7

 車にのっていたからわからなかったが、ロンドンの町はざわめいていた。


 みんな英語でなにをいっているかわからないが、なんだか魔王をおそれていることはわかった。


 それには、スマホやテレビなどの電子機器類がつかえないことも影響しているようにも見える。


「で、ヒルダ嬢、いまからどこに?」


 仮説を証明するとはいったが、そもそも論それって証明できるものなのか……?


 ヒルダが足をはこんださきは巨大な城らしきものが二棟たっている橋ーータワーブリッジだった。


 エレベーターにはいり、塔のうえまでのぼる。


「ヒルダ嬢。どうしてここに?」

「たかいところならどこでもよかったけど、ここは見ばえがよさそうだったので」


 うえの階につき、ヒルダ嬢は展望通路まで足を運んだ。


 展望通路とはふたつの塔をつなぐ通路で、床も壁もガラスばりになっている。

 そこから、雄大にながれるテムズ川と、その脇にそびえたつロンドンの街なみが見わたせる。

 たかいところが苦手な私にとっては、すこし地獄だ。


「じゃあ、いくわよ十花」

「えっ?」


 ヒルダは天へむけて指をたてると、そこから赤い光線がはなたれた。

 光線は窓が粉砕し、天に直撃し、虚空にきえる。


「いまなにを?」

 つぎの瞬間、モヤがはれたように、天に模様がうかびあがった。


「あれって……」

「魔王の魔法陣ですわ。擬態魔法でかくされていたみたいですわ」


 擬態魔法……それを解除したヒルダ。


 さっきヒルダが天へはなった光線は、魔法を解除する魔法ーーアンチマジックか!


 そういえば、ヒルダはアンチマジックももっていた。ただプロフィールをうめるための設定でしかなかったが、こんなところで役にたつなんて 


『災恋』の世界には、超常的な力がふたつある。

 それは『魔法(スペル)』と『スキル』だ。


『魔法(スペル)』は勉強をすれば誰でもつかえるようになる能力。

 四属性あり、生命力と精神力を消費して使用する。


『スキル』は個人がうまれつきもっている特殊能力。

 使用するとき、なにかを消費する必要はない。

 しかし、その威力や効果は自身の才能に依存する。


 いまヒルダがつかったのは、魔法のほうだ。


「それにしたって……」

 空にうかぶ魔法陣は、あの炎をだす魔法陣とそっくりだった。


「ねぇ、ヒルダ嬢これって?」

「……いますぐ、ベンジーニ嬢につたえにいきますわよ」


 こともことなので。ヒルダも必死そうだった。

 私たちは踵をかえして、タワーブリッジをおりた。

 そのままホテルへむかおうとしたが、おそかった。


「グォォォ!!」

 魔法陣から角のはえた腕がでてきた。それにつづくように、えげつないほど巨大な肉体もあらわれる。


 牛の角のはえた頭に、蝙蝠の羽のはえた背をもつ魔物ーーデーモンだ。


「チッーーかんづかれましたわ」

 ヒルダは舌打ちをする。その腕にはいつのまにか、金の鎖がまきついていた。


「いきますわよ、最強の下僕」

 鎖が例のごとく、私のなかにはいっていく。


「ちょっと、返事がまだだし!」

「そんなにムカムカしない。今回はあたくしも援護しますわッ!」

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