4.アドスという男。







「タクト……アンタのテイムは、いったい……?」

「あー、説明は後でするとして。こいつら、どうする?」



 シルヴィアがどこか呆けた顔で俺に訊ねる。

 しかし今は、それよりも相手の処遇を考えるのが先だった。簀巻きにした三人の男たちを親指で示しつつ、俺は喧嘩の張本人である少女に意見を求める。

 すると彼女は、少し考えた後に首を左右に振るのだった。


「ううん。元々はアタシが吹っ掛けたせいだから、こいつらは悪くない」

「……そっか」


 だとすればこれ以上、男たちを拘束する必要はない。

 ただ、一つ気になることがあった。


「なあ、アドスっていつもこんな馬鹿なことしてるのか?」

「ア、アドスの兄貴……?」


 俺は彼らの拘束を解きながら、テイムした奴に訊ねる。

 すると細身の彼は、おっかなびっくりに視線を泳がせながら言うのだ。


「ば、馬鹿なことかは分からない。だがオレたちは、アドスの兄貴には逆らえねぇんだ。逆らおうものなら、間違いなく――」



 そこには、恐怖の色が浮かんでいる。

 テイムによる使役などではなく、より純粋な支配だった。



「……こ、殺されちまう……!」







 ――一方その頃。

 王都の外れにあるアドスの屋敷。



「ほう、そいつは面白れぇな」



 配下の冒険者からの報告を受け、彼は手に持っていたボトルに口をつけた。

 そして、一気に中身を煽った後に口角を歪める。


「人間が人間をテイム、か。……おおよそ、普通のテイマーじゃあり得ねぇ」


 くつくつ、という笑い声。

 彼は先ほどまで歯牙にもかけなかった男に、たしかな興味を抱いていた。

 アドスという男は、とかく物好きだと噂されている。珍しいものや興味を持ったものは、是が非でも己の手中に収めるのだ。たとえそれが人間であっても。

 もっとも男色の気はないが、しかし確実にアドスの興味は掻き立てられていた。


「だったら、俺様の『コレクション』に加えてもいいなァ……!」


 そして、そう口にすると屋敷中に轟くような哄笑を上げる。

 その姿はまさに、悪魔といっても過言ではなかった。


 もっとも、配下の冒険者にそれを口にする者は誰もいないが。

 彼らは異様な主の姿に、ただただ怖れを抱くのだ。





「いいぜ。だったら、あのガキ諸共……俺様のものにしてやる……!!」





 ――アドス・ガイゴール。

 この男がいったい、何を考えているのか。


 その答えは、きっと本人にしか分からない。


 

――――

ここまでオープニングです。

次回から第1章です。


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