第4話 宿泊
04
僕らは駅の電光掲示板を見上げて、分かりきったことを確認する。
事前に携帯端末で調べて分かっていたことで、要するに案の定だったわけだが、表示は「本日の営業は終了しました」だった。
「……やっぱり、間に合わなかったな」
「そう……ですね。ごめんなさい、和彦さん」
「いや、燐のせいじゃなくて、僕の体力の無さが原因だから」
山を降りるのに結局三時間。それからバス停で一時間待ってから三十分バスに揺られた。ようやくついた最寄り駅でも一時間待ってからローカル線で一時間半。それでやっと地方都市の駅についたところだった。もう夜十時を過ぎている。
「どこかホテルでも探すしかないか」
都内へ戻る便はもうないが、そこそこ大きな駅だし、周辺にビジネスホテルくらいあるだろう。
「か、和彦さんとホテル……」
「なんでそんないかがわしいことするみたいな言い方するかな……」
見れば、燐は露骨に顔を赤らめている。
「だ、だってそんな、ホ、ホテルなんて行ったこと無いですし、私はその、まだ心の準備が」
燐はなにを考えているのか、手をぶんぶん振って慌てている。
「? 心の準備もなにも、家も母さんはだいたいいないし、いつもとあんまり変わらないでしょ」
「そ、そうは言いますけど……で、でも私、和彦さんならなにをされても大丈夫ですから!」
その必死の弁明に、僕はなんとなく察する。
「あの……ホテルを探すって、普通のビジネスホテルのことだよね?」
「えっ?」
「……」
「あう……、その……そそそうですよね。わ、私ももちろんビジネスホテルのことを言っていたつもりですよ。でもその、ええと、やっぱり心の準備が……あうう」
そう言ったきり、燐は目を泳がせて黙り込んでしまう。さっきよりもさらに顔を赤くしているから、それが苦しすぎる言い訳だと気づいたのだろう。
……あれから、燐は何度か病院に谷口先輩の見舞いに行っている。きっと変なことを言い含められてたりするんだろう。そうに違いない。
追求するのはかわいそうだから、何か言うつもりなんてないけれど。
そう思ったけど、燐は恥ずかしそうにはにかんだまま続ける。
「まあ、まあでも……初めてがビジネスホテルでも、私はいいんですけど」
「おい」
何の話をしているんだよ。
そこはあきらめろよ。
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