは、寿磨がここ3年ほど乗っていたママチャリだというのに、勢いで少し変形して捻れてしまった。
「あの自転車もう⋯⋯そんなことよりなんで寿磨が居るの」
目の前に現れた白いシャツを着た制服姿の寿磨は、一体どこで手に入れたのか、右手に鉄パイプを持っている。
寿磨はやけに堂々とした態度で、私の質問には答えず、周りに目を向けている。
というか、私の存在を無視しているようだ。
「誰なんだそいつは」
「早く逃がしてあげないと危ないよ」
亡者を斬り捨てながら、涼花さんと夏樹さんが叫んだ。
「ねえ寿磨」
周辺を警戒しながら、不自然な様子の寿磨に声をかけるが、寿磨は口を開かない。
ただ頬を吊り上げて微笑を浮かべている。
「あなたさっきの」
御厨さんが目を見開き、獣化した右手を背に隠しながら寿磨のもとへよった。
寿磨は御厨さんに視線を向けると、この場で初めて口を開いた。
「やあ、また会いましたね。だが残念だ。俺はまだ貴女を記憶の引き出しから探し当てていない」
「は?」
話の内容もだが、聞いた事のない口調と声色で話す幼なじみに、頭が混乱する。
明らかに様子がおかしい。寿磨は決してこんなどこぞの英国紳士みたいな話し方はしないはずだ。
英国でなくとも、寿磨は紳士とは程遠い。
「それはいいの。ところで一体何しに来たの」
元に戻った右手を前に出しながら、御厨さんが尋ねる。
「何ってわざわざ敵地に飛び込んできて行うことなんて1つだろう?」
寿磨は不敵な笑みを浮かべながら、むず痒くなるような口調で話し、私の背中に寒気が走った。
「寿磨の様子もあれだけど、寿磨と御厨さんいつ会ってたんですか」
「ついさっき、ここに来る前だけど」
御厨さんが応えると、私はゆっくりと何度も頷きながら流し目で寿磨を見た。
姿からは普段との違いは分かりにくいが、やけに背筋が伸びている。
「まあ俺の事はいい。ひとまず辺りの亡者達を葬ってやろうじゃないか」
鉄パイプの先端でこめかみを擦りながら寿磨がせせら笑う。
鉄パイプで擦ったら結構痛いと思う。
「何言ってるの寿磨⋯⋯」
戸惑う私に半身を向け、寿磨は腕を組みながら首を左右に捻った。
「杞憂はよせ瞳美。各所にお前が貼った札の効果を見ればお前がどれだけ優れているかくらい分かる。だが決して俺はお前の足手まといにはならない」
本当に様子がおかしい。
喋り方も態度も何もかもおかしい。
「そんなこと言ったって、その鉄パイプじゃどうしようも⋯⋯」
「ならこれならどうだ」
私に向け、寿磨は左手を伸ばして掌を見せた。
その時、私の体を一瞬奇妙な感覚が包んだ。
これは最近よく体感する、霊力に触れた時の感覚だ。
「ねえ寿磨、もしかしてその腕⋯⋯」
「丁度あそこに⋯⋯まあ見ててくれ」
突然寿磨は走り出すと、私の横を抜け、さらに目の前の涼花と夏樹の間を抜けた。
振り返った視線の先に、寿磨と付近に残った亡者が2体映る。
「一体何を」
寿磨はあっという間に亡者に接近すると、左手を握り力を込めた。
また私の体を謎の感覚が包む。
「やっぱりこれ⋯⋯」
寿磨が左腕で亡者を殴りつけると、その場で弾けるように消滅した。
さらにもう一体も同じように攻撃すると、跡形もなく消え去り、寿磨はニヤリと笑った顔を私達に見せた。
その光景を見ていた御厨さん、さらに涼花さん達の動きと音が止んだ。
私達あっという間の出来事に見入ってしまった。体の力を抜き、その場に立ち止まった。
「寿磨!」
寿磨の後ろからまた亡者が何体も現れ、私達が咄嗟に叫んだ。
寿磨が振り向いた時には、何体もの亡者は涼花さんと夏樹さんによって倒れていた。
「油断するな。貴様」
涼花さんは寿磨に向かって声を荒らげながら刀を振るう。
寿磨は後頭部を撫でながら顔を赤らめる。
