6

 おどろいた。

 ホテルのロビーには、イギリス以外の国の人であふれていた。よく見ると全員、体の一部を負傷している。なかには腕がない人や足がない人もいた。


「このかたたちは、魔王によって土地をうばわれたのです」

 パンシーはそうきりだした。


「魔王がこの世界に侵攻して三日。のこされた国はこのイギリス、ソ連、カナダ、アメリカ、中国、インド……そのぐらいしかありません……」


「侵攻して三日って……」私たちは三日も寝ていたのか?


「そして、魔王の侵攻はこの国にもせまっています」


 のはなしによると、魔王の軍勢がドーバー海峡にあつまってきているらしい。

 イギリスにせまっている魔王の軍勢は、戦艦をもっているとか。


「もし、ドーバー海峡を渡られたら……この国もおわりですわね」

 騎士が神妙な声音でいう。


「うふふ、どういたしますかヒルダ嬢?」パンシーが挑発するようにわらった。

「……なにがおっしゃりたいんですの」

 ヒルダの声がいつもよりひくい。どうやらおこっているらしい。


「わくしたちはこれから魔王の軍勢とたたかいます。あなたさまはどうします?」

「きまっていますわ」ヒルダはきっぱりといった。


「わたくしも魔王とたたかいます」


 パンシーはにんまりとした。「うふふ、そうこなくては……」

 彼女のいうとおりだ。ヒルダがいかないわけがないだろう。


 ヒルダは本当にいいやつなんだッ!


 そんなやりとりをしていると、ホテルのドアがひらいた。なかからどやどやとたくさんの ひとがあふれでてくる。


「さすが、ヒルダ嬢ね」とヒルダがいった。

「いえいえ、パンシー嬢ほどでは……」

 どやッ! という擬音がふさわしいくらいの目線をパンシーへむける。


 ヒルダもにたような視線をかえした。

 いや、腹のさぐりあいやめろし……。

 これからどうなるんだろうな……。


 そんな私の心配をよそにふたりは視線をかわしあうのだった。



 日がかたむいてきたころ。

 私はホテルのなかを探検していた。ヒルダは部屋でやすんでいるのでいない。


「も、もしかして!」

 声がしたので見てみると、そこに悪友・暑湖露がたっていた」


「露!」

 私はつい大声をだして、バッと抱きしめた。


「いきていたのッ!?」

「おぉ、十花こそッ!」


「露はなんで、ここにいるの?」

 私がたずねると、彼女が「うーん」とうなった。


「じつは空に変なものがうかんでいるのを見つけて、その光につつまれたら……」

「ここにいたってことね」

「そそ。もういきなり目のまえがロンドンだったからびっくりしたよッ!」


 私たちはしばらくはなしこんだ。

 露はあいかわらず元気いっぱいで安心した。


「……ねぇ、十花」ふいに彼女がまじめな表情になる。


「ん?」私は首をかしげた。

「僕たちいきてかえれるかな……」

「それは……」私は言葉につまる。

「……わからない」私のこたえはそれしかなかった。


「そうだよね、ごめん」彼女は申し訳なさそうに頭をさげた。

「……でもさ、十花といっしょにいられてよかったよ!」


「えっ?」彼女の発言にドキッとした。

 いや、まぁ、友達としてだろうけどね! たぶんだけど!


 そんなやりとりをしていると――

「十花、すこしよろしくて?」ヒルダがあらわれた。

「誰この人!?」と露がさけぶ。

「めっちゃ、綺麗……」


 そりゃおどろくよね……いきなり、綺麗な令嬢が現れたら……。私もおどろいたもん。


 私は露に「……ごめん」といって、その場をはなれた。

 露はまたねと、大きく手をふる。



 ホテルの一室で私とヒルダはふたりきりになっていた。なんでもパンシーが部屋を用意してくれたようだ。


 おおきなベッドふたつに、アンティークの家具。あきらかに高級そうな部屋で逆になえる。

 あのゴミ部屋(私の部屋)がなつかしい。


 椅子にすわった、ヒルダが口をひらいた。

「魔王のことについてですが……」

「なにかしっているの?」

「魔王は神出鬼没……どんな策を弄してくるのか、わかりませんわ」


 彼女はそういって、ため息をひとつ。


「たぶん、ドーバー海峡とやらにあつまっている魔物というのは『おとり』ですわ」

「おとり?」


「えぇ、あたくしたちをドーバー海峡に集中させ、べつなところから攻撃させようとしているのでしょう」

「……それって、マジ?」


「いや、予想でしてよ。いままでの魔王の行動パターンからそうだとおもいまして」


 たしかに、魔王エゼルウルフは策士だ。

 作中でもいろいろな策をつかって、主人公たちをくるしめた。


 今回も一筋縄ではいかないだろう。


「……じゃあいきますわよ」

「どこに?」

「仮説の証明に」

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