3.タクトの『テイム』、その特異性。
「これって、要するにピンチってやつか?」
「あぁ!? なんだぁ、てめぇ!!」
俺が新しい仲間を探しに酒場へ向かうと、見知った顔がトラブルに巻き込まれていた。その少女――シルヴィアは力なくへたり込み、勝気な瞳に涙を湛えている。
それを見ていられずに声をかけたのだけれど、相手方の男たちは何やら興奮している様子だった。怒りというより、なんていうか馬っけのような怪しさがある。
なんだ、こいつらロリコンか……?
「何しにきたのよ、くそ雑魚ナメクジ! アンタなんかじゃ、こいつらの相手なんてできるわけない!!」
「えー……シルヴィア、そんな状態でそれ言うか?」
「なによ、泣いてないわよ!!」
「泣いてるって」
俺が思案していると、少女は謎の抗議をしてきた。
あるいは彼女なりに『逃げろ』と警告しているのかもしれないが、今さら尻尾を巻いて場を去るわけにもいかない。男たちはすでに目の色を変え、こちらを標的にしていた。
つまるところ、もう俺は逃げられない。
逃がしてもらえない、ということになるのだが――。
「まぁ、その必要もないな」
「アンタ……なに、言ってんの?」
こちらがそう口にすると、少女はあからさまに眉をひそめた。
ただ状況から考えるに彼女の言葉が正しい。そのように思うのは、当然だった。
見るからに戦闘慣れした男が三人。対してこちらは腰の抜けた女の子一人に、くそ雑魚ナメクジこと最底辺テイマーの俺だけだった。
「けっけけけけ! とんだ王子様がいたもんだな!!」
「おい、こいつも意外に可愛い顔してるぜ!!」
「ぐふぐふ。オレ、いけるぞ」
「う、わ……マジかよ」
三人の男は、こちらを見て舌なめずりをしている。
俺はそれにドン引きしつつ、床に座ったままのシルヴィアのもとへ向かった。そして彼女を助け起こしながら、このように訊ねる。
「なぁ、シルヴィア。お前の力って、たしか『テイムした相手を従順になるまで躾ける』ってやつだったよな?」
「人聞きの悪い言い方しないで。……『調教』よ、それがどうしたの」
「いや、あまり大差ないけど。まぁ、いっか」
「…………?」
俺は一つ頷くと、少女にあることを耳打ちした。
すると――。
「はぁ!? ばっかじゃないの!?」
当然のように、シルヴィアは声を上げるのだった。
◆
「アンタ、本当にそんなことできるの?」
「さぁ、やってみないと確信は持てないけど」
「やってみる価値はある、ってこと? ……ホントに、馬鹿みたい」
「あはは、言うなぁ」
さすがに店内で戦うのは迷惑が過ぎる。
そのため街の大通りに出て、俺たちは二手に分かれて相対していた。そして戦闘が始まるという直前に、シルヴィアは不安げに問いかけてくる。
しかしながら、こちらも自分の『力』に確証はなかった。
だけど、不思議と心は穏やかだ。だから、
「心配するなよ、シルヴィア」
「え……?」
俺はあえて笑顔を浮かべ、元気づけるように少女の頭に手を置く。
そして、こう告げるのだった。
「俺とお前の力があれば、きっと大丈夫だ」――と。
俺の『テイム』と少女の『調教』が、突破口を開くはずだ、と。
するとシルヴィアはポカンとして、しかしすぐに真剣な表情に戻った。
「ホントに、腑抜けた笑い方ばかり……! でも、仕方ないわね――」
その上で、鞭を構えて言うのだ。
「行くわよ、タクト!!」
「おう!」
すると、そんな俺たちの声を合図にしたか。
男たちはいっせいに、こちらへ踊りかかってきた。
「手練れらしいけど、意外と動きは直線的だな。これだったら……!」
俺は意識を集中させて、狙いを先頭の細身の男に定める。
そして、あの言葉を口にするのだった。
「くらえ、テイム……!」
「なっ……!?」
すると直後、男の身体は硬直してしまう。
仲間たちも何事かと立ち止まり、彼の強張った表情を見ていた。その姿を見て、俺は確信を持つ。どうやら俺のテイムは魔物に効果はないが、代わりに『人間特効』なのだ、と。
まだ使いこなせていないのか、動きを止めるまでだけど。
それでも、これさえあれば十分だった。
「いまだ、シルヴィア!!」
「わ、分かった!!」
その隙を突いて、行動を起こしたのはシルヴィアだ。
彼女は得物である鞭を解放すると、それで強く男の身体を打った。悲鳴が上がり、しかし直後になって彼の視線は目の色を変える。
そして――。
「お、おおおおおお、お前なにやってんだ!?」
「寝返った……いや、そんなはず……!!」
ゆらり、とした動きで。
細身の男は腰元からナイフを取り出し、残り二人との距離を縮めた。
味方だと思っていた相手の思わぬ行動に対して、動揺を隠せない彼らは尻餅をつく。これで状況は逆転し、俺たちが数的優位に立った。
そのため俺は、ゆっくりと二人の男に歩み寄って告げるのだ。
「どうだ? 降伏するなら、今だぞ」――と。
彼らに選択の余地はない。
あまりの事態に、二人は冷や汗を流しながら頷くのだった。
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