「いやいや、涼花ちゃんも固まってたよね。まあ僕もだけど。はい反省」
自戒しながら夏樹も亡者さんを倒していき、亡者の姿は無くなった。
一瞬の出来事に、寿磨の空いた口が塞がらない。
「人間辞めてますよね⋯⋯あなた達⋯⋯」
今この瞬間、明らかに素に戻っていた。
そりゃ初めて見たら、ああなるのは普通だ。
だが今ので、寿磨が無理にあのキャラを演じているのがわかった。
私は足を一歩踏み出し、寿磨に向かって走り出した。
御厨さんのそばをすり抜けると、それに続くように御厨さんも駆け出した。
顔をひきつらせて困惑している寿磨のそばに駆け寄り、私は古傷の残る左腕を掴んだ。
「やっぱり左腕から霊力が」
シャツの袖を捲ると、痛々しい傷が顕になる。
私はその傷を優しく包むように撫でた。
この傷は寿磨にとっても忌々しいもののはずだ。
腕を撫でていると、慌てて気を取り直した寿磨は胸を反りあげた。
「ふん。俺の悪気消滅拳に恐れおののいたか」
「いやダサいよ。何そのネーミングセンス。もうね、とにかくダサいから辞めた方がいいよ」
「やっぱりそうなのか⋯⋯さっき母さんと華奈にも同じ反応された」
得意げになっていた寿磨は顔を引き攣らせ、あからさまに気を落とした。
どう考えたってダサいのに、なにか気に入る要因があったのだろうか。
そんな私達の様子を3歩後ろで見ていた御厨さんが近づいてくる。
「まさか貴方が、寿磨君だったとはね。5年前、亡者となってしまった親友から瞳美を守った男の子」
その声に顔を向けた寿磨は訝しむような顔で御厨を見つめた。
「何故それを、それに名前も。いや、瞳美から聞いたのか」
寿磨が私に顔を向けると、私はゆっくりと頷いた。
「ごめん⋯⋯」
「いやいいんだ」
寿磨は大きく息を吐いた。
今のはどういう感情なのだろうか。
やっぱり、あのことを話すのは良くなかったのだろうか。
「ん? じゃあ貴女は知ってるのか。由貴がああなった原因を」
「ええ、恐らくだけど──」
御厨さんは寿磨に由貴はその現れた男によって亡者にされてしまった可能性が高いと語った。
黙って聞いていた寿磨の唇と両手には力が込められている。
「そうか⋯⋯由貴はあの化け物達の同じようなことに⋯⋯よかったよ。あれがあいつの意思じゃないなら」
寿磨は呟き空を見上げた。私も顔を上げると、由貴の姿が映った気がした。
寿磨にとっては、由貴は突然おかしくなってしまったとしか分からなかった。
今日まで、寿磨は亡者の存在を知らなかったのだから。
「なんでお前はいつまでもあの日までのままなんだろうな」
寿磨が無邪気な笑顔を浮かべた由貴に語りかける。
いや、寿磨にも見えているとは限らない。
ただ私の目には、無垢で純情な小学生が映し出されている。でもきっとそれは寿磨にも見えていて、今その姿を消した。
幻は失われ視線を下ろすと、今にも泣き出しそうになった。
目を擦ると、涙が溢れ出す。
こうなってしまうと、すぐには止まらない。
「なんだ。お前はわかってたんじゃないのか」
泣いている私の頭を寿磨が撫でた。
考えてみれば、昔は泣く度に寿磨に慰められていた気がした。
「なあ御厨⋯⋯さん?」
「どうしたの」
寿磨が自信なさげに名を呼ぶと、御厨さんと向き合った。
「亡者になってしまった人間を元に戻す方法ってあるのか」
御厨さんは俯いて考えるような素振りを見せたが、すぐにまた目を合わせた。
「あるにはあるけど、その方法は知らないのよ」
その返答に私含めて御厨さん以外の4人が顔を強ばらせる。
「でも。瞳美の力があればもしかしたら、可能性はあるかもしれない」
それは夢のような話だった。
もし由貴と再開することが出来たなら、由貴を取り戻せるかもしれないなんて、今まで考えたこともない。
