社畜は異世界転移して最底辺テイマーになりました。~くそ雑魚ナメクジ扱いで追放されたけど、どうやら俺のテイムは人間特効らしいので最強のパーティーを作ろうと思います~

あざね

オープニング

プロローグ 社畜、異世界転移。







「……あぁ、通勤時間を考えたら会社に泊った方が良かった。三十分しか寝れないなら、満員電車に乗る分だけ損じゃないか」



 ――変わらない日常。

 毎日のように発生する残業に、雀の涙ほども上がらない給料。それだというのに、勤続年数が重なるほどに役職だけが上がって責任ばかり大きくなった。今日だってコネ入社の上司の持ってきた案件について資料をまとめて、帰宅したのが明け方の四時。

 そこから仮眠を取って、いま通勤電車の列に並んでいる。

 周囲の人々は目が死んでいるか、あるいは呑気に欠伸をしているか。後者はだいたいが学生なのだけれど、前者は言わずもがな同類だった。


「はぁ、転職活動しようにも時間ないし……」


 鬱屈とした空気の中で、俺は思わずそう呟く。

 時間がない、と言い訳をしたものの、時間があっても気力がないだろう。あるいは俺みたいなどこにでもいる社畜、どこの会社も必要とはしてくれない。

 そう考え至って、仕方なしに開いた電車のドアから中に足を踏み入れた。



「…………う、なんだ。眩し……!?」



 その時だった。

 眩暈がするほどの光が飛び込んできて、思わず腕で顔を覆ったのは。

 しばらくの間、世界が遠くなるような感覚があった。それがようやく収まって、恐る恐る目を開く。すると目の前には知らない景色が広がり、数名の黒装束姿の人間が立っていた。


 なんだ、これ。

 俺はさっきまで、電車の列に並んでて……。


「ふむ。これは、失敗だな」

「……へ、失敗?」

「莫大な魔素結晶を用いた異世界召喚だというのに、使えるスキルが最下級の【テイム】しかないとは。外れも外れ、まったくを以て使い物にならん」

「ですな。大魔導士様」


 意味も分からないままに、役立たず扱いされた。

 それも一人ではなく、その場にいる全員から。なんだこれ、悪夢か……?


「ゴミは要らん。そいつを外につまみ出しておけ!」

「はっ、承知しました!!」

「へ、あ……えぇ!?」


 なんてことを考えていたら、大魔導士と呼ばれた男は指示を出した。

 すると周囲のやつらは素直に従って、こちらを拘束する。俺は何が何やら分からないまま、身動きを封じられまいと必死になって抵抗する。だが、


「う、うおおお……!?」


 結局は、多勢に無勢。

 並の人間一人の力はこんなもので、俺は情けなくズルズルと床を引きずられるのだった。そして目隠しをされ、どこかに放り出される。そこでようやく身体の自由を取り戻したのだが、次に目にした世界はこれまた信じられないものだった。


「う、うええええ!? なんだ、これ……ゲームのコスプレ……か?」


 俺が倒れていたのは、薄暗い路地。

 そして、そんな場所から見える街並みには明らかに人外の姿があった。それこそゲームでよく見るような、角の生えた亜人とでもいうのだろうか。一緒に歩く普通の人々は気にした素振りもなく、それどころ見るからにトカゲのような外見をした相手に、臆することなく怒鳴っているのも見えた。

 これって、つまるところ――。



「異世界、転移……ってことか?」



 ここがどこかは、分からない。

 でも一つだけ確かなことは、少なくとも俺のいた現実とは異なる世界だ、ということだった。




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