5
パンシー・マウロニ。
白糸の髪に、緑と赤のオッドアイ。
ドレスに身をつつんだ彼女は、凛とした表情をしていた。
さすがはヒロインともいうべき美貌である。
『災恋』は主人公が乙女ゲームに転生して、ヒルダと恋愛するはなし。
作中の彼女はヒロインではなく、主人公の友人というポジションである。
ヒルダとも、いい交友関係をきずけているはずだが……。
◇
騎士が運転するロールス・ロイスが、道路をはしっていく。
助手席にはパンシー。後部座席には私とヒルダがのっていた。
「元気そうね、パンシー嬢」
「えぇ、おかげさまで、ヒルダ嬢」
なんだか、ヒルダとパンシーのあいだにビリビリとしたものをかんじる。
「おふたりは仲が悪いので……?」
私がたずねると、ヒルダが「そんなわけありませんわ」とこたえた。
「えぇ、そうですとも」パンシーも否定しない。
それでも、ビリビリとしたものをかんじとる。
「あ、十花さん」
パンシーが私をよんだ。
「さきほどは騎士がすいません。私がいれば、こんなことにならなかったのに……」
「いえいえ、ところで森になにを?」
「森になにか光のようなモノがおちてきたというので、調査に」
光のようなモノって……もしかして、私たちのことかな?
「そんなことより、これってどこにむかっているので?」
ヒルダが口をはさんでくる。
「ロンドンでございます」
騎士がこたえた。
私の攻撃で重傷をおった騎士だったが、パンシーのスキルで回復したのだ。
パンシーのスキル『瓊瓊杵命(ディオニュソス)』の効果は治療だった。
ありとあらゆる病気、傷を治療できるのだ。
「ロンドン?」
「あらあら、ヒルダ嬢。ロンドンとは、この国の都のことですよ」
パンシーがマウントをとるようにいった。
「あらあら、パンシー嬢。ずいぶんと博識なのね」
ヒルダも対抗するように嫌味をいう。
このふたりのあいだになにがあったんだ?
最新刊では、あんなになかよく弁当をたべていたのに……。
◇
ロンドンはやはり雰囲気のある都市だった。
古風なレンガ造りの建造物と、あたらしくつくられた建物が共存している。
「つきましたよ」
車がとまったのは、豪勢な屋敷のまえだった。
なんでも、パンシーたちが拠点にしているホテルみたいだ。
名前は『ラ・ガーゴイル』というらしい。
「あなたがたのほかにも、いっぱいいますよ……」
「いっぱいって……なんだし?」
パンシーと騎士はだまって、ホテルへとはいっていった。
「ふん、きにくわないわ」
ヒルダが言葉どおり心底きにくわなそうにつぶやく。
「まったく、パンシー嬢のどこがきにいらないんだし」
「……あんなぶりっこ、きにいる人なんているのかしら?」
いや、あんただよッ!
一巻のいいところで、パンシーのことを『生涯の友』といっていたじゃん。
というか、私がそうかいたしッ!
「まったく、『九念』のあの努力はどこへやら」
九念とは『災恋』の主人公の少女だ。
ヒルダとパンシーは九念のはからいでなかよくなるのだ。
というか、いま九念はどこにいるのだろうか。
まだ見ぬ九念におもいをはせながら、私とヒルダはホテルへとはいった。
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