どれだけ希望的観測をしても、結局私は由貴はもう死んだも同然と考えていたのだ。
「そうか⋯⋯」
寿磨は姿勢を正し、歩き出した。
そしてそのまま私の斜め前に立つと、肩に手を置いた。
「不可能じゃないなら今は充分だ。そうだろ瞳美」
寿磨は私に笑ってみせる。
釣られるように、慰められるように私も笑って見せた。
「うん。そうだよね」
「だから今はとりあえず、この件に話を戻そうじゃないか」
肩から手を離すと寿磨は皆に呼びかける。
「だからといって、この亡者の異常発生に対してできることなんてそれこそ戦い続けることしか」
御厨さんは視線を落として力なく言った。
実際、寿磨が戦ってくれるとしても、ただ戦力がひとり増えただけ。物事はほとんど前進も後退もしていない。
「なあ、思いつく限りで亡者側の人間に1人でも脅威と思わしき人物はいるか」
寿磨が問いかけると、夏樹さんが口を開いた。
「1人いるよ。僕達はその術者に傷を負わされたんだ」
寿磨が御厨さん達の全身に目を向ける。
「なるほど、随分体術に優れた術者がいるものだ」
「ねえ寿磨君、それがどうかしたの」
御厨さんが寿磨に問いかける。
「この件の黒幕がその術者に違いないってことだ」
「それは間違いないの、というよりあの男は関わってるとは思う。でもこれだけの亡者を一度に、それにこの地域限定に出現させるなんて不可能に近い。というより普通は無理よ」
これはさっき話していた事だ。
如何に優れた術者が居ても、そもそも魂が無ければ、亡者は生み出されない。
「そんなことは無い。生者ではなく死者の魂で充分というのなら、この辺りは最適だろう」
そばで話を聞いていた私は首を傾げながら、眼鏡と目の間に指を入れて瞼を擦った。
「ねえ寿磨。どうして亡者の中身は人の魂だなんてこと知ってるの」
寿磨はついさっき亡者の存在を知った。
なら亡者が動く動力もなにも、知っているはずがない。
「ある者からの言伝だ」
寿磨はそれ以上は言わず、黙った。
寿磨に教えた人物がいるとすれば、それは誰だろう。
御厨さんの知り合いなのだろうか。
御厨さんが話を戻す。
「私達が今日目にした亡者に生きた人間は居なかったのよ。黒幕の人間がいるとしても、これだけの死者の魂がこの付近にこれだけ集まるなんて不自然なことあるわけが⋯⋯」
「この現象は死者の魂を集めたんじゃない。掘り起こしたんだ」
「掘り起こす?」
御厨さんは戸惑いながら髪をかきあげ、涼花と夏樹は顔を見合せている。
「そっか」
寿磨の一言で、私の中にひとつの与太話が浮かび上がった。
「雨宮城だね。寿磨」
「ああ」
寿磨は私の頭を撫でた。
私はすぐにその手を振り払った。
「ごめん、今はやめて」
「ごめん⋯⋯」
「本当、申し訳ないけどやめて」
「調子に乗ってたよ⋯⋯ごめん」
さすがに慰められる訳でもないのに、頭を撫でられるのは嫌だ。
というか、別に寿磨は普段から何かある度に人の頭を撫でるような人間では無い。
やはり今の寿磨は色々とおかしいとしか言えない。
「どういうこと。雨宮城がどうかしたの」
「都市伝説ですよ」
寿磨が人差し指を振りながら御厨さんに言う。こんなキザったらしいことも、多分しないはずだ。
この調子の寿磨の相手をしていると疲れるので、私が代わりに話す。
「大昔の雨宮城ではお墓代わりに常日頃から桜の木の下に遺体が埋められ、その魂を吸ったことによって、季節問わず桜が咲き続けていたって都市伝説があるんです」
雨宮城は標高100メートル近い山に築かれ、今は遺構として土塁の跡や石垣が少し残るくらいで、時々ハイキングに人が来る木々に囲まれた城跡となっている。
この都市伝説は、私も小さい頃に聞かされたが、多分本気にしてる人はいない。
