1.社畜、流れるように追放。
「タクトみたいな、くそ雑魚ナメクジは追放よ! 追放追放、追放ーっ!!」
「シルヴィア、そんな鞭で叩くのはやめ――うぎゃあああああ!!」
小柄な赤い髪をした少女――シルヴィアが、俺のことを調教用の鞭で叩く。
全身が痺れるような痛みに悶絶しながら、俺はただただ耐えることしかできなかった。それもそのはずで、こちらに戦闘技能らしいものは欠片もないのだから。自在に鞭を振るうことができる彼女の方が優位に立つのは、火を見るよりも明らかだった。
そんなわけで俺、相園タクトはリーダーからの理不尽にひれ伏すのみ。
しかし癇癪が収まれば、強い口調ながらも相手をしてもらえる。
そう、思っていたのだが――。
「アンタみたいな役立たずのテイマーは、追放処分よ! まさか下級のゴブリンさえもテイムできないんて、信じられなかったわ!!」
「え、追放……?」
「さっきから何度も言ってるでしょ!? 分かったら、さっさと――」
シルヴィアは青の眼差しを吊り上げて、若干涙目になりながら叫ぶのだ。
「荷物をまとめて、出て行きなさいっ!!」
「えええええええええええ!?」
こうして、俺は異世界転移から一か月後。
いよいよ本格的に、無職となってしまうのだった。
◆
――レイヴン王国、王都エリシオ。
現代日本から俺が流れ着いた先にあったのは、俗にいう異世界ファンタジーそのもの。まるでラノベの中のようなこの場所では、当たり前のように魔物が存在して、当たり前のように剣と魔法が駆使されていた。そして当然、冒険者という生業も存在していたのだが……。
「あぁ、労働基準法がなければ、こうも簡単にクビを切られるのか」
俺は王都中心部にある公園の長椅子に腰かけ、思い切り空を仰いだ。
いや、そもそも労働基準法なんて無視してたけどな、うちの会社。そう考えるとこうやって、使えないから解雇されるこの世界は、ある意味で気持ちを切り替えやすいのか。
とはいえ俺は、この世界の貨幣制度など理解できていなかった。
つまり、普通に就職はできないわけだ。
「あー、くそ。冒険者なら、命さえ懸ければ何とかなる、って思ったのに」
日本で仕事していた時は、営業でもないのに飛び込みは頻繁にやっていた。
その要領で自分はテイマーだといって、シルヴィアのパーティーに入れてもらったわけだ。しかしながら、いざ実戦になってテイムできたのは最下級のスライムだけ。調教師のシルヴィアはこめかみに青筋を立てていたが、仕方のない話かもしれなかった。
「だからって、人を鞭で打つのは違うだろ……って、ここは異世界だった」
いやいや、異世界でもダメだろ、とは思うけどさ。
「とにかく新しい仕事探さないといけないな。だけど、うーむ……ん?」
気持ちを切り替えよう。
そう思い直して、俺が椅子から腰を上げたその時だった。
「誰かああああ!! その食い逃げ犯を捕まえて!!」
「食い逃げ、って……うわ、こっちくる!!」
女性の叫び声に振り返ると、強面の男がこっちに走ってきていたのは。
食い逃げ犯というより、殺人犯的な風貌の男。
「お願い、そこの人! そいつを捕まえて!?」
「へ、あ……え――」
怯えるこちらに、女性はそう言った。
無茶を言うなっての、殺されちまうじゃねぇか!?
――いやいや。
それでも、何もできないままってのは男が廃る、ってやつなわけで。
だから俺は無我夢中に、そしてダメもとでこう叫ぶのだった。
「テ、テイム……!!」――と。
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