第1章
1.手札の確認。
「ひ、ひぃぃぃぃん! やめ、やめてくださいぃぃぃぃん!!」
「喚くんじゃないわよ! アタシが直々に訓練してやるんだから、むしろ喜んで咽び泣きなさい!!」
「あっ、ああぁぁぁぁぁぁぁっ!! ひぎぃぃぃぃぃ!?」
――翌日の昼下がり。
俺とシルヴィアは、テイムした男たちと一緒に外れにある岩場にやってきた。より正確には、使役したのは一人。細身の男性こと、レイヴンだけだった。
現在進行形で少女に鞭で打たれているのは、三人のうち最も恰幅の良かったアレキサンダーとかいう奴。
あの一件の後に、彼ら二人は俺らの軍門に下った。
曰く、このまま戻ればアドスに殺されてしまうだろう、とのこと。それならいっそ、俺たちのパーティーに加わった方がマシ、と考えたらしい。
残り一人はその勇気が持てず、アドスのもとへ報告しに行ったそうだが……。
「レイヴン。結局もう一人――リカルドは、どうなった?」
「いや、分からないですね。今朝方、報告するように言ったんですが……」
右に眼帯を付けたレイヴンは、眉をひそめながら無精ヒゲを触る。
その表情を見て、俺は考えるより先に察していた。これ以上は、訊く必要もないのかもしれない。彼の話によれば、アドスという男は悪逆非道だという。
現代日本では滅多にない話かもしれないが、気分を害したから殺した――なんて、馬鹿げた事態に陥っていてもおかしくない。とても笑えない状況だった。
「きっと、タクトさんの情報はすでに渡っていると思います」
「それっていうと、つまり俺の能力もバレてる、か」
「すべてではないかもしれませんが、あるいは」
「なるほど」
そうなると、どこまで知られているかが鍵になるか。
考えるまでもなく標的にされるだろうし、いつ非常事態になっても良いように準備しなければならなかった。そう思って俺はふと、シルヴィアたちの方を見る。
するとそこには、へばって倒れ込む小太りのアレキサンダーに鞭打つ彼女の姿があった。キーキーと金切り声を上げる少女に、呼吸荒い男。
勘違いでなければ。
アレキサンダーのやつ、興奮してないか……?
◆
「まったく、アレックスは根性がミジンコよ。それなのに、食い下がって……」
「ははは、それは……うん。ご愁傷様、シルヴィア」
「……? どういう意味なの、それ」
「なんでもない」
汗だくで喘ぐアレキサンダーはさておき。
俺とシルヴィア、レイヴンは今後のことを考えて情報を共有することにした。俺自身のことは良いとしても、各々の持っている技能については整理しておきたい。
シルヴィアは先の戦いの通り、テイマーと組むことで能力を発揮する『調教師』というやつだった。本来なら魔物だが、俺と組む場合はテイムした人間の能力を最大限に引き上げるという。
「なんていうか、ピッタリだよな」
「それこそ、どういう意味?」
「なんでもない」
――さて、そうなると。
俺たちの武器となるのはレイヴンと、何故か恍惚な表情で寝ているアレキサンダーだろう。小太りの方は現状、どうしようもない。
だからひとまず、俺は瘦身の彼に訊ねた。
「レイヴンの能力、技能ってなんなんだ?」
改めて俺は、自分がこの一ヶ月で得た知識を思い出す。
この世界の人々には、それぞれ『スキル』というものが与えられる。能力とか技能と言い換えることもあるが、要するに天から授かった才能、ということだ。
俺の場合は『テイム』で、シルヴィアは『調教師』となる。
そんなわけで、俺たちはレイヴンの言葉を待った。すると数秒の間を置いて、
「いやー……大変、申し上げにくいのですがね?」
彼は片方だけの視線を露骨に泳がせて、あからさまな苦笑いをする。
俺たちは首を傾げ、顔を見合わせた。すると、
「全然、戦闘技能じゃないんですよ。オレの力は――『クラフト』ですから」
レイヴンはバツが悪そうにそう答える。
物を作る技能である『クラフト』は、確かに使いどころがないように思えた。
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