それとこの城にはもうひとつ都市伝説があって、この城が造られるはるか昔の文書の中に、実際は天守が造られなかったこの城に天守が存在したという文言が書かれているという。
「その話は私も聞いたことあるけど、あれはただの作り話でしょ? だいたい今の雨宮城に桜なんて1本も無いわよ」
御厨さんの言う通り、現在の雨宮城に桜の木は残ってはいない。
秋になると所々色付きを見せるが、春には緑の木々が生い茂っている。
寿磨は私達のやり取りにため息を吐き、頭を搔いた。
「そこは本題じゃない。大事なのは何故かこの話を俺の祖父母もさらに自分の祖父母から聞いたということだ。要は昔からあの城には何故か人の魂が集まるという話があることが重要だ」
語尾を強めた寿磨が続ける。
「そもそも、俺はまだ魂がどうのって話を完全に信じているわけじゃない。が、この付近だけ特別に大量の魂が漂っていて、化け物共が大量発生しているのであれば、あの話に信憑性が出てくるんじゃないかということだ」
ようは今の現象と都市伝説を紐付けでいるのだろうが、私の頭だといまいちよくわからない。
御厨さんに目を向けるとら顎に手を当てて目を瞑っている。
そして直ぐに目を見開くと、周囲を見据えた。
「分かったわ。じゃあ雨宮城に行けば術者が居て、すぐに終わるかもしれないのね」
寿磨は黙って首を縦に振る。
すると夏樹さんと涼花さんが御厨さんと寿磨の間に割って入った。
「なら私に行かせろ」
「いや、僕がいくよ」
涼花さんと夏樹さんがそれぞれ納めた武器の柄の部分を握りしめ、御厨さんを見据えている。
私も、と言いたいところだが、私はここで亡者を払ってるの方がまだ役に立てるだろう。
「その必要は無い」
寿磨の声が響き渡る。寿磨は先程もたれかかっていたシャッターの近くに転がった鉄パイプを拾いに向かっていた。
「何故だ。わけを言え」
涼花さんが声を荒らげる。
背中を曲げながら、寿磨は涼花さんを横目で見ると鉄パイプを拾った。
そしてそれを右手に担いだまま私達の目の前まで戻ってきた。
「理由はまずひとつ。これはあくまで俺の推測でしかない。雨宮城に何も無ければ、あんた達が向かったところで無駄足になって戦力の無駄遣いでしかないから。もうひとつはあなた達じゃ勝ち目がないからだ」
「なんだとっ」
途端に逆上した涼花さんが刀を抜き、その切先を寿磨に突きつけた。
私もさすがにその光景に縮み上がった。
私はその光景に目を疑い絶句したが、寿磨は平然としている。
「偉そうな口を叩くのもいい加減にしろ。私達が勝てないだと? だったらどうする。貴様が戦うとでも言うのか」
「そうだ。少なくともあんたよりは勝ち目があると思うがね」
寿磨が眉ひとつ動かさずに言った。
言葉だけ聞くと挑発しているように聞こえるが、声色からはむしろ危険から涼花さんを遠ざけようとしているように感じる。
涼花さんが侮蔑の微笑を漏らした。
「威勢がいいのも大概にしろ。私達より遥かに劣る貴様に何が出来る」
そう言うと涼花さんは刀を鞘に納め、寿磨に背を向けた。
「もういい。行くぞ夏樹」
「え、あ、うん」
呼びかけられた夏樹さんは、視線を何度も涼花さんと寿磨に向けながら応える。
「御厨、私と夏樹で雨宮城に行く。この場は任せたぞ。まあ、そこの男も少しは役に立つだろう」
涼花さんは顔だけを寿磨に向けて睨みつけた。
明らかに寿磨に向けて敵意を向けている。
しかし寿磨は気にしない様子で顎を上げ、口を開く
「無駄だ。俺が行く」
「辞めておけ。お前1人ではただ死にに行くだけだ」
涼花さんが言うと、寿磨は大きくため息を漏らした。
「いつ俺が1人で行くなんて言った」
私は目を見開きながら寿磨を凝視した。
寿磨は大きく息を吐きながら、頭をくしゃくしゃと掻く。
「話は最後まで聞くもんだ。俺はこいつと行く」
