3
――目がさめたら、すべてが夢だった。
そんな展開がおこることはなかった。
なにせ私のまえに、ヒルダがたっているのだのだから。
「あれ、ここはどこだしッ!?」
まわりは木々がおいしげる森だった。
なんとなく、日本の森とは雰囲気がちがう。
「どうやら、むりやり転送されたみたいでしてよ」
「て、転送……?」
「えぇ。見たかんじ、ここもあたくしたちの世界でなさそうですわ」
あたくしたちの世界って――『災恋』の世界?
「ねぇ、ヒルダ」
声をかけたら、ヒルダが目くじらをたてた。
「ふぅん、またもや、私をよびすてにするのね?」
げっ、そうだった。
はじめてあったとき、よびすてしたらおこっていたような。
しかたないので『ヒルダ嬢』とよびなおす。
「じゃあ、ヒルダ嬢。なぜ、この世界にいるんだし?」
なぜラノベのキャラがこの世界にいるのか――根本的な疑問だった。
「わからないですわ」即答だった。
「きがついたら、この世界にいたの」
つまり、しらずしらずのうちにラノベの世界から転送されたと。
「あてもなくあるいていたら、あなたを見つけたわけ」
「それで、私をたすけたと……」
たすけてくれたのはありがたい。
だけど、まさか下僕にされた挙句……ドラゴンとたたかわせられるなんて……。
あっ、そうだ。
「私が魔王をたおす鍵ってどういうことだし?」
あの質問のこたえを、ききそびれていた。
「あなたの右手」
いわれてみて、私は自分の右手を見る。
そこには狼をデフォルメしたタトゥーがはいっていた。
「なっ、なんだし、これ?」
「それは聖王の証(あかし)。証をもつ者は魔王をたおせる唯一の存在――聖王だけですわ」
つまり……。
「あなたは聖王なんですの」
……ウソだろ、おい。
私は驚愕せざるをえなかった。
自分が聖王になっていることもそうだが、
『聖王の証』や『聖王』は、まだ世にだしていない自著の設定だったからだ。
もちろん、担当さんにもはなしていない。
「本になっていない内容も反映されているなんて……」
「そんなことより」
ヒルダはきびしい顔つきで、木々のむこうを見つめる。
「まずは、ここからぬけだしましょう。ここで魔王の手先にこられたら厄介ですわ」
それもそうだと同意して、私たちは手あたり次第にすすむことにした。
◇
森をぬけたさきには、黒いコンクリートの道路があった。
わきにある三角形の道路標識のなかには、馬にのった人のシルエットがかかれてある。
「これは……イギリスの道路標識」
イギリスでは、いまでも馬にのった人が道路をとおっているし、警察も馬にのって巡回しているらしい。テレビで見た。
「ここは、イギリスってことか……」
もしそうだとしたら、とおいところまできちゃったな。
「ねぇ、『いぎりす』ってなんですの?」
そうか、ヒルダはちがう世界からきたからしらないのか。
口だけで説明するのもわかりづらそうなので、スマホの地図を見せることにした。
しかし、
「電源がつかないし……」
なぜかわからないが、スマホが起動しない。
「でんげん?」
ヒルダはさらに首をかしげる。
「いや、この機械はスマホっていうんだけど、電源がつかなくて……」
しどろもどろに説明をしている最中、ヒルダの目尻がつりあがる。
えっ……私なんかしたし?
そう不安におもった瞬間。
ザシュッという斬撃音とともに、私のスマホが横一文字にわれた。
「十花ッ!」
ヒルダが私の背に手をまわし、ギュッとひきよせる。
「……!」
ふんわりとした感触が顔面をおおう。
私の頭がヒルダの豊満な乳にうまったのだった。
「ひ、ヒルダ嬢……!」
しあわせな感触が脳へとつたわってくる。
うぅ……息苦しいけど、ずっとこのままでいたいような……。
しあわせの絶頂もつかのま。
「もう大丈夫でしてよ」と、私をはなした。
ヒルダの視線のさきには――全身を鎧でかためた騎士がたっていた。
その片手には日本刀がにぎられている。
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