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「……」

 騎士はなにもいわず、こちらをむいた。

 顔は兜(アーメット)のバイザーで見えない。


「……あんた、何者でしてよ?」

 黄金の鎖があらわれ、ヒルダの腕と指にまきつく。

 どうやら『大神産巣日』を発動したらしい。


「……もしや、人間か?」

 ひくい声が、バイザーのしたからひびきわたった。

 というか、日本語をはなしている……ッ!


「ええ、人間ですが。それと、この非礼にはなんのかんけいがありますの?」

 ヒルダが私のスマホの残骸を足先でしめす。


「……ためしたんだ」

 騎士は日本刀を両手でかまえた。


「貴様たちが魔王の手先かどうか」

「あらあら」

 ヒルダの足がおもいっきり、スマホの残骸をふみつけた。

 バキッと残骸がへっこむ。


「それはなんて、不愉快なのでしょう」

 あぁ、私のスマホがぁぁぁ!

 そんなさけびは、彼女の耳にとどかなかったようで。


 ヒルダの鎖が、私の胸へととんでいき、溶けるように体内にはいっていった。


「えっちょっと、ヒルダ嬢?」

「では、最強の下僕。あの鎧をわからせてくださらない?」


 私の体が勝手にうごきだす。

 そして、騎士のもとへとつっぱしっていった。


「ねぇ、ちょっと、本当にムリだしぃぃぃ!」


 騎士の刀が、私の頭めがけてふりおとされた。

 ひぃぃ……目をとじたのもつかのま。

 私の頭に直撃した刀がくだけちった。


 えっ――


「「えええええぇぇぇぇぇ!」」

 私と騎士が同時にさけぶ。


 いや、まぁ、そうか。


 だって私、強化されているもんな。

 私の手が拳をつくり、騎士に直撃する。

 鎧がへっこみ、相手の腹へとめりこんだ。


「ぐへぇぇぇッ!」


 騎士は後方へとふっとんでいった。一回、二回とバウンドして、地面にふす。


「……」


 同時に私も地面にたおれた。

 また、自分以上の力をだしたガタがきたらしい。


「よくやりましたわ」

 ヒルダが私の顔をのぞいた。


「……私がたたかう必要あった?」

「大アリですわ」またも即答だった。


「あなたにはもっと、あたくしの強化に慣れていただかないと。こんなに、すぐたおれられたら、魔王をたおせませんもの」

 これって慣れるものなのかな……。

 作中では慣れなんて描写はない。


「くっくっく……」

 騎士があやしげな笑い声をあげ、おきあがった。


「あら、まだ元気なんですのね」

 ヒルダの腕にふたたび、鎖がまきつく。

「いやいや、まってッ!」

 騎士が必死そうにさけんだ。


「ごめん、ガチでごめん。もうなにもしないからッ!」

「信用できませんわ」

 ゆっくりとヒルダが、騎士へとあゆみよる。


 そこに。


「まって!」

 たかい女の声がひびきわたった。


 ヒルダのまえに白髪の女がたちはだかっていたのだ。

 両手をひろげるその姿は騎士をまもっているようだった。


「あ、あなたは……」

 ヒルダが足をとめる。


「う、ウソだろ……」

 私も突如あらわれた白髪の女を凝視していた。


「おひさしぶりでございます。ヒルダ嬢」

 女がかるく会釈をする。


「わたくし、パンシー・マウロニ。ただいま参上いたしました」

 彼女――パンシー・マウロニは――

『災恋』の舞台である乙女ゲームのヒロインだった。

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