そう言って私の頭に寿磨は手を置いた。
「寿磨⋯⋯?」
私は大きく目を瞬きさせながら顔を覗く。
「既に敵に知られているあんた達より、知られていない俺の方が勝算はあるだろう。それに俺の体力じゃあ無数の化け物を相手にするのは無理だ。だから俺が術者をみつけ、瞳美と倒す。これで文句ないだろ」
寿磨は私が札を使えることに気がついている。
そして多分、理由は分からないが、寿磨は御厨さん達をあの術者から遠ざけたいのだ。
ただの蛮勇じゃないかと、皆はきっと思ってる。
でも私も、何故か寿磨となら御厨さん達も歯が立たなかった相手にも勝てる気がした。
「皆さん。寿磨と私を信じてください」
寿磨の手を下ろし皆に呼びかけた。
「瞳美!?」
「私1人だったら絶対無理だけど、寿磨となら勝てると思うんです。私だって、皆さんの仇がとりたい。だから私達が戦います」
御厨さん達は顔を見合わせ、頷き合う。
これだけで納得してもらえるか不安だが。
「分かったわ瞳美、寿磨君。今はあなた達に任せる。ただし危険になったら瞳美の力ですぐにその場から逃げなさい」
「瞳美が言うなら仕方ない。おいお前、あの男を生かしたまま私の前に連れてこい、さもなくば⋯⋯。それと瞳美を守れよ」
「まあまあ涼花ちゃん落ち着いて。瞳美ちゃん、寿磨君、任せたよ」
それぞれが言葉を託し、私達は黙って受け取る。
寿磨は自分を睨みつける涼花さんと、露骨に目を合わせないようにしている。
「ねえ寿磨、携帯持ってる?」
「いや、カバンに入れたままだ」
寿磨は顎に手を当てた。
連絡手段がないんじゃ、2人で雨宮城に行くしかない。
そうなると術者が居なかった場合、時間の無駄になってしまう。
「困ったな。とりあえず雨宮城に術者が居ないと話にならないから、俺が最初に見つけるつもりだったんだが」
困ったという顔で寿磨が首を捻る。
私も頭をひねりながら考える。
そして良い案を思いついたので、手を叩いてジャージのポケットに手を入れ、札を1枚取りだし寿磨に突き出した。
「これを1枚持ってて」
「これは、辺りに貼ってたやつと同じか」
札を手に取った寿磨は両面を確認している。
「これで何ができるんだ」
「術者を見つけたらその札に力を呑めて私を呼んで。そしたらそこに転移するから」
「は?」
寿磨は口を大きく開いて顔を歪ませた。
そりゃあこんな反応するだろうと、まさに理そうの反応を見せてくれた。
「そんなことできんの⋯⋯」
「多分、やったことないけどできる。いややる」
若干心配だが、この札ならそれくらいは出来ると信じている。
今寿磨に渡した札には、私の感覚器官のようなものが存在している。
別に焼かれたら熱い思いをするとか、そんなことは多分ない。
現に今寿磨に握られていても、体はなんともない。
ただ寿磨が札を通じて私を呼んだ時、真価を発揮する、ように念を込めた。
寿磨は札をズボンのポケットにしまった。
「分かった。信じてる瞳美。とにかく時間が無いから行ってくるよ」
そう言うと寿磨は一目散に雨宮城に向かって走り出した。
寿磨の背中が小さくなった頃、また周囲に亡者達が現れた。
「さて、じゃあ私達はここで続けるとするか」
涼花さんは刀を抜き、構えた。
「瞳美、あの男が無事で帰ってきたら私があのひねくれた根性叩き直してやるよ」
「あはは。やめてあげてください」
軽口を叩きながら涼花さんが亡者に切り込む。
その様子を見たいた私を御厨さんが不安げに見つめた。
「瞳美、本当に大丈夫なの」
「大丈夫です。私と寿磨ならきっと」
私は笑顔を作って御厨さんに見せた。
根拠の無い自身だが、これも現実にしてみせる
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