5

 ベンジーニ・ナパロノ。

 白糸の髪に、緑と赤のオッドアイ。

 ドレスに身をつつんだ彼女は、凛とした表情をしていた。


 さすがはヒロインともいうべき美貌である。

『災恋』は主人公が乙女ゲームに転生して、ヒルダと恋愛するはなし。


 作中の彼女はヒロインではなく、主人公の友人というポジションである。

 ヒルダとも、いい交友関係をきずけているはずだが……。



 騎士が運転するロールス・ロイスが、道路をはしっていく。

 助手席にはベンジーニ。後部座席には私とヒルダがのっていた。


「元気そうね、ベンジーニ嬢」

「えぇ、おかげさまで、ヒルダ嬢」


 なんだか、ヒルダとベンジー二のあいだにビリビリとしたものをかんじる。


「おふたりは仲が悪いので……?」

 私がたずねると、ヒルダが「そんなわけありませんわ」とこたえた。

「えぇ、そうですとも」ベンジーニも否定しない。


 それでも、ビリビリとしたものをかんじとる。


「あ、十花さん」

 ベンジーニが私をよんだ。

「さきほどは騎士がすいません。私がいれば、こんなことにならなかったのに……」


「いえいえ、ところで森になにを?」

「森になにか光のようなモノがおちてきたというので、調査に」


 光のようなモノって……もしかして、私たちのことかな?


「そんなことより、これってどこにむかっているので?」

 ヒルダが口をはさんでくる。


「ロンドンでございます」

 騎士がこたえた。


 私の攻撃で重傷をおった騎士だったが、ベンジーニのスキルで回復したのだ。

 ベンジーニのスキル『瓊瓊杵命(ディオニュソス)』の効果は治療だった。

 ありとあらゆる病気、傷を治療できるのだ。


「ロンドン?」

「あらあら、ヒルダ嬢。ロンドンとは、この国の都のことですよ」

 ベンジーニがマウントをとるようにいった。

「あらあら、ベンジーニ嬢。ずいぶんと博識なのね」


 ヒルダも対抗するように嫌味をいう。

 このふたりのあいだになにがあったんだ?

 最新刊では、あんなになかよく弁当をたべていたのに……。



 ロンドンはやはり雰囲気のある都市だった。

 古風なレンガ造りの建造物と、あたらしくつくられた建物が共存している。


「つきましたよ」


 車がとまったのは、豪勢な屋敷のまえだった。

 なんでも、ベンジーニたちが拠点にしているホテルみたいだ。

 名前は『ラ・ガーゴイル』というらしい。


「あなたがたのほかにも、いっぱいいますよ……」

「いっぱいって……なんだし?」


 ベンジーニと騎士はだまって、ホテルへとはいっていった。


「ふん、きにくわないわ」

 ヒルダが言葉どおり心底きにくわなそうにつぶやく。

「まったく、ベンジーニ嬢のどこがきにいらないんだし」

「……あんなぶりっこ、きにいる人なんているのかしら?」


 いや、あんただよッ!

 一巻のいいところで、ベンジーニのことを『生涯の友』といっていたじゃん。

 というか、私がそうかいたしッ! 


「まったく、『九念』のあの努力はどこへやら」

 九念とは『災恋』の主人公の少女だ。


 ヒルダとベンジーニは九念のはからいでなかよくなるのだ。


 というか、いま九念はどこにいるのだろうか。

 まだ見ぬ九念におもいをはせながら、私とヒルダはホテルへとはいった。

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